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小祝さくら、2週連続Vの裏に軽井沢の宿題クリア パッティング向上には2人の後押しが【辻にぃ見聞】

東京五輪明け2試合目となる国内女子ツアー「CAT Ladies」は賞金ランキングの首位を走る小祝さくらの2週連続優勝で幕を閉じた。23歳のショットメーカーは、なぜ東京五輪の銀メダリストで賞金ランキング2位につける稲見萌寧に競り勝つことができたのか。その小祝をコーチとして指導し、今大会では上田桃子のキャディを務めた辻村明志氏が要因を語る。

■総合力が問われる戦いに

舞台となった大箱根カントリークラブと言えば高速グリーンと、箱根の山々特有の気まぐれな天候が選手の行く手を阻む。今年は前週に日本列島を大雨が襲い、箱根付近の市町村でも被害が出る状況だったが、例年ほどではないにせよスピードは健在だった。

最終日は雨が降ったが、「多少柔らかくはなっていましたが、スピードは落ちていませんでした。11フィート位は出ていたと思います」と辻村氏が語るほどの素晴らしいコースセッティング。言い換えれば「デリケートなタッチが求められる状態でした」ということ。「今週は3パットが多く出ていましたね。ピン位置も2日目からシビアで、警戒心を持たない選手だと“やっちゃう”コンディションでした」と繊細さが求められた。

さらに最終日は突風と呼べるほどの強風が吹き荒れる展開。今までチャンスホールで流れを作れていた13番ホールは、パー5からパー4となっただけでなく、「最終日はすごいアゲインストで飛ぶ人でも210ヤードくらいしか飛んでなかった」という状態に。さらに長さもしっかりあるラフも相まって、「総合力が問われたと思います」と辻村氏が言うように賞金ランキング1位と2位の今季好調な選手同士の戦いとなった。

■軽井沢の宿題をクリアして臨めたからこそ

東京五輪で空いた一週間に辻村氏とプチ合宿を行い、調子を上げて臨んだ「NEC軽井沢72ゴルフトーナメント」を3月以来の優勝を果たした小祝だったが、実は宿題が残っていた。最終日に一度もフェアウェイを捉えられなかったティショットである。

「軽井沢を見ていてもアイアンは非常に調子が良かったのですが、ドライバーやスプーンでのショットのときに思ったよりも球がつかまっていない。試合後の練習で見てみると、少しだけ体が開きクラブが上から、そして外からボールに入ってきていました。ドローヒッターでボールがつかまらないと手を使ってつかまえようとする余計な動作が入りますし、アライメントも難しくなります」

月曜日から修正作業が始まった。ボールに対してクラブが上、外から入ったら当たる位置にガムテープを置いての打ち込みで一球ごとに軌道を確認。するとすぐに効果が現れた。「箱根に向かう火曜日にはつかまったいいストレートドローのボールが出ていました。これなら大丈夫だと思いましたね」と夏休みの宿題を早々に終わらせた。

■好調パッティングの裏に2人の功労者

とはいえ、いくらショットが良くても最後の仕上げが決まらなければスコアを伸ばすことはできない。難グリーンの大箱根ならなおさらだ。そんななか小祝の平均パット数は3日間で3番目となる28.67回。グリーン上でも強さを発揮した。

パッティングが良くなるきっかけとなったのは、調子がなかなか上がらず、成績が伸び悩んでいた7月のこと。ホームコースで小祝のパッティングをチェックしていると辻村氏は小祝の目線のブレに気づいた。

「目線を落とした位置がボールを追い越していました。つまり、ボールに近づきすぎていたということです。こうなると腕を動かすスペースがなくなる。ストロークする懐がなくなってしまい、インパクト際で詰まってしまいます。さらに言えば目線がズレるからラインも読めなくなる。ボールから離れて正しい目線を送るようにしようと話しました」

その日の夜のこと、ジャンボ尾崎のキャディを務めた佐野木計至氏から辻村氏のところに連絡が来た。「さくらのプレーをテレビで見た佐野木さんから同じことを言われたんです。“窮屈そうじゃのぉ”って。いつもアドバイスをくださるのですが、この日はまさにドンピシャ。分かる人には分かるんだなと。自分が間違っていないと自信を持てました」。その日からは毎日パッティング時の目線をホテルで確認するようにした。結果、転がりも日に日に良くなっていった。

小祝のパッティングを上向きにさせたもう一人が、同じく辻村氏に師事する山村彩恵だという。山村は5月末に「リゾートトラストレディス」で辻村氏にキャディをしてもらった際に聞いたこと、学んだことを自分なりにかみ砕いて伝えていた。

「彩恵が丁寧に教えてくれたおかげで、パッティングに対しての意識・考え方が見違えて変わりました。ラインを読む作業、構える作業。これらは打つよりも大事と言っても過言ではありませんが、おろそかになっていた部分がありました。それが一球一球丁寧にやるように変わりました。こうなれば当然入る確率は上がってきます。チームの良さが表れてくれました」

■いざ昨年のリベンジへ

元々の武器で調子が上がったアイアンショットに加えて、課題としていたパッティングの向上、さらに宿題としていたティショットの改善。これらすべてがかみ合っての2週連続優勝だった。

「もちろん、相手の稲見さんが崩れたこともありますが、そうなったときに勝てる位置にいられる強さがあって優勝を呼び込めた部分もあったと思います。後半の16番の手前1メートルにつけたショットはお見事でした。結果だけでなく、体の芯と軸が全くブレていませんでした。練習のように打てていましたね」

3週連続優勝がかかる次週の試合は「ニトリレディス」。小祝にとっては地元北海道での試合であり所属先のホステス大会。さらに昨年優勝争いを演じながらも笹生優花に敗れ「リベンジしたい」と1年間思い続けたトーナメントである。

舞台はツアー屈指の難コース・小樽カントリー倶楽部。4日間大会の体力・気力・技術すべてが問われる大会となるが、辻村氏も「今は総合力がある。どれをとってもいい状態にあると思います」と太鼓判を押す。小祝の勢いはまだまだ続きそうだ。

解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子、山村彩恵、松森彩夏、永井花奈、小祝さくら、吉田優利、阿部未悠などを指導。様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。

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