<コマツオープン 最終日◇3日◇小松カントリークラブ(石川県)◇6919ヤード・パー72>永久シードプレーヤーの53歳、片山晋呉がシニア3勝目を飾った。昨年は開幕戦で優勝するなど好スタートを切ったが、6月に腰痛を発症。椎間板に細菌が感染する化膿性椎間板炎と診断され、約2カ月の入院生活となった。今季、本格復帰を果たし、待望の復活優勝を手にした。
優勝争いを演じて2位に入った5月「リョーマゴルフ 日高村オープン」では、勝利を逃した悔しさよりも、「しびれる時間に戻ってこられたことが幸せ」と話していた。「去年は、(ゴルフを)やっていないみたいなものだからね。1年前なんて階段は絶対に歩けなかったもんな…」。そう振り返る表情にあったのは、喜び以上に安どだった。
首位と1打差の2位で最終日を迎えた。1番パー5で2打目をグリーン右のバンカーに入れたものの、約40ヤードから30センチにつけてバーディ発進。3番で7メートルのパットを沈めてバーディを奪うと、右手の拳を空に突き上げた。4番で4メートル、5番では5メートルを沈めて3連続バーディ。早々に単独首位へ浮上した。2位に2打差をつけて後半へ入ると、惜しいパットが続いてパーが並んだ。それでも16番では6メートルを沈めてバーディ。キャディとほほ笑み合っていた。「苦しかったけど、病院で寝ていることを考えたら全然楽しいし、こういう時間のために30年もやっているわけだから、むしろ冷静に勝負ができた」。ゴルフができなかった時間があったからこそ、目の前の18ホールを戦えること自体が特別だった。
この優勝を語るうえで欠かせない存在がいる。「話したら、泣いちゃうかもしれない」。窓の外に目を向け、少し目を潤ませながら口にしたのは、黒澤ヒカル氏のこと。マネージャー、そしてキャディを務めている。小学生のころから片山の追っかけファンだった黒澤氏は、4年前からマネージャーを務めている。片山にとって、「ずっと僕のそばにいてくれた」特別な存在。入院していたときは、「病院に毎日来てくれて、夕飯をいつも買ってきてくれた」。ゴルフから離れ、苦しい時間を過ごす片山のそばに、黒澤氏は寄り添い続けた。「彼も“なんなんだろうな”と思った時期もあったと思う。こうして勝てて、1番に喜んでもらっているだろうし、僕のことを1番支えてくれている。まずは1回目。本当に、一緒に勝ててよかった」。これまでもタッグを組んできた2人だが、18ホールを戦い、勝利を手にしたのは今回が初めて。ホールアウト後はグリーン上で抱き合い、満面の笑みを浮かべた。
黒澤氏は、片山に負担をかけないよう、細やかなサポートを続けている。練習中は常にそばにいてスイングについて話し合い、プレー中も飲食物を持ち歩き、片山のペースに合わせて渡す姿が印象的だ。「沖縄以外、全部車で行ってくれている。今度は長崎だけど、『いや、車で行きます。僕の負担はないし、荷物が多いから、そういうことも全部含めて車で行きます』って。そういうことってなかなかできないよ。26歳って青春時代じゃないですか」。言葉の端々から、黒澤氏への感謝があふれた。黒澤氏のことを「親子のように思っている」と話す。「僕が25歳のときに、父は53歳で亡くなっている。ちょうど(黒澤氏の年齢と)一緒なんですよ。だから、子どもだと思って接してはいます。彼にとって嫌な時間もいっぱいあるし、きついことも当然あるとは思う。でもスポーツ選手ってこういうことで報われることがあるから。彼のこれからの人生で、いい1ページになったんじゃないかな」。“息子”と表現する理由には、自身の父への思いと、黒澤氏との年月が重なっていた。今大会の副賞『コマツ ミニショベルPC20MR-5』は、黒澤氏の実家が米農家ということもあり、「ずっと欲しいと言っていたからね。喜んで使ってくれるのであれば」と贈る予定だ。
片山を支えているのは、黒澤氏だけではない。今週はスポンサー契約を結ぶ地元企業・SANDECの代表取締役社長、五月女久勝氏が毎日、お手製のおにぎりを差し入れた。五月女さんは優勝に「本当にうれしいです」と感極まった様子。多くの人に支えられながら、片山は再び勝利を手にした。
シーズンは終盤に入っている。片山が掲げる目標は明確だ。「来年のアメリカに出ないといけない。全米プロ、全英、全米オープンに行きたい。(賞金ランキングで)2位に入らないといけないということだけ」。シーズン終了時の賞金ランキング2位までに翌年の海外メジャー「全米プロシニア」、同4位までは「全米シニアオープン」、同10位までの上位2名には「全英シニアオープン」への出場権が与えられる。すべてのメジャーに出場するには、賞金ランキング2位に入るのが条件となる。世界の舞台を見据える片山にとって、今回の勝利は復活の証であると同時に、次なる目標へ進むための一歩でもある。昨年、病院のベッドで過ごした時間を乗り越え、再び優勝争いの輪の中へ戻ってきた。そして、最も近くで支えてくれた、絶大な信頼を置く“息子”とともに勝利をつかみ、復活を強く印象付けた。特別な存在と、まずは勝利の美酒をじっくり味わいたい。(文・高木彩音)
<ゴルフ情報ALBA Net>




