<明治安田レディスゴルフトーナメント 最終日◇20日◇仙台クラシックゴルフ倶楽部(宮城県)◇ 6642ヤード・パー72>今季出場17試合目での初優勝を、小祝さくらは18番グリーンが望めるクラブハウスの階段で見守っていた。正確には、遮っていた木が邪魔で、その状況までは見えず、大会関係者に教えられて知ることに。3打差の10位から最終日をスタートしたため、自分がホールアウトしてから40分以上が経過して届いた吉報だった。
「トップ10にはたくさん入っていたのに、優勝はなかなかできない感じがあった。本当に今回優勝できてうれしいです」この試合前までの出場16試合でトップ10入りは10度。実に62.5%という高確率で上位にはいたものの、大会通じて納得いくゴルフはできず勝利を逃してきた。クマ出没で、一時は開催が危ぶまれただけに、「3日間試合になってしまったんですけど、開催までいろんな方が準備をして、頑張ってくれたおかげで開催できたと思う。本当に最後までプレーできて良かったなと思います」と感謝も忘れない。1打差の2位に4人が並んだ状況を見ても分かるように、その最終日は、大混戦状態で続いていった。一時はトップに7人が並び、さらに伸ばし合いの展開もあって、誰が抜け出してもおかしくない状況。それは「途中でリーダーボードを見たとき、12アンダーがたくさんいた。いつ追いつかれてもおかしくない。(15番の)ボギーのときも抜かれたりという感じで、厳しいかなと思っていた」と本人も感じていたほどだ。そのなか、優勝を決定づけたのが16番パー5だった。ここは400ヤード台のパー5で、3日間通じて難易度が一番低かったチャンスホールだ。ここで小祝は、58度のウェッジを握り、グリーン左奥から10ヤードのアプローチ(3打目)を迎えた。「スライスラインがきつかったので、入れるの(チップイン)は厳しい雰囲気もありました」。しかし、これが決まり値千金のイーグルに。再び首位に躍り出た。「前のホールがボギーだったので、絶対にイーグルを取るぐらいの気持ち。あれがなかったら絶対に優勝はできなかったと思います」。キャディの『入れ!』の声にも熱が帯びる。それは、プレーヤーが「ビックリしました」と振り返るほど。これを決めた後も「とりあえず伸ばさないと、という気持ちでプレーしていました」と、確信までは至らなかったが、結果的に決勝の一打になった。通算12勝目。初優勝した2019年の「サマンサタバサレディース」から7年連続優勝をつかんだ。これは継続中の選手のなかで最長だ。その“秘訣”について聞かれると、「もともとケガをしないことが取り柄で、そこが強みかなって思っていた」。無事之名馬。試合も休まず出続ける鉄人ぶりも、強い体が基礎にあってのもの。ただ、「年を取ったせいか…」と、これまで小祝からは聞いたことのない類の不安も明かす。2週前の「資生堂・JAL レディスオープン」のこと。「ディボット跡から打ったら、そこからずっと右手が痛くて」と故障を抱えていた。「さらに今週は左手首を痛めました」とも。今週痛めたのは初日で「急に痛くなった」と明かす。「左手は治りつつある。日に日に痛みもよくなっているんですけど、右手は全然よくなる気配がない」。それにより、スイング時にいい具合に力が抜ける“功名”もあったというが、万事順調の勝利というわけではなかった。この後の目標を聞かれると、「複数回優勝とメジャーで勝つこと」を挙げるが、直近には大きなターゲットがある。それが31日からウェールズで始まる「AIG女子オープン」(全英)だ。「そこに向けてずっと調整していた」と気合も入る。それと同時に「今回は竹田麗央ちゃん、勝みなみちゃんとか、みんなに向こうで会える。みんな一軒家を借りているので、お家でなんかつくったりして、ご飯を食べるのが楽しみです」という部分にも胸が躍る。明治安田を終えると、福岡県で「大東建託・いい部屋ネットレディス」に出場し渡英。全英後は日本に戻り、すぐさま地元開催の「北海道meijiカップ」に出場する。「大事な大会も立て続けにくるので、毎試合毎試合全力を尽くして頑張りたい」。多少の痛みはあっても、その強さを支える鉄人ぶりは、今年も健在だ。後続の結果を待って優勝する選手は、プレーオフに備え、練習グリーンでボールを転がしているケースが多い。ただ、小祝は「準備したかったんですけど、暑すぎて練習できる状態じゃなくて、ロッカーで1回クールダウンして待っていました。でも暑くて外に出られなくて」とクラブハウスで戦況を見守った。もし追いつかれていたら? と聞かれると、「急きょ練習なしで行こうかなって感じでスタンバイしていました」とも。この肝っ玉の強さも、勝利を積み重ねてきたひとつの要因かもしれない。(文・間宮輝憲)
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