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熱戦とすてきな物語 PGAツアーらしいサンデー・アフタヌーン【舩越園子コラム】

今週のPGAツアーは、今季第2戦の「ソニー・オープン・イン・ハワイ」が開催されたが、開幕前はワイアラエCCには姿が無い大物たちのビッグニュースが次々に流れ、ゴルフ界の話題を独占していた。

フィアンセと優勝カップを掲げて笑顔【写真】

1月8日にはタイガー・ウッズ(米国)がナイキとの27年間に及んだパートナーシップの終了を発表し、ゴルフファンを驚かせた。10日にはR&Aのマーティン・スランバーズCEOが2024年いっぱいで退任することが発表され、さらにはDPワールドツアーのキース・ペリー会長も今年4月で退任し、母国カナダに戻ってスポーツ関連企業のトップに就任することが発表された。ワイアラエでクラブを振っていた選手たち、とりわけ欧州出身のプレーヤーの間では動揺も見られた様子だが、ひとたび試合が始まれば、目の前のプレーに集中するところは、さすがはPGAツアー選手たちだと、あらためて感心させられた。日本勢はPGAツアー選手の松山英樹を筆頭に早稲田大学2年生のアマチュア、中野麟太朗まで総勢8人が参戦。4人が決勝進出を果たした。最終日を首位と3打差の4位タイで迎えた蝉川泰果には初優勝の期待がかかっていたが、残念ながらサンデー・アフタヌーンでの実力発揮には至らず、終わってみれば、蝉川、松山、久常涼の3人が30位に並び、桂川有人は74位タイに終わった。

一方、優勝争いは大いに盛り上がり、終盤は首位に5人が並ぶ大混戦になった。トータル17アンダーでフィニッシュしたアン・ビョンハン(韓国)、キーガン・ブラッドリー、グレイソン・マレー(ともに米国)の3人がサドンデス・プレーオフへ突入。30歳のマレーは2017年「バーバゾル選手権」で初優勝を挙げたが、その後はシード落ちし、今季はコーンフェリー・ツアーを経てPGAツアーに復帰したばかりだ。昨年の秋に痛めた腰はいまなお完治しておらず、心身ともに不安要素が見て取れた。32歳のアンは、昨年、ドラッグストアで購入して服用した咳止め薬がドーピング違反とされて3カ月の出場停止処分を受け、今年1月から戦線復帰したばかりだ。そんな2人と比べると、メジャー1勝を含む通算6勝を誇り、世界ランキングでも16位に付けていた37歳のベテラン、ブラッドリーは圧倒的に有利に見えていた。だが、最後の最後まで、何が起こるかわからないのがゴルフである。プレーオフ1ホール目の18番はパー5。フェアウェイを捉えられなかったのはマレーだけだった。彼のボールは左サイドのパームツリー(ヤシの木)の葉に当たって深いラフに落ち、2打目はフェアウェイへ出すのが精いっぱい。3打目はピン左12メートルに止まった。

だが、フェアウェイを捉えたブラッドリーもアンも2オンはできず、ブラッドリーは第3打でピン6メートル、アンは1.5メートルに付けた。最も長いバーディパットを残したマレーは、最も勝利から遠ざかったかに見えていた。しかし、マレーが12メートルを見事に沈めると、ブラッドリーもアンもバーディパットを外し、終わってみれば、一番不利に見えていたマレーが形勢逆転による勝利を手に入れていた。米ノース・カロライナ州出身のマレーは名門アリゾナ州立大学を経て、2015年にプロ転向。わずか2年後の2017年にPGAツアーで初優勝を挙げ、彼のキャリアは順風満帆に見えていた。しかし、不調は容赦なく誰にでも襲い掛かるもののようで、シード権を失ったマレーは下部ツアーへ転落。そして今年、ようやくPGAツアーへ戻ることができ、6年5カ月22日ぶりのカムバック優勝を挙げた。「ハードワークが報われたという思いでいっぱいだ。決して容易な道のりではなかった。ゴルフをやめようと思ったこともあったが、ネバーギブアップの精神で頑張り続けてきた。ここまで戻ってくることができたのは神様のおかげだ」世界のゴルフ界はビッグニュース続きで騒々しい1週間だったが、最後には熱戦と驚きの展開、そして苦労人が報われたすてきな物語が披露され、実にPGAツアーらしいサンデー・アフタヌーンだった。文・舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

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