米ツアーの「ファーマーズ・インシュランス・オープン」の最終日はジョン・ラーム(スペイン)、ジェイソン・デイ(オーストラリア)といった大物たちも優勝争いに絡んだが、最後は“アンダードッグ”対決となり、サドンデス・プレーオフ1ホール目で37歳のルーク・リスト(米国)が25歳のウィル・ザラトリス(米国)を下し、悲願の初優勝を飾った。
アンダードッグとは、「勝てそうもない人」の意で使われるスラング的な英語だが、米ゴルフ界では、しばしば耳にする言葉だ。
昨季から米ツアーで戦い始めたザラトリスは、「マスターズ」で松山英樹に1打差で敗れたあのとき以来、何度も優勝争いに絡みながら惜敗ばかりを繰り返し、アンダードッグと見なされてきた。一方のリストは、2013年から米ツアーで戦ってきたが、この10年、一度も勝利はなく、これぞアンダードッグという存在であり続けてきた。
そんな2人が初優勝を目指して競い合い、勝利したのはリストだった。2人の勝敗を分けたものは何だったのだろうか。
名門ウェイクフォレスト大学ゴルフ部時代はスーパースターとして輝いたザラトリスは、下部ツアーで1勝を挙げた後、昨季はスペシャル・テンポラリー・メンバー(特別一時会員)から正式メンバーへとスピード出世した。
デビュー早々にマスターズで優勝争いに絡んだことは大健闘。しかし、だからこそ惜敗の印象が色濃く残り、その後の度重なる惜敗と相まってアンダードッグと見なされるようになった。
今大会3日目を首位タイで終えたとき、ザラトリス自身が「いまだに僕は自分がアンダードッグだという気がしている」と言った。勝てる気がしないという意味だったのだろう。もちろん、望みを捨てていたわけではなく、「いつかは僕の番が来る」と願っていた。
華奢(きゃしゃ)な体型で「スタミナが欲しい」と願った彼は、このオフ、筋力増強に必死に取り組み、7〜8キロの重量アップに成功。飛距離も10ヤード以上アップし、「ブライソン・デシャンボーのようには、すぐにはならないけど、飛距離が伸びたことは大収穫」。それでも彼は「自分はアンダードッグだ」と心のどこかで感じていたという。
一方のリストは、屈指のショットメーカーながら、不得意なパットがいつも足を引っ張っていた。だが、今大会最終日は突然パットが絶好調になり、得意なショットとの相乗効果で猛チャージ。首位から5打差でスタートしながら、ザラトリスを捉えた。そして、後半1つもバーディを奪えずにきたザラトリスが72ホール目もバーディパットを沈められず、2人はサドンデス・プレーオフへ。かくして、アンダードッグ対決となった。
先にホールアウトしたリストは、すでに2時間近くも練習場で待機しており、その間に絶好調だったショットとパットの感覚が失われていないだろうか、と心配された。
1ホール目の18番。2人ともフェアウエイ・バンカーにつかまり、2つのボールは砂上の至近距離に並んで止まった。ザラトリスのライは良好、リストは目玉。状況的にはリストのほうが不利だと思われた。
しかし、リストは迷うことなくバンカーに入り、しっかりフェアウェイへ出し、第3打をピン30センチに付けるスーパーショットを披露してイージー・バーディ。
逆にザラトリスは、ルール委員と慎重にやり取りをした末、フェアウェイへ出し、3打目をピン4メートルへ付けたものの、バーディパットはカップの縁(ふち)で無情に止まった。
リストには一心不乱に勝利へ突き進む勢いが感じられ、ザラトリスにはその勢いがやや不足していたように思う。それは、ザラトリス自身が言っていた「いまなお自分はアンダードッグ」という感覚、「勝てそうもない人」という感覚が、心のどこかに潜んでいたせいだったのかもしれない。だからなのだろうか。72ホール目もプレーオフ1ホール目も、バーディパットは「あとちょっと足りなかった」。それが、ザラトリスの敗因だった。
勝利したリストは「今日はずっとポジティブだった。首位タイで上がれて良かったと思い、プレーオフを戦えればいいなと思い、バンカーの目玉を見たときも、出せればいいなと思った」。そうやって、いいことだけを考えたリストは、心の持ちようで勝利した。
アンダードッグがアンダードッグから脱却し、勝利できるかどうかは紙一重であり、その差は技術や肉体、努力の差だったりもするが、最後にモノを言うのは、やっぱりメンタル面だ。
またしても勝利を逃したザラトリスは、悔しさを噛み締めながらも笑顔でリストを祝福。グッドルーザーでナイスガイのザラトリスだからこそ、次こそは自身の気持ちをもっと上手にコントロールし、心で勝ちに行くのではないか。次こそは彼の番が来るのではないか。
そう信じたくなった最終日だった。
文・舩越園子(ゴルフジャーナリスト)
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