新型コロナウイルスの影響で2020、21年が統合された国内男女ツアーは、1年半にも及ぶシーズンを終えた。今季も“初優勝”、“復活”など印象的な場面がファンの心をつかんだ。そんなシーンをさらに彩ったのが、選手たちが流した涙。ただ、そこに至るまでの理由は人それぞれだ。そんな数々の涙に注目し、長かったシーズンを振り返る。
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木下稜介は「日本ゴルフツアー選手権 森ビルカップ Shishido Hills」の最終日最終ホール、60センチのウイニングパットを決めると、両手を突き上げて顔をくしゃくしゃにした。これには18番グリーンにいたギャラリーだけでなく、メディアや大会関係者ももらい泣き。テレビで試合の行方を見守っていた奥嶋誠昭コーチにいたっては、「ハーフターンしたときから泣いていた」という。
ツアー本格参戦8年目の悲願の初優勝に「本当に長くて苦しくていろんな思いがこみ上げてきました。セカンドがグリーンオンしてちょっとウルッときてしまって。そのあとファーストパットを打ってホッとしてちょっと涙が出てきた」と、このシーンを振り返った。
この試合は木下にとって今季3度目、キャリアでは4度目の最終日最終組だった。2020-21年シーズン最初のチャンスは20年「三井住友VISA太平洋マスターズ」で巡ってきた。最終18番パー5のティイングエリアまでは、トーナメントを1打リードしていた。ところが、前の組を回っていた香妻陣一朗が劇的なイーグルを奪って逆転。最後の最後で初優勝が木下の手から滑り落ちた。それでも「最後まで優勝争いができたし、次に生かさないといけない」と前を向いた。
次の最終日最終組は、21年初戦の「東建ホームメイトカップ」。首位の金谷拓実と1打差の2位からスタートしたものの、勝負所のパットがまったく決まらず、またしても初優勝を逃す。「ショットは悪くなかったけど、パッティングがショートしていた。きょう優勝したかった。次の優勝争いのときは大差で勝てるようにしたい」と悔しさをあらわにした。
そして、4打差の首位で再び巡ってきた日本ゴルフツアー選手権の最終日最終組では、要所でのパットが光り、最終的には2位に5打差をつけて圧勝。「本当にこの初優勝が遠くて、呪縛じゃないですけど、本当に勝つまで苦しかった。その荷物をやっときょう下ろせた」と優勝会見ではホッとした表情を見せた。
「4打差が逆にプレッシャーでした。『4打あって勝てなければ、もう勝てない』と思いたくもなかったんですけど、どこかに(その思いが)あって、プレッシャーでいっぱいでした」。木下は前日の夜9時半に就寝したが、朝4時に起きてからは寝られなくなり、一人プレッシャーと戦っていた。スタートの10時45分まではまだ6時間以上あった。
木下は押しつぶされそうなプレッシャーをどうコントロールしたのか。
「きょうは集中しすぎないでおこうと思っていた。周りを見ながら、キャディさんとしゃべりながら、どれだけプレッシャーを逃がすかがきょうの課題だった」。その言葉の通り、12番ではグリーン脇で見ていた小学生くらいの少年にボールをプレゼント。プレッシャーのかかる状況でも木下にはしっかり周りが見えていた。
「あの子が2番ホールにもいて『ナイスバーディ』って声をかけてくれた。12番ホールにもちょうどいたので、気持ち的にはいっぱいいっぱいになりかけていたんですけど、ボールをあげたことでちょっと落ち着けたかなと思います」。さらに、「思い込みかもしれないですけど、ボランティアのみなさんも含めて、ほとんどの方が僕を応援してくれて、それがすごく力になりました」とギャラリーの声援を力に変えてプレッシャーをやりすごし、涙、涙の初優勝となった。
今年30歳の誕生日を迎えた木下のゴルフ人生は、常に同い年の松山英樹や石川遼と比較されてきた。「遼が高校生でツアー優勝して、英樹が(大学生で)マスターズに行って、レベルが違いすぎたので比較されて嫌になったりはしなかった」と木下。さらに「年上でもなく年下でもなく、同級生なので一番刺激がもらえる。(2人が)同学年で本当に良かった。比べものにはならないですけど、この優勝で一歩近づけたかなと思います」と話した。
この初優勝が文字通り“転機”となり、「ダンロップ・スリクソン福島オープン」で2試合連続優勝を達成。18年は54位、19年は34位だった賞金ランキングはキャリアハイの3位と大躍進を果たした。この大会に優勝した権利で、「WGC-フェデックスセントジュード招待」に出場。初めての海外メジャー「全英オープン」でも4日間戦い抜いた。
初優勝の涙を拭うと世界という大海原が広がった。「来年は積極的に海外に出て、もっと自分自身のレベルを上げて、また来年、日本で賞金王を獲りたい」。木下が目指すステージには、まだまだ上がある。
<ゴルフ情報ALBA.Net>
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