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今季3勝&世界一、スコッティ・シェフラーの短いようで「長い」道程【舩越園子コラム】

デル・テクノロジー・マッチプレー選手権を制し、210万ドル(約2億5410万円)を手に入れたのは、25歳の米国人、スコッティ・シェフラーだった。

今年2月のフェニックス・オープンで米ツアー初優勝を挙げ、その3週間後のアーノルド・パーマー招待で2勝目、そして3月の今大会で3勝目を達成。わずか2か月間に次々に勝利を重ねたシェフラーは、あれよあれよという間に世界ランキング1位へ上り詰めた。

その急上昇ぶりは、文句なしの見事なスピード出世だ。しかし、勝利を決めたシェフラーが愛妻と抱き合いながら流した涙は、そこに至るまでの道程が「とても長かった」と言っているかのようだった。

テキサス州ダラスで育ったシェフラーは幼いころから同州出身のジャスティン・レナードやハンター・メイハン(ともに米国)らのホームコースでもあるロイヤルオークスGCで腕を磨き、「子犬のように僕らに付いてくるキッズ」と呼ばれていた。「スコッティは僕らのバンカー練習をずっと黙って眺めていて、僕らが練習を終えると、彼はバンカーに入り、見事にスピンをかけて打ち、『今、見ていたことを真似しただけだよ』と言って、僕らを驚かせた」なんて証言もある。

テキサス大学ゴルフ部時代のヘッドコーチ、ジョン・フィールズ氏いわく、「スコッティに技術的アドバイスをすると、彼はいつも混乱していた。でも、助言する代わりに動画を見せたり、彼自身に理想の形をビジュアライズさせたりすると、彼はマジシャンのように、すぐにモノにした」。ボールの近くに立ち、アップライト軌道でクラブを振る彼のスイングは、そうやって編み出されたものだそうだ。

理屈ではなく、五感と肉体で実感して覚えるのがシェフラー流。頭と体の双方で「なるほど」と納得するまでには、それなりに時間がかかる。傍から見れば、その時間はきわめて短時間だったりもするのだが、彼は彼なりに時間を「かけた」「かかった」と感じるのだろう。

天才キッズと呼ばれ、数々のジュニア、アマチュアタイトルを獲得し、2018年にプロ転向、20年からPGAツアー参戦を開始したシェフラーが昨年末まで初優勝を挙げられず、「時間がかかった」ワケは、まだ頭と体で十分に納得できていない「何か」があったからだったのだろう。

転機となったのは、昨秋のライダーカップにキャプテン推薦で初出場し、自信を得たこと。そして昨年11月、バッバ・ワトソンの長年の相棒を務めたテッド・スコットを専属キャディに付けたことだ。

「テッドは、僕がやりたいことを、僕にうまくイメージさせてくれる」。極端なフィール(感覚)派のワトソンを導いてきたスコットは、やはりフィール派のシェフラーを導くのも上手い。相性のいいキャディを得たことで、シェフラーの力は倍増し、1つ勝って得た自信が次なる勝利を導き出した。今季3勝と世界ナンバー1の王座は、そうしたすべてがかみ合った末の結実なのだ。

今大会の準決勝マッチでは、元世界一のダスティン・ジョンソン(米国)を相手に5アップしながら後半で1アップまで押し戻された。だが、終盤に再び流れを奪い返し、3&1で下して決勝進出を決めた。

決勝マッチでは、2019年の大会覇者ケビン・キスナー(米国)を相手にアップを先行すると、ただの1度も譲ることなく、4&3で圧勝。12番(パー5)ではグリーンカラーから目の前のバンカーに入れるミスもあったが、そのバンカーからチップインバーディーを奪い、ピンチを切り抜けたプレーぶりには、流れも運も引き寄せる不思議な力が感じられた。

「大学時代、このオースティンCCで何度もプレーし、ここで勝つことを夢見てきた。長い1週間だった。この場所で、家族や故郷の人々の目の前で、優勝できたことは、ドリーム・カム・トゥルーだ」。

故郷の地で、愛する人々の目前で挙げた最高の勝利だったが、世界ナンバー1になった実感を問われると、万感極まり、涙が溢れ、言葉を詰まらせた。「僕は、、、ただただゴルフが好きで、、、戦うことが好きで、、、、」。涙にくれながら照れ笑いしたシェフラーには「長い戦い」を制した満足感と達成感が溢れていた。

若いシェフラーは、これから先に「もっと長い戦い」が待ち受けていることを、まだ知るよしもない。25歳にして世界一に上り詰めた彼が、これから始まるメジャーシーズンで、どんな活躍を見せるのか。どこまで、どうやって昇っていくのか。「時の人」シェフラーに、世界のゴルフ界の熱い視線が注がれている。

文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

<ゴルフ情報ALBA.Net>