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父、所属先への感謝で号泣 柏原明日架の6年ぶりVを支えた“2人のコーチ”「これ以上、這い上がれないと思ったことも」

<NEC軽井沢72ゴルフトーナメント 最終日◇17日◇軽井沢72ゴルフ北コース(長野県)◇6625ヤード・パー72>初勝利含む2勝を挙げたのが2019年。それ以来となる優勝が決まる70センチのパーパットを沈めると、柏原明日架は左手を力強く天に向かって上げた。「6年は長かった。6年以上経っているくらい長く感じました。コロナもあったし、無観客でいつもサポートをしてくれる両親も大会に来られなかったり。よく頑張ってくることができたなと思う」。グリーンを降りると、会場を訪れていた父・武道さんのもとに駆け寄り抱擁。すぐさま涙があふれてきた。

<写真>父への感謝の言葉とともに涙が…

勝負強さを見せつけるような18ホールだった。首位に並んでスタートしたルーキーの寺岡沙弥香が1番でバーディを奪い、いきなり1打のビハインドを負った。だが、相手がスコアを落とし並ぶと、8番パー3では右横エッジ13ヤードから48度のウェッジでチップ・イン・バーディを奪い、単独首位に躍り出た。それでもシーソーゲームは終わらない。再び11番でかわされたが、15番で追いつき、そして16番で4メートルのバーディパットを沈め、またもリーダーボードの最上位に名前を載せる意地のプレー。「ずっと1打、2打の争いを朝から続けていたけど、寺岡さんのスコアはあまり考えないようにしていました。ボードは確認したけど、最終的にどうなのかは考えないように」。とにかく自分の世界に入りこみ、カップを見つめ続けた。それが象徴されたようなプレーを、グリーン上で何度も目撃することになった。9番、10番、14番ではそれぞれ3メートルを沈める“ガッツパー”の連続。涼し気な表情でピンチを断ち切り、流れを手放さない。ライバルの寺岡も「柏原さんは絶対にボギーを打たないと思った」というほど、スキのないプレーだった。本人も「パッティングが決まってくれたのが1番大きかった」と振り返る部分だ。“いろいろあった6年間”のどん底については、「シードを落とした時期」と答える。プロ2年目の15年に初めて手にし、そこから守り続けてきたシード権を、メルセデス・ランキング79位と低迷した22年に手放した。翌23年も復帰できず、「これ以上、這い上がっていけないんじゃないかと思った。正直、優勝するイメージなんて、全然湧かない時期でした」とも明かす。そんな時期を支えてくれたのが、“2人のコーチ”だった。1人は、ゴルフを始めた時から指導を受けてきた父。「ケンカもたくさんしたし、距離を置いた時期もあったけど、自分が思ってるよりも父の方が自分のことを理解してくれていた」という存在だ。そしてもう1人が、23年から本格的に師事する森守洋コーチ。「QTに行ったりするなかで、もうちょっと違う風を取り入れた方がいいんじゃないかと父に言われて」。この言葉に背中を押され、初めて父以外の人から指導を受けることを決意した。“二頭体制”にした理由について、柏原はこう明かす。「子供の時からずっと父がサポートしてくれている。自分では分からない精神的な部分は父の方が理解してくれる。1人ではなく、コーチが2人いるという気持ちを理解してもらえるなら森さんにお願いしたい、と話したのは今でも覚えています」。今週はお盆時期で仕事が休みになったため開幕前から足を運んでくれた父と、森コーチの指導を受けて試合に臨んでいた。今では「思い返すと、6年の中で誰か1人でも欠けていたら、この優勝は成し遂げられなかった」というほど強固な関係になっている。その父は、娘のひさびさの晴れ舞台を見て「さすがにウルっときた」。込み上げてくる熱いものを感じていた。何度もパーパットでピンチをしのぎ、ボギーなしでホールアウトした姿を見て、「昔からあれしかないんです」とこぼす。優勝会見では、「たくさんの方に心配や迷惑をかけて、ゴルフを続けてもいいのかなって思う時間もあった」と言うと、再び涙をこぼす。24年に結婚を発表した男性と、今年になって離婚していたことも明かすなど、波風の多い6年間を過ごしてきた。そして、所属先の富士通に対しても「1日でも早く恩返ししたいって思って、今までずっと頑張ってきた。少しは恩返しができたんじゃないかな」と言葉を振り絞る。「私1人だけの優勝じゃないと、この歳になって心から思います」。涙目で感謝を伝えた。今後の目標を聞かれた時も、「富士通さんの大会で勝ちたいです。大東建託(大東建託・いい部屋ネットレディス)で彩香さん(所属選手の渡邉彩香)が優勝しているの見て、『めちゃくちゃかっこいいな〜』って思ったんです」という想いを明かす。次なるターゲットは10月17〜19日開催の「富士通レディース」(千葉県・東急セブンハンドレッドクラブ)。だが、そこまでに新たな勝利をつかんでもいい。来年1月30日に30歳を迎える柏原の、止まっていた時計の針が再び動きだした。(文・間宮輝憲)

<ゴルフ情報ALBA Net>

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