このエントリーをはてなブックマークに追加

米ツアー再開初戦がもたらした収穫とは?【舩越園子コラム】

コロナ禍からの脱却に踏み出した米ツアー再開初戦の「チャールズ・シュワブ・チャレンジ」は、ダニエル・バーガーがコリン・モリカワ(ともに米国)とのプレーオフを制し、通算3勝目を挙げた。

それにしても米男子ツアーが再開した一方で、米女子ツアーは今なお休止中。7月下旬の「マラソン・クラシック」からの再開が期待されているものの、メジャーの「エビアン選手権」が中止された影響を受け、再開は8月下旬までずれ込む可能性もある。そうなれば、米男子ツアーと米女子ツアーの再開時期には2カ月以上のギャップができることになる。

米男子ツアーのジェイ・モナハン会長は積極的でアグレッシブ。米女子ツアーのマイケル・ワン会長はきわめて慎重だ。そんな両会長の考え方や性格の違いが各々のツアーの姿勢に反映されていることは言うまでもない。だが、一番気になるのは、つまるところ、プロゴルフの大会は誰のため、何のためのものなのかということである。

再開を先延ばししている米女子ツアーのワン会長は、こう語っている。

「私たちLPGAの大会は、単にプレーを見せるだけのショーではない。私たちはショーの一部に過ぎず、大勢のファンや開催地のコミュニティと一緒になってショーをつくり上げていく。無観客で、プロアマもディナーも無しになるのなら、大会を開催する意味はない」

折しも、米男子ツアーの再開5戦目になるはずだった「ジョン・ディア・クラシック」の大会ディレクターは、このワン会長と同じ言葉を口にして、記念すべき創立50周年を飾るはずだった今年の大会の中止を決めた。

「無観客なら入場料収入が得られず、収益が出ないとなると地域社会への還元ができない。それならば、大会を開催する意味はない」

大会はファンのため、地域社会のため。それが米女子ツアーやジョン・ディア・クラシックにとっての命題だ。

スポーツ界の先陣を切って再開を果たした米男子ツアーのモナハン会長は「我々が最初に動き出したことを誇りに思う」と胸を張った。ともすると、それは男子ツアーがプライドや意地をかけて再開し、自己満足、自己陶酔しているように見えなくもない。

しかし、再開初戦に挑んだ選手やキャディ、大会関係者は、さまざまな不安を吹き飛ばし、勇気を振り絞ってコロニアルCCに足を踏み入れたのだ。感染防止のためのガイドラインとて、絶対的な安全性が保証されているはずはなく、試験的に採り入れながら改善改良していくしかないわけだから、初戦に挑んだ選手たちは、未曽有のコロナ禍からの脱却を目指す「草分け」という重責を遂行したと言っていい。

それが自分たちだけのためなのかと問われたら、もちろん答えは「ノー」である。自己満足や自己陶酔のために命がけで試合に挑むはずはなく、彼らが必死に戦う意味は、やっぱりファンを喜ばせ、地域社会を支えることにある。そういう大きなものを担っているという自負があるからこそ、大きな冒険、果敢な挑戦ができるのではないだろうか。

故障による不調を克服し、3年ぶりの復活優勝を遂げた27歳のバーガーは「ここ数年、とりわけ先月は世界中の誰よりも猛練習した。大勢のゴルフファンに再びいいプレーを見せることができてうれしい」と感無量だった。

米国から世界へ拡大している人種差別への抗議に対し、米ツアーで最初に声を発した黒人選手のハロルド・バーナーIII(米国)は、SNS上で寄せられた大勢の人々からの声援を糧に優勝戦線に浮上。残念ながら週末は失速したが、「たくさんのエールをもらった。いい1週間だった。次戦も頑張りたい」と戦意を高めた。

無観客であっても、選手たちの背後にはファンの存在があり、選手たちが人々のためにプレーしていることに変わりはない。選手とファン、地域社会とのあいだには一方通行ではなく双方向の温かい心の交流がある。

大観衆の姿も大歓声もない無観客試合は、盛り上がるのかと問われたら、正直なところ、静かすぎるし、テンポも緩慢で、エキサイティングだとは言い難い。

だが、少なくとも、ただ単にプレーを見せるだけのショーではないことは認識できた。それが、賛否両論が渦巻く中で開催した米ツアー再開初戦の収穫だった。

文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

<ゴルフ情報ALBA.Net>