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ZOZOに行ってきました! そしてボランティアも体験し、わかったこと【原田香里のゴルフ未来会議】

2021年3月まで日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)の理事を務め、いまは女子ゴルフ界発展のため尽力し、自身のゴルフ向上も目指す、女子プロゴルファーの原田香里。まだまだこれからと話すゴルフ人生、そして女子ゴルフ界についての未来を語る。

女子プロ選手権ではこんな豪華なメンバーとラウンド

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ゴルフを愛するみなさん、こんにちは。原田香里です。今回は日本で行われた米ツアー、ZOZOチャンピオンシップでの私の新しい経験についてお話ししたいと思います。

2年前には、タイガー・ウッズ選手が劇的なツアー82勝目を挙げて、通算勝利数で故サム・スニードさんに並んだ大会。今年は松山英樹選手の優勝で幕を下ろしました。そこで、ボランティアをさせていただいたのです。

PGAツアーは、以前、オフに練習のため渡米したとき、友達とウッズ選手を見に1回行ったことがあるだけなので興味がありました。ボランティアも経験したかったのです。

大会前日の練習日と初日の練習場を担当し、主な仕事は、選手に出すボールを準備したり、球拾いをすることでした。ここにいただけで、PGAツアーのすごさを感じました。ツアーとしての基準があるのだと思いますが、選手の練習環境を整える努力は本当に素晴らしいですね。

練習ボールが10種類も用意されていたのには驚きました。日本の女子ツアーでは多くても2種類くらいで、ボールの数も限られているため、選手が練習していてもそれを中断してもらってボールを回収しないといけなくなることがあるのです。PGAツアーでは、選手が練習をしている間はそれを中断してのボール拾いをしないと聞きました。選手が打ちたい種類のボールがなくなったとしても、それはそれ、というスタンス。打っている選手がいる時には決してボール拾いはしません。でも、たくさんのボールが準備されているので、打ちたいボールがなくなるということはないと思います(笑)。

業務は、早朝に集合してボール拭きとボールの種類の仕分けから始めます。1個1個雑巾で拭くのですが、それでも汚れが落ちないことがあります。ベテランのボランティアさんの中には自前で汚れ落としの消しゴムのような道具を持っている方がいて、丁寧にボールをきれいにしていました。みなさん「選手のために」と、一生懸命作業されています。選手は毎日きれいなボールで練習できるのはうれしいことですし、ありがたいはずです。

みんなスタートしたあとはボール拾い。みんなで器具を使って拾い集めます。次にまた1つ1つボールを拭き、10種類のボールを仕分けします。アプローチエリアのグリーンにボールがたくさん散らばっていないかを見ながら、片づけに行ったり、バンカーをならしたり、なかなか忙しいものです。

ツアーでは、選手は表舞台で見られる立場の“花形”です。けれども、選手が輝くことができるのはボランティアさんも含めた裏方のみなさんが、よりいい環境でプレーできるように舞台を整えてくださるからです。選手として、理事としてそのことはわかっているつもりでしたが、そちら側から見ることで改めてそのありがたさを実感しました。

ボランティアのみなさんと、色々なお話をすることができました。女子でも男子でもシニアでも、多くの試合でボランティアをされている方もたくさんいらして、そこでうかがう話には、正直、色々と考えさせられました。

挨拶一つとっても、相手に伝わっていないことが多いということ。選手の側も挨拶をしていないわけではないはずですが。相手に伝わらないのでは意味がありません。ZOZOチャンピオンシップでは、8時30分のトップスタートに対して、私の業務の集合時間は5時45分。もっと早い方もいらっしゃいます。試合が始まるとボランティアさんの送迎バスの始発は朝4時になります! その始発のバスを動かすために、さらに早く働いているスタッフのみなさんも…。何時に起きて何時に出発しているんだろう? 選手はもちろん感謝しているはずです。でも、日常になってしまうとどうでしょう? なんとなく、ありがたい、で終わってしまうのではなく、感謝の気持ちをはっきりと行動に出すことが必要なのではないでしょうか。「おはようございます」の挨拶に感謝の気持ちを込める。小さなことですが、そういうことが大切だと思うのです。

今回、バンカーショットが苦手な私は、アプローチエリアのボール拾いをしながら男子プロのバンカーの技をじっくり見ていました。すると、選手の一人に『すみません。バンカーならしをお願いしてもいいですか?』と、声をかけられたのです。「はい! やっておきまーす」と、返事しちゃいました(笑)。こんな声かけも、感謝の気持ちのこもった挨拶の一つだと思います。

自分も含めて、人間は失敗する生き物です。でも、気が付いたら直せばいいのです。もちろん、きちんとできている選手もたくさんいるでしょう。けれども、できてない人が一人いたら、それが全体のイメージに影響するのは当たり前です。理事時代、そういうことも含めて若い選手には伝えてきたつもりでいましたが、もっともっと伝えなければならないことを実感しました。

週末はギャラリーとしても会場に足を運びました。そこでもボランティアさんのお仕事に感銘を受けました。早く練習場に行きたくて急いでいたら、選手が前を歩いていました。するとボランティアさんが私の前に入り、手を横に伸ばしました。なんだろうな?と思っていたら、選手との距離を保つように促すさりげない行動でした。

5000人のギャラリーが入ったとはいえ、まだまだコロナ禍。ソーシャルディスタンスが必要なのです。ボランティアさんの動きに気が付いた私は思わず歩みを緩めました。

PGAツアーの選手たちを見て改めて感じたのは、リズムが一定だということと、スイングスピードは速くてもフィニッシュでピタッと止まることです。一方、東京オリンピック金メダリストのザンダー・シャウフェレ選手のように、ゆったりしたスイングリズムできれいにコンタクトする選手もいます。

細かい技術的なことは私には語れないので、みなさんにはぜひとも現場で目と耳で感じていただきたいと思います。現場では生の“音”を感じられます。

現在、日本では女子ツアーのほうが男子よりも試合数が多い状況になっています。女子プロゴルファーとしてはうれしいのですが、一方で男子も盛り上がらないとプロスポーツは広がっていかないとも思っています。PGAツアーを見たことで、日本の男子ツアーがまた盛り上がる日が来るのを祈る気持ちがより強くなりました。

原田香里(はらだ・かおり)

1966年10月27日生まれ、山口県出身。11歳からゴルフを始めると、名門・日大ゴルフ部に進み腕を磨いた。89年のプロテストに合格しプロ転向。92年の「ミズノオープンレディスゴルフトーナメント」でツアー初優勝。93年には「日本女子プロゴルフ選手権大会」、「JLPGA明治乳業カップ年度最優秀女子プロ決定戦」勝利で公式戦2冠を達成。98年には賞金ランキングでも2位に入るなど通算7勝の活躍。一線を離れてからは日本女子プロゴルフ協会の運営に尽力。今年の3月まで理事を務めていた。

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