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試合の朝の練習場で弾道計測器を使うプロが急増! 金谷拓実は“コンバインテスト”で「1球1球が真剣になる」

2週間前の「マイナビABCチャンピオンシップ」の最終日の朝の練習場。金谷拓実、星野陸也、佐藤大平、植竹勇太、小林伸太郎、鍋谷太一の打席の後ろには一様に四角い物体が置かれている。近年、ツアープロの間で使用者が急増している弾道計測器『トラックマン』だ。これでヘッドスピードや飛距離だけでなく、クラブの軌道やフェースの向き、打ち出し角やボールのスピン量といった計測ができるが、プロたちはいったいどの数字を見ているのだろうか?

■弾道計測器はその日の調子を見るバロメーターになる

多くのプロは各番手のキャリーを見ている。植竹勇太は「自分の番手ごとのキャリーを見ています。その日の気温や風で数字は変わってくる。特に大事なのは58度のウェッジです。フルショットでは85ヤード。50、60ヤードのコントロールショットで自分の距離感が出ているかを確認します」と話す。

比嘉一貴も「100ヤード以内のウェッジの距離感を見ています。いつもの感覚と今の感覚とのズレがないかどうか。1ヤードのズレはOK。もし4ヤードとか違っていたら、いつもより上から入っているのかとか打ち方を疑います。18年の冬に買って、もうトラックマンを使うのはルーティンですね」と、その日の調子を確認するのが習慣となっている。

今季2勝を挙げて現在賞金ランキング2位につける木下稜介もまた、トラックマンとは別の弾道計測器、『GCQuad(クワッド)』をマイナビABCチャンピオンシップから使い始めた。「朝の練習場では170ヤード以内のアイアンのキャリーを見ています。その日の気温に対しての振れ感がわかるので、番手選びに影響しますね」と、当日のコンディションによってプレーの仕方を変えている。

■金谷拓実は60球の『コンバインテスト』を毎朝行う

「その日の距離感を掴む」というプロが多いなかで、今年からトラックマンを使い始めた賞金ランキング1位の金谷拓実のトラックマンの使い方が興味深い。毎朝、「精度で得点が出るコンバインテストをやっています」というのだ。

トラックマンの『コンバインテスト』は、60、70、80、90、100、120、140、160、180ヤードを狙うショットとドライバーショットの各3球×2セット、合計60球で行う。ドライバー以外は縦距離と方向性、ドライバーは方向性の正確さで採点され、最後に総合得点が出る。そのスコアは「MyTrackman.com」に送られ、世界中のゴルファーとスコアを競い合うことができるのだ。

金谷は「90点を越えていたら調子がいい。風とか気象条件で変わるので、その日の飛び方を確認します。きょうはいつもより飛ぶなと思ったらテンポを意識します」と語る。金谷はサラッと90点といったが、トラックマンのツアー担当、青木貴裕氏によると、「90点台を出すのは大変です。米ツアーのトップ選手でも80台後半が多い。90点台を出すとランキング上位に入ります」とのこと。

実際、金谷がマークしている「91.6」は、21年の世界中のランキングで5位にランクインしている。1位は英国のトップアマだが、3位にはパトリック・リード(米国)、9位にはビクトル・ホブラン(ノルウェー)といった米ツアーのトッププロの名前もある。今年、90点台をマークしているのは、金谷を含めて12人しかいないのだ。余談だが、この『コンバインテスト』は、アメリカの多くの大学がゴルフ特待生の入学試験に採用している。

金谷はナショナルチームのコーチ、ガレス・ジョーンズ氏から『コンバインテスト』を勧められ、5月から欧米ツアーを転戦した2カ月間で実施したところ、「いい練習」だと気づいた。「風が吹くなかで、テンポ、振り幅、球の高さをコントロールしないといけないので、それが自然と身につく。1球1球の練習が真剣になります」と、いまでは毎朝の日課となっている。

■試合の朝には弾道計測器は使わない派もいる

藤田寛之は賞金王になった12年の終わりから、国内男子ツアーでは初めて個人持ちでトラックマンを持ち運ぶようになった。「当時は海外メジャーに出ていて、向こうの選手は持っている選手が多かった。国内では誰も持っていなかったけど、ヤマハさんが賞金王のご褒美に買ってくれたんです」。現在所有している『トラックマン4』はもう3台目となる。

しかし、藤田は試合の朝には使わない。「自分はどちらかというと感覚を大事にしているので、ラウンド前には使いません。トラックマンって見たくない領域まで見せられてしまうので」と理由を語る。藤田がいう「見たくない領域」とは現実と感覚のズレだ。「シャットフェースなのにスライスするとか、オープンフェースなのにドローするっていう世界がある。そういう世界は受け入れない方が良い」と考えている。

藤田が使うのはもっぱらラウンド後。「5番アイアンをきょう使ったけど飛んでなかったとします。それで、いま自分の5番アイアンがどれくらい飛んでいるのかとか、全部キャリーで調べたりします」と答え合わせに活用する。また、「同じ5番アイアンでも190、185、180、175ヤードっていう打ち分けを練習したりするんです。番手の幅のなかで打ち分ける。それを朝からやっていたら、きりないから」と笑う。

3年前からトラックマンを使う杉山知靖は今年の10月に行われた「ブリヂストンオープン」でツアー初優勝を挙げた。杉山もまた試合の朝はトラックマンは使わない。トラックマンで一番気にしているのはクラブがボールに入ってくる入射角だという。「7番アイアンで−4度ダウンブローならOK。これで試合になると−6度とか−7度になる。練習場で−7度が出たら最悪。フェースがかぶって飛びすぎてしまう。フェニックスCCみたいな洋芝のゴルフ場ではボールが沈んで上から入れたくなってしまうので、特に注意しています」と活用法を語る。

22歳の大学生プロ、石坂友宏はトラックマンを試していて購入を検討中。「僕は距離よりも全番手のスピン量を見ています。スピン量の目安は“番手×1000”。7番アイアンでは6500〜6800回転くらいないと、ツアーの硬いグリーンでは止まらないんです。買ったとしても試合の朝に使うかどうかは微妙です。考えすぎてしまうので」と、トラックマンの使い方をイメージしている。

すでにトラックマンを所有している若手たちには「ないと気持ち悪い」というトラックマンだが、所有歴が10年近いベテランの藤田は「なくても全然大丈夫」だという。「血圧計と一緒ですよ。自分の血圧はきょうはいくつなんだろうっていう使い方が一番いい。ヘルスケアですね」と、52歳らしい言い回しで締めた。

昨年から続くコロナ禍の影響で、コーチが試合会場に入れないことがツアーでのトラックマンの普及を後押しした。しかし、最新の『トラックマン4』は送料税込で2,475,000円〜と、一般ゴルファーへの普及は、まだまだ先になりそうだ。

<ゴルフ情報ALBA.Net>

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