50歳以上のプロゴルファーが持てるテクニックを駆使して真剣勝負を行う国内シニアツアー。レギュラーツアー時代から勝負にこだわり続ける者もいれば、新たな気持ちで挑む者もいる。今季、密かに爪を研いでいるのがプロ34年目を迎えた56歳の鈴木亨だ。レギュラーツアーで8勝を挙げ、シニアツアーでも5勝を挙げている鈴木のゴルフ観や技術に触れながらその横顔に迫る。(取材/文・山西英希)
■3年ぶりの優勝前夜に愛娘から1本の電話
今季はシニア賞金王やシニアの公式戦タイトルを目指す鈴木亨。昨年、最終戦の「いわさき白露シニア」でプレーオフの末に優勝し、こだわりを持つ賞金シードを死守した鈴木亨。その優勝の陰には、長女の愛理さんからの励ましがあった。
昨年の最終戦「いわさき白露シニア」の初日を首位と1打差の2位タイでフィニッシュした鈴木。その夜、長女の愛理さんから1本の電話があった。「『今日は今日しかないし、明日は明日しかないんだよ』といわれました」。
ネガティブ思考の父を励ますためだった。「ボクはどちらかというと後ろを振り返るタイプで、あの時ああしておけばよかったな、明日はどうなるんだろうって考えちゃうんです。それを察して、今日のことはもう終わったんだから、切り替えてまた明日頑張りなさいという意味で声を掛けてくれたんだと思います」と振り返る。
レギュラーツアー時代は“ボンバー鈴木”の異名をとるほど、爆発的なスコアを出したかと思えば、大きく崩れて勝利を手放すことも少なくなかった。気持ちがゴルフに集中しているときは問題ないが、少しでも不安を感じた途端に顔を出す鈴木のもろさを愛理さんは感じとったのかもしれない。
■ステージで歌う愛理さんの姿に涙がこぼれた
その甲斐あってか3年ぶりの優勝を飾ることができた。愛理さんといえば、8歳で芸能界入りし、アイドルグループの℃-uteとして活躍。℃-ute解散後はソロデビューを飾り、歌手のほか、モデルや女優などその活動は多岐に渡る。インスタグラムのフォロワーも60万人を超えており、そこへ父のことを上げると、PGA(日本プロプロゴルフ協会)のホームページがパンクするといわれているほどの人気者なのだ。当然、そんな娘は鈴木の誇りでもある。
「レギュラーツアー時代から、シーズン中は娘のライブには行けなかったんですよ。オフなどにようやく行くと観ているうちに涙が出てくるんですよね。すごい頑張っているんだな、こんなに大勢の人に観てもらっているんだなと思うと泣けちゃいますね」。お互い忙しい時間を過ごしてきただけに、娘の活躍は素直に嬉しいし、励みになるという。
また、昨年は自分が優勝したほかに嬉しいことが1つあった。長男の貴之さんが千葉国際CCでクラブチャンピオンになったのだ。父の背中を追って高校からゴルフを本格的に始めると、大学でも4年間ゴルフ部で活動。「ツアープロを目指していたんですが、大学で結果が出なかったらあきらめるという約束だったんです」。大学卒業後はツアープロの道をきっぱりと諦めて、ミズノに就職した。
クラブナンバー1のタイトルは、サラリーマンとして勝ち取ったタイトルだった。「クラチャンのタイトルを取ったことでゴルフに自信を持てたみたいで、会社を辞めてティーチングプロを目指すようです」と鈴木。ツアープロの道は断念したが、今度は“教えるプロ”の道に進む。自分と同じようにゴルフを仕事にすることに不安を感じるが、うれしさもある。今後は、プロゴルファーの先輩として積極的にアドバイスを送るつもりだ。長年ツアーの一線で活躍する鈴木を支えているのは内助の功、京子夫人と二人の子供の存在が欠かせない。
取材協力・季美の森ゴルフ倶楽部
■鈴木亨
すずき・とおる/1966年5月28日生まれ、岐阜県出身。身長178センチ、体重80キロ。日本大学ゴルフ部時代は「日本アマ」などのタイトルを獲得。同期には川岸良兼がいる。89年にプロ転向後は、93年にツアー初優勝をはじめ、通算8勝。2011年までシード選手として長年活躍。シニア入り後は、3年目の18年に3勝を挙げて賞金ランキング2位。今季は賞金王を目指す。シニア通算5勝。ミズノ所属。
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