このエントリーをはてなブックマークに追加

台風直後でも遅れなし オンタイム開幕を実現した“宍戸”の舞台裏【現地記者コラム】

国内男子ツアーの今季2戦目となるメジャー「BMW 日本ゴルフツアー選手権 森ビルカップ」は、プレーオフの末、45歳の岩田寛が大会2勝目を飾った。これまで2000年、03年に伊澤利光、01年、10年に宮本勝昌が2勝を挙げているが、ともに開催コースが異なるため、この宍戸で2勝を挙げたのは岩田が初となる。

【写真】大会初日の舞台は台風の痕跡がなかった

実は大会前、予定された4日間で競技が完結するかどうかは不透明だった。開催前の3日(水)、台風6号の影響でゴルフ場は全面クローズ。最大瞬間風速は18m/s、降水量は最大25mmを記録し、雨は午後4時過ぎまで降り続いた。その影響で周辺の屋外練習場もネットが下がり、営業を停止する施設が相次いだ。インドアのシミュレーターで調整する選手もいれば、あえてクラブを握らず休養に充てる選手もいた。

初日のトップスタートは午前6時に予定されていた。多くの選手や関係者が、オンタイムでのスタートは難しいと予想していた。優勝した岩田も初日のラウンド後、「絶対にスタートが遅れると思っていたので、コース管理の方はすごいなと思います。めちゃくちゃきれいですし、グリーンもべちゃべちゃではないですし、バンカーも川の跡みたいなのもなかったです」と驚きを口にした。筆者も同様だった。前日の天候を見て、「宍戸は水はけがいいことで知られているが、この雨と風ではさすがにスタートは遅れるのではないか。初日は日没サスペンデッド、最悪の場合は月曜日決着もあり得るのでは」と感じていた。しかし翌朝5時過ぎにコースへ入ると、その不安が申し訳なく思えるほど台風の痕跡はなかった。6時ちょうどにティオフした第1組に帯同したが、フェアウェイでボールが埋まることはなく、グリーンに着弾したボールは乾いた音を立てた。バンカーは水のが流れた跡もなく、まっさらに奇麗な状態となっていた。午前7時20分スタートで「66」をマークし2位発進した坂本雄介も、「ゴルフ場さんが相当頑張ってくださったと思う。朝は少しやわらかかったですけど、自分の想像以上に硬かった」と話す。例年通りの難セッティングは維持され、選手たちを苦しめた。

なぜ、ここまでの状態に戻すことができたのか。宍戸ヒルズカントリークラブの総支配人・草野通朗(みちろう)氏はこう語る。「天気予報が当たりますので、何時から何時まで雨が降り、どんな風が吹くのか、いつ頃から雨が弱まり、いつ作業に入れるのか――そうした点をすべて見極めながら、綿密に計画を立てました。うちは36ホールで社員数も多く、静ヒルズとも連携しています。いわば54ホールが一つのゴルフ場のように機能しています。宍戸だけでも約30名のコース管理スタッフがいますが、静ヒルズからの応援、クラブハウスのスタッフも含めると約90名体制で、朝6時のスタートに間に合わせようと準備しました」同じ森ビルグループの静ヒルズカントリークラブ(茨城県)からも応援が入り、作業は雨の止まない午後1時30分に開始。午後7時30分の日没後も続き、真っ暗になるまで行われたという。「最終的にすべてを確認し、翌朝ももう一度点検しました」と振り返る。作業は徹底していた。ティーイングエリア、フェアウェイ、ラフ、グリーンの排水対応に加え、バンカーの排水と砂の復旧、さらにコース上の枝や落ち葉の回収まで行う。ただ端に寄せるのではなく、すべてを集めて軽トラックや2トンダンプに積み込み、10台以上で搬出した。それは単なる応急処置ではない。枝一本まで回収し、観客動線の安全確保まで徹底する。その範囲はコースにとどまらず、練習場やクラブハウス周辺にも及ぶ。翌朝は午前4時から再び作業を開始。トーナメントディレクターとも連携しながら細かな情報共有を行い、「結果、なんとか6時に間に合う状態にできました」と安どした。

これだけの大規模コースであることも強みだ。「道具も普通のゴルフ場以上にブロワーなどの台数も相当持っていますし、人もいます。そういう点で普通の18ホールのゴルフ場よりは、人も機械も多いというのが強みとなっております」。その総合力が作業スピードの速さにつながり、厳しい状況の中でもコースコンディションを整え、試合に間に合わせることができた。コースの完成度の高さは際立つが、草野氏は「何といってもツアー選手権というメジャートーナメントを継続して開催させていただいている。やはりJGTOさんからのご指導が非常に大きいです」と日本ゴルフツアー機構(JGTO)とのこれまでの連携も要因の一つだという。初日は午後6時34分に全選手がホールアウト。日没予定は午後6時53分。30分でもスタートが遅れていれば、日没サスペンデッドは避けられなかっただろう。こうした対応力の根底にあるのは、日々の積み重ねだ。

「私たちが目指しているのは、“試合が止まらない”コース。強い雨でもグリーンが浮かない状態を作ることです」そのために、これまでも暗渠排水、コアリング、目砂入れを繰り返し、「悪いところを改善する」作業を続けてきた。バンカーも毎年改修を重ね、「次のツアー選手権に備えることを繰り返してきた」と明かす。実際、この日は200ミリ近い雨が降ったが、「グリーン上はプレーできる状態だった」という。「4日間で試合を成立させるためには、初日を定刻にスタートすることが重要。そのために全社で準備しました」。つまり、宍戸のすごさとは“特別な一日”ではなく、“積み重ねの結果”にある。結果として大会は予定通り4日間で成立した。また、6日(土)には『かさまスポーツ&フードフェス』も開催され、約9260人が来場。19店舗のフード出店に加え、スナッグゴルフや野球、ボルダリングなどを体験できるスポーツエリアも設けられ、子どもたちの笑顔が広がっていた。さらに午後7時45分からは、野村花火工業の協力による花火大会も実施。約30分間にわたり打ち上げられた花火は圧巻で、ひと足早い“夏の風物詩”を感じさせた。“何もなかったかのように試合が始まる”――。その裏にある努力こそが、宍戸ヒルズの本当の価値だ。今回の一戦は、その力を改めて証明した大会だったと言えるだろう。だからこそ、来年の開催が今から待ち遠しい。(文・高木彩音)

<ゴルフ情報ALBA Net>

【関連記事】