<ソニー 日本女子プロ選手権 最終日◇14日◇大洗ゴルフ倶楽部(茨城県)◇6840ヤード・パー72>金澤志奈が女子プロNo.1決定戦でツアー初優勝を挙げた。いつもは表情を変えないクールな選手だが、優勝パットを沈めると愛らしい笑顔とともに涙を見せ、そしてグリーンサイドに申ジエ(韓国)の姿を見つけるやいなや、大粒の涙が止まらなくなった。
金澤にとって、ジエは師匠である。中学3年生の頃から日本ツアー1勝の金愛淑(キム・エイスク)に指導を受け始めたことがきっかけだった。キムは外国人初の日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)正会員であり、韓国出身プロの草分け的な存在として活躍。「合同合宿をするなかで参加してくれた時があって」とジエと出会い、慕う存在になった。オフには合宿を組み、最近では2人で時間を過ごすことも多い。「真横で、朝から夜まで2人とも頑張っています。一緒に練習するから(よく分かる)。遠いところから顔や姿勢を見たら、きょうは大丈夫だと思っていました」とジエもしみじみ。苦しい時間も続く中、最後まで耐え続け、桑木志帆とのプレーオフに勝利。師匠の前で初優勝、さらに地元V、メジャー制覇という快挙まで成し遂げた。金澤はジエの胸に飛び込むと、長い時間、ハグを交わした。『おめでとう。自分の優勝では泣いたことがないのに泣いちゃった』と声を掛けられた。これまで“ジエさんの前で勝ちたい”という言葉を繰り返していた。「優勝が一番の恩返しだなと思っていました。ジエさんの前で自分で優勝をつかみ取れたことは本当によかった。まだまだジエさんには追いつかないんですけど、もっともっと、頑張っていけたらいいなと思います」。ツアー通算29勝のジエは、“妹”の勝利を心から祝福した。先にホールアウトを済ませると、「志奈も私の前で優勝したい気持ちもあると思うので、待ちます。コースに入るのは逆にプレッシャーになると思うから、18番で静かに待っているのがいいかな」とそっと見守った。優勝する瞬間だけではなく、表彰式も感慨深そうに見届け、自らのスマホで写真を撮影する姿もあった。まるで自分のことのように喜んだ。大勢のファン、家族、そしてジエの前で挙げることができた初優勝。ひとりだけ、優勝した喜びを一緒に共有できなかった恩人がいる。キムは仕事の都合上、コースに足を運ぶことができなかった。「今まで育てていただきました。金愛淑プロに出会わなかったら、いまの私はいないと思います」。この後、じっくりと感謝の気持ちを伝えたい。(文・笠井あかり)
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