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「伸びしろしかありません」 36歳でシード復活を遂げた藤田さいきのモチベーション

2020年、21年を統合して1シーズンとなった国内女子ツアー。22歳の稲見萌寧と21歳の古江彩佳が賞金女王争いを演じ、西郷真央や吉田優利ら20代前半の初シード選手が多く誕生するなど、若い選手の台頭が目立った。その一方で、上田桃子や笠りつ子、若林舞衣子ら30代の選手も優勝。ベテランと若手が入り乱れている。そんな中、36歳の藤田さいきは3シーズンぶりにシード復帰を果たした。日本勢では44歳の大山志保に次ぐ、年長シード選手となるが、来季11年ぶりの優勝を目指す。

「長いシーズンでした」。シード復活を決めて安堵する藤田。コロナ禍により、2年にまたがったシーズンは昨年6月の「アースモンダミンカップ」を皮切りに52試合が行われた。藤田は45試合に出場して、20年「NEC軽井沢72ゴルフ」の2位タイなど、トップ10入り9回を果たし、賞金ランキング28位でシード権獲得。優勝者や成績上位者など40名しか出場できない最終戦の「JLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップ」にも出場した。

この2年は新たな境地だった。「ゴルフに取り組む気持ちが違いましたね。すごくゴルフが楽しかったんです」。シードを落とした2年の間は、長年の蓄積もありヒジや指、腰などを痛め、内臓系の疾患が見つかるなど満身創痍。年齢的にも体調が万全という日はほとんどないが、ゴルフを楽しんで1年取り組めたと振り返る。「若い頃はミスをしたら怒ったりしていましたが、この2年は怒ることが限りなく少なく戦えた気がします。自分の中で何かが変わったと思います。急にですけど」。

気持ちの変化の一因はオフの過ごし方にあった。コロナ禍により開幕が大幅にずれ込み、全国的に緊急事態宣言が発出された。藤田は合宿先の熊本で、3カ月ほど過ごすことを余儀なくされた。「ゆっくり自分を見つめ直して、いろいろなことをやってみようって思いました。アマゾンのポチポチが止まらなくなりました(笑)」。小学生以来となる一輪車や、『スラックライン』と呼ばれる細いベルト状のラインの上でバランスを取るスポーツにも挑戦。その一環で、釣りも始めた。

「最初はあまり好きではなかった」という釣りだが、仕掛けを変えて、風向きを考えて投げたいところに投げる。どこかゴルフと似ていることから釣りの楽しみを覚えて、ハマっていった。緊急事態宣言が解除された時には1日10時間以上、釣り場にいることもあったという。「釣りって我慢しないといけないんです。なかなか釣れないし、すごくメンタルが鍛えられるんです」。魚との駆け引きをする中で、自然と忍耐力が身についた。これまで趣味という趣味がなかったが、新たな趣味ができたことで、オンとオフの切り替えができるようになったのも、プラスに働いた。

シード復活という目標は達成できたが、もう一つ大きな目標には手が届かなかった。「私、10年勝ててないんです。諦めてもおかしくない年数です。でも何かが足りなくて、何かが違うんでしょうね。それを模索しながらやっているから楽しいんですよ」。2011年の「富士通レディース」を最後に、10年間未勝利に終わっている。今季、優勝するチャンスが無かったわけではない。「客観的に見ながらやっているから楽しかったです。『あの1打が入っていたら優勝届いたんじゃない』、『あそこで崩れちゃうからダメなんだ、私は』とか思いながらやっていました。こんな気持ちになるのは初めてです」。ミスをしても怒らない。悔しい気持ちがあっても客観視することで楽しめている。これが藤田の新境地である。「いつか勝てると思って、その目標を追いかけているから、長くできている部分はあると思います。優勝したときを思い出すと、やはりうれしいです。でも、今は初優勝を追い求める感覚で練習しています」。

部門別データを見ると11年ぶりの優勝も、すぐそこにあるように感じる。ドライビングディスタンスは245.14ヤードで15位と、飛距離では若手にも引けを取らない。平均ストロークはキャリアハイとなる71.4713で18位。他の主要部門でも20位以内が多く、今季優勝者と大差はない。「勝てないことはないと思います。タイミングだったり、その週の調子、勢いもある」。ただ、課題がないわけではない。「若い子に比べると100ヤード以内の精度が低いと感じています。(賞金女王の稲見)萌寧ちゃんは、1ヤード曲がったら、『曲がり』っていうぐらいです。そもそもの精度の差があるから、そのあたりは強化したい。やることがいっぱいあります。伸びしろしかないと思ってやっています」と高いモチベーションを維持している。

40人しか出場できない最終戦は、藤田より年長者は16シーズン連続シードを保持する39歳の全美貞(韓国)しかいなかった。「ミジョン(美貞)さんに聞いたんです。『どうやったら長くできますか』って。そしたら『頑張り過ぎない』っていわれました。なんか深いですよね」。36歳にもなると、頑張りすぎると体がついてこない。練習時間も長時間ではなく短期集中。「ケアの時間は20代の頃の倍かかってます(笑)」と時間の使い方は大きく変わった。今オフは、新しい技術の新しい引き出しづくりに取り組む。新たな境地で復活を遂げた藤田は、新鮮な気持ちで6回目の優勝へまい進する。

<ゴルフ情報ALBA.Net>

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