このエントリーをはてなブックマークに追加

「ゴルフが自分を変えてくれた」 ツアーデビューを果たした2世プロ・池内慧の戦い「今度は自力で出たい」

オープンウィークの続く国内男子ツアー。次戦は「日本プロゴルフ選手権」(8月4〜7日)となるが、7日から2日間、「日本プロ」の出場権をかけた最終予選会が行われる。その中で強い意気込みで臨むのが池内慧(けい)、27歳だ。レギュラーツアー1勝、シニアツアー2勝の池内信治を父に持つ、二世プロゴルファーである。

■ゴルフを始めたきっかけは石川遼

父の背中を追うように2020年のプロテストに合格して21年1月にプロゴルファーとなった池内慧。ツアーの出場権をかけた昨年のクオリファイングトーナメト(QT)は1次で敗退。しかし、先月開催された「JAPAN PLAYERS CHAMPIONSHIP byサトウ食品」で特別協賛社のサトウ食品の主催者推薦でツアーデビューを果たした。

かつて父が仕事場とし、夢にまで見た舞台は簡単ではなかった。「今までで一番緊張しました。練習ラウンドはアンダーパーを出せていたのですが、緊張感からかびっくりするようなミスショットが出たり、ゲームが始まったらいつも通りにはいかないですね」。顔をこわばらせながらティオフ。体が思うように動かずに自分のゴルフができない。初日はバーディが奪えず「81」。2日目は父・信治も会場に駆けつけたが2つのダブルボギーが響いて「74」。2日間トータル11オーバー。予選通過ラインの4アンダーに遠く及ばず、出場153人(棄権者を除く)中、151位タイに終わった。

父の池内信治は1981年にプロ入りし、93年にはレギュラーツアーの「ポカリスエットオープン」でツアー初優勝を遂げるなど活躍し、各種メディアにも出演していた。二世プロは父の影響で幼少期からクラブを握っている印象があるが、慧がゴルフを始めたのは16歳。「石川遼くんの活躍をテレビで見て。ゴルフってどんなもんだろう。自分もできるかな」と、20代のプロによくある動機と同じだ。「父親がプロゴルファーだったのは知っていましたが、興味なかったんです。テレビも見ないですし、帰ってきたら日焼けして帰ってくるみたいな(笑)」。通信制の高校に進学後、10代で大活躍する石川遼の姿を見てゴルフに興味を持つと、父のいる練習場でボールを打ち始めた。

「昔は、勉強は好きじゃなかったですし、サッカーやバスケボールとかやっていましたが、一生懸命やっていなかったですね」。白い小さなボールを思い通り打つことはそう簡単ではない。うまくいかないことに逆にのめり込んだ。練習場の掃除をする代わりにボールを打たせてもらうなど、高校時代はほぼ毎日ボールを打って過ごした。

■プロテスト合格で人生初の達成感を味わう

高校3年時に競技にも出場するようになる。「初めて出た群馬県ジュニアで、まぐれで優勝しちゃって関東ジュニアに出たんです。それが今回(JAPAN PLAYERS CHAMPIONSHIP)みたいなパターン。こんなにうまいやつがいるんだって力の差を感じました」。群馬県ジュニアでベストスコアの「72」をマークして、3日間競技の関東ジュニアにコマを進めた。2日間「83」、「88」とここでも本来の力を出せずに96人中93位で予選敗退に終わっている。

この悔しい経験から「もっと上手くなりたい」とプロの道を意識するようになる。高校卒業後はゴルフ場の研修生になり、25歳のときに5回目のプロテストで合格した。「よっしゃーって。初めて目標を達成した瞬間でした。自分が頑張れば目標達成できるんだと達成感がありました。ゴルフが自分を変えてくれました」。これまでの人生の中で初めて本気で取り組んだゴルフで、1つの結果を残した。

ゴルフの道に進んだことでシニアの大会で父のキャディを務めたり、父が優勝する姿を会場で見る機会もあった。プロテストに合格すると父は“先輩プロ”になった。「親子であり、師匠であり、友達じゃないけどすごく話を分かってもらえる存在です。めちゃくちゃいい関係です」。技術的なことやツアープロとして過ごし方、考え方などを聞いたり、肌で凄さを感じてもいる。父・信治は63歳だが、体調を崩しており、ツアーでバリバリ活躍していたときとは少し違う。「自分がツアーで戦っている姿を見せたいと思っていました」と地方オープンを中心に実戦経験を積んでいるが、思わぬ形でチャンスが巡ってきた。

特別協賛のサトウ食品の佐藤元社長と父が若い頃から親交があることから、慧の主催者推薦が決まった。2日目には父もコースに足を運び、スタート時にはサムアップした右手を高く上げて静かにエールを送った。「ここの舞台に立ってよかったなって思います。ここでやりたくてプロになったわけですから。今回は自分の力出たわけではなくても、経験できたことはすごくよかったと思います。ハードルはいっぱいあると思うけど、ずっとこの舞台に立てるように一生懸命やってもらいたい。チャンスをいただいた佐藤社長をはじめ、サトウ食品様に本当に感謝です」と父は目を細める。

■デビュー戦で得た経験がモチベーションになる

スコア的には満足のいくものではなかったが、自分が目指す舞台に立ったことでいろいろなことが見えてきた。「楽しかったし、充実した2日間でした。課題はすべてです。ツアーで戦っている選手はすごい。実力の差をすごく感じました。飛距離やショットの精度、パッティングとか、まだまだ自分が戦えるレベルではない。何回もここにきて、チャレンジをして自分のモノを見つけていくしかないですね。もっともっと練習を積めば、ここに戻ってこれるんじゃないかなって思いました。必ず戻ってきます」。根っからの負けず嫌い。知人らの応援も励みになり、次の戦いに向けてモチベーションを高めた。

今年は来季のツアー出場権をかけたQTと「日本プロ」と「日本オープン」の予選会突破が目標。デビュー戦を経験したことで、「日本プロと日本オープンはめちゃくちゃ出たい」と意識が高まった。「今度は自力で(レギュラーツアーの出場権を)取りたいです」。7日からの2日間でベストを尽くし、再び父や家族、知人らにツアーで戦う姿を見せたいと話す。

国内では杉原輝雄と敏一、尾崎将司と智春、中嶋常幸とマサオ、川岸良兼と史果ら親子プロはいるが、親子でツアープロは決して多くはない。親子二代でのツアー優勝の夢に向かって、1歩踏み出したばかりだ。(文・小高拓)

■池内慧

いけうち・けい/1994年11月7日生まれ、群馬県出身。身長180センチ、体重80キロ。16歳でゴルフを始めて高校3年時に群馬県ジュニア優勝。父はレギュラーツアー1勝、シニアツアー2勝の池内信治。国内外のシニア大会のキャディを経験。高校卒業後、白水ゴルフ倶楽部で研修生となり、2020年に5回目の受験でプロテスト合格。同郷の青木瀬令奈と合宿することもある。ソネットフィットネス所属。

<ゴルフ情報ALBA.Net>

【関連記事】