このエントリーをはてなブックマークに追加

木下稜介はプレッシャーに打ち勝ち悲願の初V “宍戸の女神”と“ギャラリー”を味方につけた!?

<日本ゴルフツアー選手権 森ビルカップ Shishido Hills 最終日◇6日◇宍戸ヒルズCC西C(茨城県)◇7352ヤード・パー71>

今年初戦の「東建ホームメイトカップ」では最終日最終組で、首位の金谷拓実と1打差の2位からスタートしたものの、勝負所のパットが決まらずに初優勝を逃していた木下稜介。そして、4打差の首位で再び巡ってきた今回の最終日最終組では、要所でのパットが光り、最終的には2位に5打差をつけて圧勝。「本当にこの初優勝が遠くて、呪縛じゃないですけど、本当に勝つまで苦しかった。その荷物をやっときょう下ろせた」とホッとした表情を見せた。木下はプレッシャーをどうコントロールしたのか。

「4打差が逆にプレッシャーでした。『4打あって勝てなければ、もう勝てない』と思いたくもなかったんですけど、どこかに(その思いが)あって、プレッシャーでいっぱいでした」。木下は前日の夜9時半に就寝したが、朝4時に起きてからは寝られなくなり、一人プレッシャーと戦っていた。木下のスタートは午前10時45分。およそ7時間前には起きていたことになる。

スタートホールのティショットでは、「きょうだけすごく狭く感じて」とドライバーがいきなり右の林の崖上へ。それでも、何度も初優勝のチャンスを逃してきた木下に宍戸の女神が微笑んだ。

「奇跡的に前が空いていて。ツイているとしかいいようがない」。ベアグランドの土の上から、枝を避けるように低い球でグリーン手前のラフまで運び、20ヤードのアプローチは40センチに寄せてパーセーブ。同組で2位につけていた古川雄大(ゆうき)と大岩龍一がそれぞれ2メートル、3メートルのバーディチャンスを外して、4打差は変わらず。

続く2番パー5では、ドライバーでフェアウェイど真ん中をとらえてバーディを奪取。古川と大岩はバーディが獲れずに、差は5打に広がった。「2番のティショットは、1番で右にいったので気持ち悪かったんですけど、自信を持って完璧に打てた。そこでかなり落ち着くことができました」。

4番パー4では52度のウェッジで5メートルにつけたチャンスをねじ込み、6番パー5では、3打目のアプローチを30センチに寄せて、順調にスコアを伸ばしていった。難しい8番パー4では、3番ウッドでのティショットが左のラフに飛んだが、再び宍戸の女神が木下に微笑む。前方に大きな木があったが、木と木の間の向こう側にグリーンが見えていた。ピンの左7メートルに乗せると、危なげなく2パットで沈めてパーセーブ。7番、8番、9番とボギーになってもおかしくない状況を切り抜けて、2位に6打差をつけて折り返す。

そんな木下に10番パー4で試練が待っていた。ドライバーでのティショットではしっかりフェアウェイをとらえたが、残り221ヤードから4番アイアンで右プッシュしてグリーン右サイドのラフへ。落としどころが狭く難しいアプローチをショートして、3打目でも乗らず。4打目は「ファーストカットとラフの境目で逆目のライ」で、このアプローチは2メートルショート。しかし、それをねじ込んでナイスボギーで収めた。

今大会では4番ホールから10番ホールまではギャラリーが入れない観戦不可エリアだったが、10番グリーンの近くにいたギャラリーたちが、この日初めてボギーを叩いた木下に暖かい拍手と声援を送る。「10番のボギーでくじけそうになったんですけど、いろんな方が声をかけてくれた。思い込みかもしれないですけど、ボランティアのみなさんも含めて、ほとんどの方が僕を応援してくれて、それがすごく力になりました」と木下は振り返る。

さらに12番グリーンでは、脇で見ていた小学生くらいの少年にボールをプレゼント。プレッシャーのかかる状況でも木下にはしっかり周りが見えていた。

「きょうは集中しすぎないでおこうと、思っていた。周りを見ながら、キャディさんとしゃべりながら、どれだけプレッシャーを逃がすかがきょうの課題だった。あの子供が2番ホールにもいて『ナイスバーディ』って声をかけてくれた。12番ホールにもちょうどいたので、気持ち的にはいっぱいいっぱいになりかけていたんですけど、ボールをあげたことでちょっと落ち着けたかなと思います」

ギャラリーの声援を力に変えて、そしてうまく利用しながらプレッシャーをやりすごし、涙、涙の初優勝となった。ツアー初優勝が国内メジャーという快挙に「もうサイッコウにうれしいです。もっともっと優勝を重ねてマスターズにも行きたいですし、(松山)英樹に追いつけるように勝ち星を10勝、20勝目指して頑張りたい」と冷静にプレーしていたラウンド中とは一転して、笑顔が飛び出す。

来月16日に30歳の誕生日を迎える木下のゴルフ人生は、常に同い年の松山英樹や石川遼と比較されてきた。「遼が高校生でツアー優勝して、英樹が(大学生で)マスターズに行って、レベルが違いすぎたので比較されて嫌になったりはしなかった」と木下。さらに「年上でもなく年下でもなく、同級生なので一番刺激がもらえる。(2人が)同学年で本当に良かった。比べものにはならないですけど、この優勝で一歩近づけたかなと思います」と話す。

「気分転換でクラブを握らない選手もいますけど、僕はそれが嫌で。クラブを握っているときが一番落ち着く。ゴルフ大好き野郎ですね」と笑う29歳の夢は大きい。今回の優勝で来年から5年シードを獲得して、「ヨーロッパでは川村(昌弘)選手も頑張っていますし、PGA(米ツアー)では英樹も頑張っている。自分もそこに割って入れるように、ヨーロッパツアーのQTに挑戦したり、積極的に世界に出ていきたいです」。プレッシャーの壁を打ち破った木下の前には、“世界”という大海原が広がっている。本当におめでとう。(文・下村耕平)

<ゴルフ情報ALBA.Net>