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正しい努力が生んだメジャーでの初優勝 三ヶ島かなの“自分を信じる”強さ【辻にぃ見聞】

52試合。過去最長シーズンの最終戦は三ヶ島かなの初優勝で幕を閉じた。なぜ、これまで何度も勝利に手が届かなかった25歳は最後の最後で栄冠をつかみ取ることができたのか。上田桃子らを指導するプロコーチの辻村明志氏が強さを語る。

■自分で壁を作らなかった

三ヶ島がツアーに初参戦した2016年に辻村氏が初めて見たときの印象は「非力」だった。「ドライバーが曲がらず、アイアンのラインが外れない良さはありましたが、体はまだ細く、スイングにも緩さが見えました」。だが、見るたびに何かが良くなっている。「たまに見ると振れるようになっていたり、次に見たときにはパターが安定していたり。コツコツと年々良くなっていましたね」と一歩一歩だったが、着実に成長していた。

言葉にすると簡単なことだが、プロゴルファーにとってはこれが難しい。「今の時代シードを獲れたとしてもすぐに手放す選手が多い。三ヶ島さんはずっとキープできている。言い換えれば、細かい調子の波はあれど“悪くなっていない”ということです」。成長するためには何かを変えないといけないし、当然努力も怠ってはいけない。だからといって、それが必ずいい方向に向くとは限らない。そうなれば気持ちだって落ち込むし、メンタルへの影響がプレーにも表れる。そんな悪循環にはまる選手も少なくないが、三ヶ島は常に良くなり続けているということだ。

「三ヶ島さんは成長することにも勝つことに対しても、限界という壁を作らなかったし、自分を信じ続けた。今回の勝利はそれのご褒美なのかなと思います」

■強い相手も悪い流れも攻める気持ちで打破

信じ続けたのはコースでも同じだった。優勝争いの相手は賞金女王へ単独2位が最低条件の古江彩佳。米ツアー参戦をもくろむ21歳にとって、賞金女王の複数年シードは絶対欲しいところ。笑顔の裏にある闘志は相当なものだった。

その古江に3打差をつけてスタートした最終日。出だしの1番でチップインバーディを入れたものの、古江に6メートルのロングパットを入れ返されて差は変わらず。そこからはしびれるパットの連続だった。

しのぎにしのいでパーを並べ続けたが、中盤から後半にかけてさらにピンチが。11番パー5で乗らず寄らず入らずのボギー。13番パー5でもスコアを伸ばせず、2打差まで詰め寄られてしまう。さらに14番でも2.5メートルのパーパットが残りギリギリのパー。さらに15番では2打目がバンカーの目玉に。「アンプレするか全力で振るかの2択だったけど、(攻めて)行くしかない」と逃げずに行って “ナイスボギー”。そして次の16番でチップインバーディをもぎ取って勝負を決めた。

辻村氏も「気持ちでつかんだ部分も多い」とゲーム展開を話す。「三ヶ島さんは普段はおっとりとしていますが、そのなかに九州出身の女性らしくキリっとした芯のようなものがある。『ナニクソ』と思える根性の持ち主。普通のメンタルなら古江さんにやられていたと思います。でも、“攻めるんだ、負けないんだ”と自分を奮い立たせたことで、1つでもミスしたら分からなくなっていた場面もしのぎ切りましたね」。最後まで自分を疑わず攻め続けた。三ヶ島の強さが詰まった18ホールだった。

■球筋がフェードになっても変わらないセイムテンション

ツアー初参戦から大きくレベルアップしたのがショット力。20年から青木翔氏に師事して、ドローからフェードと球筋も変わった。辻村氏は「フェードがいい、ドローが悪いという話ではありませんが、4年前と比べて明らかに球が高くなった。また体の芯が年々太くなり、スイング軸が安定した」と評する。

「以前よりも格段にスピンを入れられるようになりましたね。なぜかというと、昔はボールだけをさらっと打っているような印象でした。ですが、今はボールの下の部分をしっかりととらえて、フェースにしっかりと乗せられている。重心も低くなって、ボールを低い位置でとらえられるようになりました。だからインパクトに“厚み”がでてきました。その分、球の打ち分けもしやすくなりますし、グリーンで止めやすくなる」

球も高くなり、飛距離も伸びた。一方で昔からの“良さ”は変わらない。

「三ヶ島さんはショットのテンションに安定感がある。ドライバーからPWまで同じリズム、同じ力感で打てるということ。これができているから、ボールへのコンタクトの感覚もいつも一緒です。つまり距離感の計算がすごく立つし、マネジメントもやりやすい。宮崎CCはグリーンを右奥、右手前、左奥、左手前とピンの位置によって4分割して攻めていかなければ攻略できないコースです。以前の三ヶ島さんはドローだから、左ピンだったら攻めやすかった。ですが、今は持ち前の距離感とストレート系を中心としたいくつかの球筋で、右も左も奥も手前もうまく攻略しているように見えました」

変わった部分と変わらない部分。その取捨選択、そしてたゆまぬ努力が生んだ初優勝だった。

解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子、山村彩恵、松森彩夏、小祝さくら、吉田優利、阿部未悠などを指導。様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。著書「女子プロと一緒に上手くなる! :チーム辻村最強ドリル」が発売中。

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