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病気、シード喪失、夫への厳しい言葉… 苦しい旅路のすえにつかんだ11年分の涙【2022年涙のワケ】

新型コロナウイルスの影響がまだ残るなか、国内男女ツアーは2022年のシーズンを終えた。ただ、そんななかでも“初優勝”“復活”など印象的な場面の数々は、明るいニュースとして伝えられた。そしてこのシーンを彩った選手の涙。さまざまな理由で流されたこの涙にスポットライトを当て、シーズンを振り返ってみよう。

これまでの苦労が報われた瞬間、藤田さいきはその場にうずくまった。11年間たまっていた涙は止まらなかった。起き上がっても、アテストに向かう時も、表彰式でも―。ほほは濡れたままだった。

本当に長かった。前回の優勝は2011年の10月。前年にはメジャーも制してイケイケだった。その年の11月には同級生の和晃さんと結婚。ゴルフも私生活も順風満帆だった。

だが、そこから苦しい旅が始まる。成績が上がらず、シードを確保するのがやっとになってきた。さらには子宮の病気を患った。自身だけではない。ずっと自分のゴルフを支えてくれた父・健さんも様々な大病に襲われた。クラブを置きたい。そんな気持ちが頭をよぎることは一度や二度ではなかった。

そんな藤田を和晃さんは献身的にサポートした。ツアーに帯同するだけでなく、藤田に何かあってはいけないと包丁も持たせず。ゴルフ場を後にすればマッサージを行うなど、体のケアの面も支えた。何よりも言葉と態度で励まし続けた。

しかし、結果が出なければ厳しい言葉が飛ぶのがプロの世界。「結婚してダメになったと(和晃さんが)直接言われているのも見ていた」。それでも和晃さんは変わらずポジティブな言葉で励ましてくれる。心無い声を耳にするたびに申し訳ない気持ちと、「やらなきゃいけない」という思いがつのる。しかし、結果にはつながらない。ついには19年、シードを喪失し、自身初のQTへと行くこととなってしまう。

それでも持ち前の明るさで腐らなかった。それどころか苦しい姿を表に出さなかった。どれだけ自分をきつく追い込む練習をしようと、飄々(ひょうひょう)としたスタイルを貫いた。ときには三味線を弾くように見えたかもしれない。だが、それは和晃さんの言葉を借りれば「人前でやるのが苦手なタイプ」で、努力している姿を見せるのは恥ずかしいという昔気質の照れ隠し。その裏では必死にもがいていた。

コロナ禍により統合となった20-21年シーズンで賞金ランキング28位に入り、シードに復活して迎えた22年。ようやく心技体すべてが整った。6月の「宮里藍 サントリーレディス」では1打届かず2位となったが、その権利で初めての海外メジャー「AIG女子オープン」(全英女子)にも出場。「わたしはもっとうまくなれる」。世界の舞台で新たな刺激も受けた。

そうして迎えたシーズン終盤の愛媛決戦。一緒に3日目に抜け出した鈴木愛との一騎打ちとなった。最終日は前日ともに笑ってプレーしていたのがウソのように張り詰めた空気が組を包んだ。その緊張感はギャラリーへと伝わり、一言も発するものはいなくなっていた。

1打差で迎えた最終18番。わずか1.2メートルが極限まで遠くに見えた。「どちらに切れるかわからない」。決して簡単ではないライン。だが、これまでのことを思えばなんてことはなかった。ど真ん中から流し込むと立ってはいられなくなった。

優勝スピーチでは「伝えたいことがたくさんありすぎて、ここでは伝えきれないです。みなさんに支えられてここまで来られたことに、本当に感謝したいです」。そして優勝会見では「結婚してから長かったですね。険しく高い壁でしたけど、素晴らしい景色が待っていました」と和晃さんをはじめとする全ての人へ何度も感謝の言葉を述べた。

今年メルセデス・ランキングトップ10に唯一30代でのランクインとなった藤田。経験を強さに変えて、37歳となる来年もツアーを盛り上げる。

<ゴルフ情報ALBA.Net>

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