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「22勝」のシェフラーが「82勝」のタイガーの生涯獲得賞金を超えられたワケ【ゴルフ界のマネー異変】

9勝して918万8321ドル。これは「史上最強のゴルファー」とも称されるタイガー・ウッズが、2000年の1年間にPGAツアーで稼いだ公式賞金である。それから26年、世界ランキング1位のスコッティ・シェフラーは、たった1試合の優勝で1000万ドルを手にした。

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1ドル150円なら約15億円。タイガーが9勝した歴史的な1年間よりも多い金額を、4日間の大会で稼いだことになる。そして、この1000万ドルによってプロゴルフの歴史が一つ動いた。米男子ツアーのシーズン最終戦「ツアー選手権」でシェフラーが優勝。2024年以来2度目のフェデックスカップ年間王者に輝き、PGAツアー通算22勝目を挙げた。優勝賞金1000万ドルが加算され、生涯獲得賞金は1億3039万661ドル、約195億円。タイガーの1億2099万9166ドルを抜き、ついに歴代1位となった。ここでゴルフをあまり知らない人なら、一つの疑問が浮かぶのではないか。タイガーはPGAツアー通算82勝。シェフラーは22勝。それなのに、なぜ賞金ではシェフラーの方が上なのか。その答えには、シェフラーの圧倒的な強さとともに、プロゴルフを取り巻く経済環境の劇的な変化がある。タイガーが初めてPGAツアーの生涯獲得賞金1位になったのは2000年2月。通算賞金を約1283万ドルに伸ばし、当時トップだったデービス・ラブIIIを抜いた。24歳だった。プロ転向後、PGAツアー約73試合で頂点に立ったことを考えれば、タイガーのスピードは驚異的である。一方、シェフラーが今回タイガーを抜いたのは通算170試合目。「生涯獲得賞金1位になるまでの速さ」ではタイガーに及ばない。しかし、越えなければならない金額がまったく違う。タイガーがトップになった2000年は約1283万ドル。それに対してシェフラーが越えたタイガーの記録は約1億2100万ドルだった。生涯賞金1位になるためのハードルは26年間で約9.4倍になったのである。単なる物価上昇だけでは説明できない。世界最高峰のプロゴルファーの「市場価格」そのものが大きく変わったのだ。その変化を象徴するのが、2000年のタイガーと現在のシェフラーの比較である。2000年のタイガーは9勝した。全米オープンでは2位に15打差をつけて圧勝し、全英オープン、全米プロも制覇。ゴルフ史に残るシーズンだった。それでも年間公式賞金は918万8321ドル。シェフラーは今回のツアー選手権1試合だけで1000万ドルを獲得した。「タイガーが9勝した1年間」より「シェフラーが勝った1試合」の方が高い。現在のPGAツアーの経済規模を、これほど分かりやすく示す数字はないだろう。しかもシェフラーは、最終戦優勝の1000万ドル(生涯賞金にカウント)に加えて、レギュラーシーズンをフェデックスカップ・ポイント1位で終えたことによる2300万ドルの年間ボーナスも手にしている。このポイントボーナスは公式戦の賞金記録とは別枠で加算されるものだ。2026年の年間公式賞金3093万7525ドルにこのポイントボーナスを合わせれば、シーズン総収入は5393万ドルを超える。1ドル150円換算で実に80億円以上だ。もちろん、用具メーカーやウェア、広告などの巨額なスポンサー収入はこれに含まれていない。生涯獲得賞金1億3039万ドルという数字でさえ、最高峰のゴルファーが得る経済的対価のほんの一部にすぎないのである。なぜ賞金はここまで高騰したのか。大きな転機の一つが、2022年に本格始動したLIVゴルフだった。サウジアラビア政府系ファンドPIFを背景に、フィル・ミケルソンやダスティン・ジョンソンらトップ選手を巨額契約で獲得した。対抗するPGAツアーも高額賞金大会を増やした。ジェネシス招待、アーノルド・パーマー招待、メモリアル・トーナメントなどは賞金総額1200万ドルから2000万ドルへ、ザ・プレーヤーズ選手権も2000万ドルから2500万ドルへと増額された。LIVの登場によって「トッププロにはいくらの価値があるのか」という競争が激しくなったのである。ただ、賞金高騰をすべてLIVだけで説明することはできない。テレビ放映権やスポンサー、デジタル配信などによってスポーツビジネス自体が拡大してきた。そしてPGAツアーの商品価値を大きく高めた最大の功労者の一人が、ほかならぬタイガーだった。つまり、タイガーが巨大化させた市場で、シェフラーがタイガーの記録を抜いたともいえる。もちろん「賞金が上がったから歴代1位になれた」で終わらせてはいけない。2026年のシェフラーは20試合に出場して3勝。2位5回、3位2回。トップ10が13回で、トップ25を外したのはわずか1試合だった。選手が平均的な出場選手より1ラウンドで何打優れていたかを表す「ストローク・ゲインド・トータル」は1位。ショットの総合力を表すSGティー・トゥ・グリーンも1位だった。さらに、かつて最大の弱点だったパッティングも改善。2022-23年シーズンにはSGパッティング162位だったが、2026年は6位まで上昇した。もともと世界トップだったショット力に、トップクラスのパットまで加わった。「賞金が高い時代に、その高額賞金を最も多く手にできるほど強い」。これが現在のシェフラーなのである。そして、日本人にも世界の歴代上位に迫る選手がいる。松山英樹である。松山はPGAツアー通算310試合で11勝。生涯公式賞金は6816万524ドルに達した。そのすごさは、日本人同士で比較すると分かりやすい。松山に次ぐのが、日本人としてPGAツアー3勝を挙げた丸山茂樹で、生涯賞金は1380万9170ドル。松山は約4.9倍、金額では約5435万ドル多い。もちろん丸山が活躍した2000年代とは賞金水準が大きく異なるため、単純に金額だけで比較することはできない。それでも、丸山が「日本人がPGAツアーで勝てる」ことを証明し、その道を松山が11勝まで広げた意味は大きい。松山はいま、生涯賞金でも世界歴代トップ10圏が視野に入る位置まで来ている。かつて日本人のPGAツアー1勝が大ニュースだった時代から、日本人が世界歴代トップ10を狙う時代へ。ここにも、世界のゴルフが大きく変わった四半世紀を見ることができる。シェフラー22勝、タイガー82勝。それでも生涯賞金ではシェフラーが上回った。この一見不思議な数字の逆転は、シェフラーの強さだけでなく、タイガーが作り上げた市場、LIVとの競争、そして世界のスポーツビジネスの拡大を映し出している。そして、その巨大な市場で松山英樹も世界の歴代トップ10を狙っている。これからPGAツアーを見るときは、スコアや勝敗だけではなく、「世界最高峰のゴルファーの値段」に注目してみるのも面白い。(文/嶋崎平人)

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