<JLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップ 最終日◇28日◇宮崎カントリークラブ(宮崎県)◇6543ヤード・パー72>
ホールアウトした稲見萌寧はキャディを務めた奥嶋誠昭コーチとともに、クラブハウス前のモニターで戦況を見ていた。自力で9位タイに入ったことで、最終組で回る古江彩佳が優勝しない限り、賞金女王は自分のものになる。そして戴冠が決まった瞬間、奥嶋コーチと手をがっちり合わせて喜びを分かち合った。
稲見にとっては本当に、本当に苦しい戦いだった。シーズン終盤に腰痛を発症し、十分な練習ができない。優勝賞金が3600万円と高い「NOBUTA GROUP マスターズGC レディース」では、最終日の1時間前に父親の了さんが「賞金女王よりも体が大事」と棄権を決断した。その試合で優勝したのは古江だった。2週後の「TOTOジャパンクラシック」でも古江は優勝を果たし、一時は独走していた稲見の背後にピッタリとついてきた。
今シーズン、心が折れたときでも、人一倍の練習量と、優勝という結果を安定剤に持ちこたえてきた。それなのに腰痛で十分な練習ができない。3年前から近くで見守ってきた奥嶋コーチはこう振り返る。「練習量で気持ちを抑えてきた。不安をぬぐってきたので、それ(練習ができない)が痛いなーと思っていた」。ところが2週間前の「伊藤園レディス」で優勝する粘りを見せ、古江に約1700万円の差をつけた。
そして最終戦の今大会、古江が単独2位以上に入れば、賞金を逆転される可能性がある。大会の2日目を終わった時点で古江が単独トップ、稲見は23位タイに沈んでいた。このままでは逆転されてしまう。その2日目の夜、稲見は奥嶋コーチに1通のラインを送っていた。『相談できなくて、一人で抱え込んで苦しいです』。
「僕はいつも通りにやっているつもりだったんですけど、本人は調子が悪くて機嫌も悪かったので、あまり話さなかった」と奥嶋氏。「3日目と最終日は、お互いの意見が合うまで相談すると決めていた」。最後の2日間は、しっかりとコミュニケーションを取り合って、古江が単独2位でも逆転できない順位まで引き上げてホールアウトした。
日本女子ゴルフ協会の小林浩美会長は「揺るぎない、強い精神力が素晴らしい」と今シーズンの賞金女王を称えたが、奥嶋コーチは「周りで誰か支えているから、保っていられる。本当はすごく弱い子だと思います」と語る。続けて「ある一定のところまで落ちるんですけど、本人がギリギリで踏みとどまる。その陰には賞金女王を獲りたい思いがあった」と話す。
オリンピックの代表が決まろうとするときも、賞金女王についても、稲見は「獲りたい」と口には出してこなかった。「僕とか、周りでサポートしている親やトレーナーさんにも本人は言わない。オリンピックのときも一緒で、僕らもわかっている。それについては触れないようにいつもどおりに接していました」。本人の思いがわかっているからこそ、プレッシャーがかからないように周りは配慮してきたのだ。
「自分の殻に閉じこもる」稲見を奥嶋コーチが技術的にも精神的にも支え、本当にギリギリの状態で獲得した賞金女王だった。稲見の瞳からは涙が流れ、「通常のシーズンよりも長かったので、たくさんの思いがある。僕も疲れました」。奥嶋コーチの目にも光るものがあった。
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