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2試合中止の問題点と、その間にできること【小川淳子の女子ツアーリポート“光と影”】

女子ツアーの開幕から2試合が中止になった。言うまでもなく、新型コロナウイルスの感染が広がっているからだ。

華やかに女子ツアーの幕を開けるはずだったダイキンオーキッドレディスが中止となり、2戦目の明治安田生命レディス ヨコハマタイヤゴルフトーナメントもこれに続いた。ダイキンは当初、プロアマと前夜祭の中止と無観客試合として行うことを2月19日に発表。その後も状況は悪化し、26日の政府声明で中止を決めた。「大規模なスポーツ、文化イベントは、今後2週間程度中止か延期、縮小するよう求める」というあれだ。その2日後、28日に日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)は「政府の国家的課題として感染予防に取り組む強い姿勢を重く受け止め、最大限の協力の観点から」と、その理由を語っている。第2戦中止の報は、その3日後、3月2日にもたらされた。理由は同様だ。

クルーズ船ダイヤモンドプリンセスの乗客たちの例を出すまでもなく、明らかに日本政府はウイルス対策の“初動”で失敗している。2月24日に厚生労働省が「拡大するか収束するかはここ1〜2週間が瀬戸際」と声明を出したのがお笑い種なほど、後手後手で、しかも場当たり的な対策。それをあおる大手メディア、振り回される国民…。そんな図式がとっくにできあがっている。

だが、腐っても政府。後手後手でも、場当たりでも、その発表や声明が、何かを決める指針となることは、想像以上に多い。事実、JLPGAはそれを受けて大会中止を発表している。

「人が集まることでウイルス感染が広がるからイベントを中止する」こと自体は、状況からしてまちがっていない。ゴルフのプレーそのものは、都内で動いているよりよほど風の通る解放された空間だから、安全だ。それでも、イベントをすれば多くの人が集まる。無観客試合であっても、それなりに人が集まるから、との判断もあるだろう。

問題はそこではない。中止決定のプロセスに、選手たちの意見がまったく反映されていないこと。大会主催者がそれぞれ違うため、1試合ずつズルズルと中止が決まること。この騒動終息後についての思慮が足りないことなど、突っ込みどころはいくらでもある。

開幕戦も、2戦目も、主催者との話し合いで開催を断念したとある。実際、選手達は、うわさとしては覚悟をしていたものの、正式に知らされたのはリリースと同じタイミング。決まったことをすぐに発表したという意味では悪くないが、選手の都合など、まったく考えてないという側面もある。先ごろ、日本プロ野球機構(NPB)と『新型コロナウイルス対策連絡会議』を設置したJリーグの村井満チェアマンが言った「ビジネスサイドだけでなく、選手再度の意見も反映する必要がある」という言葉と比較すると、選手が置き去りになっている感が強い。

小林浩美会長を始め、理事7人全員がJLPGA会員(プロ)だというのに、個人で移動し、宿泊し、スケジュールを立てて調整する選手の立場を全く考慮していない。政府の方針を錦の御旗に掲げるのなら、少なくとも開幕から2試合は中止、と早々に決めればよかったこと。戸惑いながら、この先の状態を探りながらの調整を強いられ、さらに金銭的な負担も大きいことなど、わかっているはずなのに、それをしない。結局「●試合は無観客試合」というように決められないのは、ツアーが主催権を持っていないという歪んだ仕組みが野放しになってきたからだ。

いざというときにウイークポイントが露呈するのは、個人も組織でも同じこと。周囲の顔色をうかがい、無駄に空気を読む必要はない。それよりも、できる限り情報を入手し、どこまで影響が及ぶかを最大限に考えて主体的に動き、決めたことはすぐに公にする。当たり前のことを当たり前にしていくことで、危機は乗り切ることができる。

今回の騒動が経済的に与える影響はとてつもなく大きい。すでに、観光業や飲食店など、体力のないところが破たんし始めている。スポーツやエンターテインメントの世界が、まっ先に危機にさらされることは、震災で十分にわかっているはずだ。

先行きがはっきりしない状況に不安を覚えるのは仕方がないこと。そのことから目をそむけずにできる適切な対応は、一体何なのか。やむなく閉じこもり、ストレスのたまった人々を笑顔にする力がスポーツにあることも、震災でよくわかったはずではなかったのか?

試合ができないなら、そうでない方法でもっとファンの気持ちを和らげる方法を考えればいい。SNSなどを通じて個人的に、そういう行動をしているプロもいる。プロアスリートの役割は、そこにある。

再び、試合ができる日まで、どうファンの心を明るくできるか。それを考えれば、答えはおのずと見えてくるはずだ。ツアーだけでなく、ゴルフの良さも、自然に伝えることができる。大会開催を自粛したからといって、できることはいくらでもあるのだから。(文・小川淳子)

<ゴルフ情報ALBA.Net>