2024年限りでツアーから撤退した上田桃子や、2025年のプロテストに合格した藤本愛菜、千田萌花らが所属する「チーム辻村」。そのチームを率いるプロコーチ・辻村明志氏に、体の幅でボールを打つための練習法についてじっくり話を聞いた。
【連続写真】超貴重! 野球といえばこの人、長嶋茂雄氏のアイアンスイング
◇ ◇ ◇オフの合宿には必ず来てくれる訪問者がいます。福岡ソフトバンクホークスにCBO(チーフ・ベースボール・オフィサー)の城島健司さんです。いつも話に花が咲くのが打撃論。2人で改めて確認し合うのが、野球もゴルフも基本は「体の中心でボールを打つ」ということです。プロはもちろん、プロを目指す選手たちにもやらせているのが、テニスラケットとタイヤを使った練習です。方法はいたって簡単。自動車のタイヤを目標側に立て(接地部分が自分に向くように)、それを目がけてラケットを振ります。ただし、タイヤを打つわけではありません。タイヤにわずかに当たるところで寸止めするのです。悪いスイングを表す言葉に、「体が流れる」「開く」という表現があります。「流れる」「開く」とは、言い換えればエネルギーロスです。寸止めは、それを防ぐための練習ですが、まず体の真正面でタイヤを捉えなければできません。クラブの代わりにラケットを持たせているのは、インパクト時のフェース面を意識させるためです。これが真っすぐ当たらないのは、体の真正面でインパクトを迎えていない、「流れる」「開く」動きの証拠だからです。ラケットのフェース面が真っすぐのまま、タイヤの手前で寸止めできると、体のどこに変化が現れるでしょうか。それは高まる腹圧です。一瞬で息を吐き出し、お腹に力が入る感覚が理解できるでしょう。その力は、おそらく普段のスイングでは感じられないものです。それが体幹であり、荒川博先生の言うところの「臍下丹田(せいかたんでん)」。ヘッドスピードに対してボール初速が1.5倍になるという理想的なミート率の正体であり、高いエネルギー効率を生むスイングなのです。城島さんとの話で思い出したのが、荒川先生の愛弟子であり、巨人V9戦士の一人でもある黒江透修さんの言葉でした。荒川先生が日本刀を使った練習を、王貞治さんをはじめ愛弟子たちに行わせていたことは有名です。天井から垂らした短冊や、水に浸した藁束を斬る練習でした。しかし黒江さんは、「荒川さんは斬らせるよりも、止めることをすごくやらせていた」とおっしゃっていました。そういえば荒川先生も、「むやみやたらに日本刀を振り回せば、自分の足を切ってしまう」と話していました。これをゴルフスイングに当てはめるなら、「流れる」「開く」ということなのです。たとえば、1本の長いホースを振るとします。これをしならせながら、柱にきれいに巻きつけようと思えば、力任せに振っても不可能です。いい姿勢を保ち、前傾角をキープしたまま、体の正面で真っすぐ振る。この時、寸止めする意識があれば、ホースはきれいに巻きつくでしょう。実はこれが「ヘッドが走る」という動きであり、日本刀で言えば「切っ先が走る」という動きなのです。かつて王さんは、こんなことを話していました。「868本のホームランは、いつか抜かれる日が来るだろう。しかし2390個の四球数は、おそらく誰にも抜かれないだろう。そして私は、ホームランよりもこの記録を誇りに思う」一見すると唐突な話に思えるかもしれません。しかし、ここには重要なポイントがあります。というのも、王さんのインパクトポイントは非常に体の近く、それも体の幅の中にあったのではないでしょうか。投手側よりも捕手側に打つポイントがあるため、ボールを見る時間が長くなる。つまり、選球眼が良くなったと考えられるのです。この練習を続けていると、インパクトポイントは確実に近くなります。おそらく普通のクラブを握った時にも、ボール位置が自然と近くなるはずです。つまり、振れば確実に当たる場所が勝手に決まってくるのです。王さんの史上最多四球数の理由も、そこにあったのではないでしょうか。数々の打撃タイトルを獲得した長嶋茂雄さんなど、バッティングの達人はみな体の近くで打っていたのではと考えています。タイヤに寸止め――。それが自然と身に付く練習なのです。
■辻村明志1975年生まれ、福岡県出身。上田桃子らのコーチを務め、プロを目指すアマチュアも指導。2025年は千田萌花、藤本愛菜をプロテスト合格へ導いた。読売ジャイアンツの打撃コーチとして王貞治に「一本足打法」を指導した荒川博氏に師事し、その練習法や考え方をゴルフ指導に取り入れている。元ビルコート所属。※『アルバトロス・ビュー』933号より抜粋し、加筆・修正しています◇ ◇ ◇ ●マキロイのグリップを詳細分析! 関連記事『シェフラー、マキロイ、フリートウッドが実践……』を詳しく読めば、その秘密が分かります。
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