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“青木とジャンボを足したような逸材” 日本人最高峰の松山英樹、6勝目に足りないものは?【PGAツアー公式コラム】

スポーツ界でスターになるには、様々な方法がある。根性、意欲、意志を持って自らの技術を極める者、一方で、生まれながらに授かった才能で他の選手を優に超えてしまう者もいる。

ボールを強く押し込む! 松山英樹のドライバーショット【連続写真】

運が味方して、というのもひとつだ。

日本のスターである松山英樹がその一人。彼の輝かしいキャリアを振り返ると、PGAツアーでの急成長は運が手助けした部分もある。

スタートは、2010年に日本で行われた「アジア・パシフィック・アマチュア選手権(AAC)」。通常、同大会への出場資格は世界アマチュアゴルフランキングの日本人トップ6までに与えられるが、開催国には4枠が追加。松山はそこに滑り込んだ一人だった。そこから大会連覇を果たすことになるが、ここが松山のサクセスストーリーの第一歩となる。

AACは、アジア太平洋ゴルフ連盟、マスターズトーナメント、R&Aによってゴルフ発展のための共同事業として09年に立ち上げられた。もしこれが他国で開催されていたなら、「松山」の名前は今日のゴルフ界にここまで浸透していなかったかもしれない。

チャンスを存分に生かし、松山は2位に5打差をつけて圧勝。これにより11年の「マスターズ」出場権を獲得し、オーガスタナショナルでローアマに輝き、シルバーカップを日本に持ち帰った。松山はこの成功を「人生を変える出来事」と振り返った。

「マスターズで予選通過できたことは、プロとしてプレーできると気づかせてくれた。10年のAACで追加枠に入れたのは運が良かった。最終ラウンドは緊張したが、優勝が決まるまで1打1打に集中できた」

当時の大会ディレクターを務めていたのが、現R&Aのアジア太平洋ディレクターのドミニク・ウォール。彼は日本の新星を讃えた。「1週間素晴らしいプレーをし、最後まで集中力を持続させた。開催国で優勝し、翌年はシンガポールで連覇した彼の才能と、今後の可能性が見られたのは素晴らしい経験だった」

続けて、松山の“運”についてこう続けた。「当時、日本からは世界アマランクの枠で藤本佳則、浅地洋佑、大田和桂介、宇佐美祐樹、伊藤誠道、川村昌弘の6人が出場していた。開催国の4枠を利用して英樹は出場したが、あの年に日本で行われていなければ英樹はプレーすらしていなかった!」

PGAツアーでシードを獲得するために膨大な時間をかける選手もいる中、松山は瞬く間に駆け上がっていった。13年シーズンは7試合に出場。「全英オープン」6位タイを含むトップ25に6度入り、非会員カテゴリーからシード権を獲得した。

「7試合だけでシードを獲れたのは嬉しい。11、12年のマスターズ予選通過は、ツアーで戦っていけるという自信を持つカギになった」と松山は語る。「オーガスタナショナルには感謝の気持ちでいっぱいです。アマチュアとしてマスターズでプレーする機会を頂き、プロとしてプレーする私の夢を叶えてくれた。AACでの優勝は僕の人生を変えた」

そこから松山のキャリアで重要なポイントとなったのは、PGAツアーでの初タイトル。14年、ゴルフ界のレジェンドであるジャック・ニクラスのホームで成し遂げられた。壮絶なプレーオフの末に「メモリアル・トーナメント」でケビン・ナを破り、17年までにさらに4勝。アジア人で初めて世界ゴルフ選手権シリーズのタイトルも獲得した。現在ツアー通算5勝は、日本人最多だ。

ニクラスは、青木功やジャンボ尾崎といった、かつての日本人スターと松山を比較する。「英樹は強い。青木とジャンボを足したような選手だ。体も大きく強く、素晴らしいパッティングタッチを持っていて最高のゴルフが備わっている。何勝もするだろう」とメジャー18勝のレジェンドは述べた。

17年には「全米オープン」でメジャー最高位の2位をマーク。7月の世界ランクでは自身最高の2位にまで駆け上がった。そこから約3年は優勝から離れているが、19-20年シーズンではすでにトップ10が5度と、6勝目は近いように思える。

松山と同い年のC・T・パンは、アマチュア時代から松山の名前をよく耳にしていた。2人は昨年12月の「プレジデンツカップ」でタッグを組み、2勝を収めている。「最初の印象は、すごい可能性を秘めた素晴らしい選手。プレジデンツカップで知り合えてよかった。彼の冷静さと集中力はすごい。すぐにでもメジャーチャンプになると信じている」

しばらく優勝から遠ざかっていても、松山は焦りを見せない。その様子はまるで、彼独特のトップで一瞬止まる、ゆったりとしたスイングのようだ。

「まだまだ学ぶことが沢山ある。毎年ツアー選手権でプレーすることや、ツアーで優勝すること、もちろんメジャー制覇も。自分が決めた目標を成し遂げるには、すべきことが多くある」

着々と次の勝利に向けて準備は進めている。あとは“運”が後押ししれくれたなら、その日はもう間近だろう。

文・Chuah Choo Chiang

PGAツアーコミュニケーションのシニアディレクター。マレーシア、クアラルンプールに拠点を置く。

<ゴルフ情報ALBA.Net>