試合前、選手がなにか忘れ物をしたときのために、予備の用意は欠かさない。時には、クラブで調整が必要な部分があれば、メーカーに先んじて伝えておくこともある。 “究極のサービス業”。「たしかに、そう思いますね。どうやったら選手に喜んでもらえて、気持ちよくフィニッシュしてもらえるか。ずっとそれを考えています」と語るのは、昨年賞金王チャン・キム(米国)のキャディ、出口慎一郎氏。キムがまだ、日本語で細かな意思の疎通が難しいという理由もあるが、まめなサポートを心がけてきた。
「皆さんがイメージするプロキャディの仕事とは、実際は意外とギャップがあるかもしれません」。バッグを運んで、クラブを渡し、風や芝目を読んでカップインするまで選手をサポートする。プロキャディに求められるのは、そこからさらに“プラスアルファ”の部分だ。
選手個々の試合前のルーティンを把握し、スムーズにゲームに入れる状況を作ること。試合中にリラックスできる空気感を作ることも大切だ。「選手がキャディに“怒れる”というのも、大事なこと。感情を出せる関係性が作れているからこそ、そこで発散して次のプレーに集中できるので」。状況の正確なジャッジはもちろん必須だが、いかに選手の力を最大限引き出す手伝いができるかが、プロキャディの重要な役目だ。
ときには“そこまで?”と感じられるほど、出口氏が語るキャディ業の領域は幅広い。一方で、疑問を感じているのがコース内でのキャディの“役割”だ。「ある選手から“どう打てばいい?”と聞かれたことが衝撃で。“こう打ちたいからどう思う?”というのは分かりますが、選手の考えがあるからこそ、お互いの役割に線引きができている部分があると思うんです」。自ら戦略を考えてこそのプロゴルファー。違和感を覚えたのは、選手とキャディのあいだの、線引きのあいまいさだった。
そこで、3年前から力を入れ始めたのがジュニア育成だった。「とことん考える力をつけて、自発的にプレーを組み立てていける選手を育てたい。自分で突破する能力や経験は、ジュニアからの蓄積で将来的には大きな差になります。プロキャディの考え方があるゴルファーがいれば、最高じゃないですか」。当初はひとりで始めたジュニアレッスン。今年は6人のプロキャディを招き、「ゴルフ脳強化キャンプ」と題して50人の小中学生を集めた。ラウンドと座学を交えてのマネジメントレッスンは、途中積雪で中止になったものの、1日がかりで行われた。
「世界に通用するスポーツは、ジュニア育成がしっかりしていると思います。ゴルフだと、若手の選手がまさにそう」。西村優菜、古江彩佳、男子では金谷拓実、中島啓太らを輩出してきたナショナルチームでも、ヘッドコーチのガレス・ジョーンズ氏のもと、徹底してマネジメントを教え込んできた。「選手、キャディ、コーチ、そして親御さんも、それぞれの線引きをつけることも大事だと思うんです。自分を俯瞰で見ながらプレーできれば、すごくいい選手になると思います。将来目指すものがゴルファーであれ、キャディであれ、まずはしっかり考える力をつけていけば、強い」。
ゴルフ規則で定められたキャディの行動定義には、『ストロークを行う前に情報、アドバイス、その他の援助を与えること』とある。軸となるプレーヤーがいてこそ、サポート役が生きてくる。講師のひとりとして参加した池田勇太のキャディ、プラサド・ラジーフ氏は、「プロツアーでも、キャディの使い方が意外と分かっていないなと感じる選手も少なくない」と語る。選手自身のスキルを高めるとともに、キャディとの相乗効果でプロツアーのレベル底上げをすることも、大事な命題のひとつだ。
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