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女王争いを過去最大級のものにした古江彩佳 シーズン最優秀選手の強さはゲーム性のある朝の練習【辻にぃ見聞】

52試合行われた過去最長シーズンの賞金女王争いは、最後の最後、18番ホールのパットが決まるまで分からない壮絶なものとなった。最終的に9勝を挙げた稲見萌寧が戴冠したが、最後まで競ったのがメルセデスランキング1位となり、シーズン最優秀選手を獲得した古江彩佳。なぜ、小柄な21歳はMVPを獲得することができたのか。上田桃子らを指導するプロコーチの辻村明志氏が強さを語る。

■飛距離、高さはなくとも抜群の安定感を誇るショット

153センチと小柄なこともあって圧倒的な飛距離があるわけでも、目を見張るような高い球を打つわけでもない。それでも最優秀選手となれたのは、フェアウェイキープ率5位のドライバーからピンポイントに置いていける正確性の高いショットがあるからだ。

「古江さんは両足がしっかりと地面をつかんでいて上半身に力が入っていません。また、アライメントがばっちり決まっている。これは毎日ズレがないようにしっかりと確認ができているから。フィニッシュまでバランスよく振り切れているのもポイントが高いですよね。ボールの位置、セットアップのかたち、アライメント、力感、重心位置。これらがいつも一定です」

誉め言葉がずらりと並ぶ古江のスイング。中でも辻村氏が目を見張るのがインパクト際のクラブの角度。

「インパクト際でクラブの刃が絶対に上に向かないんです。これはユーティリティでもフェアウェイウッドでも同じ。長い番手でも薄めの長いターフが取れている。これはクラブの軌道はシャローなのに刃が下を向いているからです。ボールがフェースに乗っている“乗り感”がとても分厚い。だからヘッドスピード以上に距離が出るし、球も安定する。ハンドファーストに押し込めていると言い換えてもいいでしょう」(辻村氏)

その基本があるなかで、少しずつ巧みに変えている。「アイアンでもターフをとらずに打ったり、ハンドファースト目に強めにぶつけていったりといくつかの当て方のイメージで縦距離をうまく作っています。やはり縦距離の合う選手が最終的に強い。縦が合う人は必然的に横のラインも合いますからね」

■ツアー最強のパッティング、渋野日向子と共通する部分

古江はパットも随一。軒並みスタッツが高い古江だが、鈴木愛、勝みなみら並みいる強豪を抑えてパーオンホールの平均パット数は1位を誇る。何より辻村氏が評価するのが3パット率1位(1.9761)。ツアーで最も3パットをしないということ。

「長いパットは厚めに打ってジャストに寄せられるから3パットをしない。一方で決めに行くパットでいい転がりでジャストタッチで寄せていく。このあたりのタッチ、距離感が非常にうまい選手です」

ほかにも、芯でとらえるうまさ、狂わないリズム、安定したストローク…。それによって“いい転がり”のパッティングをしているのはもちろんだが、ライン読みも非常にうまいと続ける。

「古江さんはラインを読むときに、ボールが通る中間点、もしくは3分割してそれぞれ通る位置に“ブレークポイント”を作って、そこで素振りをしてイメージを出しています。ここではどんな転がりでどんな方向に行っていればいいのか、誰よりもイメージできている。この動作をする選手と言えば渋野日向子さん。やはりパッティング巧者は読みからイメージが出ています。これはアマチュアの方もすぐに取り入れられる部分ですから、参考にしてほしいですね」

■朝の練習

ショットの正確性、最強のパッティング。それに加えて古江の強さと言えばマネジメント力。これら3つが合わさった結果、パーセーブ率2位、平均バーディ数3位という攻守にスキのないゴルフが生まれる。それを生み出しているのが“ゲーム性”のある練習だという。

「例えばラウンド後の練習でのアプローチ練習は、試合でグリーンを外したことを想定して、アプローチを打った後、それをパターで入れる“1チップ1パット”のセーブの練習を行っています。それも様々なシチュエーションで18ホール分やっている。この練習ではPW、47、54、58度の4本のウェッジとパターを使って、キャディさんがラフにドロップした球を、即座にどのクラブがこのライ、状況で最も確率良くセーブできるかを判断しています。まさに実践に勝る実践のような練習方法です。またロングパットが残ったときを想定して、それも18ホール入れるまで行っている。こうやって試合のなかでどうやってセーブしていくかが磨かれていくのです」

朝の練習も非常に実践的だ。「ドライバーを打つときは試合のホールをイメージして1球ごとにちゃんと後ろからターゲットを確認しますし、ユーティリティ、アイアンでティアップしてパー3を想定したショット練習もしている。すべてがゲームにつながっているんです」。ただ、打つのではなくこれから試合でどういった場面で打つ番手なのか、球なのかを考えた練習。「こういったところに頭の良さを感じますね」とすべてがスコアを作るためにつながっていると話す。

■終盤に固まった最強パートナー

特にこういった実践向きな練習はキャディの森本真祐氏とタッグを組んでから色濃くなった。

「2人は本当に阿吽の呼吸という言葉がよく似合います。今シーズンのベストコンビ賞をあげたいですね。練習からお互い関西弁で小気味よく話していますが、2人の空気にネガティブな要素が全くなく明るくやっている。これもラストスパートをかけられた理由だと思います」

秋口に入ってからの2勝、そして優勝争いをにぎわせた最終戦。すべて森本氏がバッグを担いでいた。頼れるパートナーの存在も最優秀選手へ導く1つのピースとなった。

解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子、山村彩恵、松森彩夏、小祝さくら、吉田優利、阿部未悠などを指導。様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。

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