50歳以上のプロゴルファーが持てるテクニックを駆使して真剣勝負を行う国内シニアツアー。レギュラーツアー時代から勝負にこだわり続ける者もいれば、新たな気持ちで挑む者もいる。今季、密かに爪を研いでいるのがプロ34年目を迎えた56歳の鈴木亨だ。レギュラーツアーで8勝を挙げ、シニアツアーでも5勝を挙げている鈴木のゴルフ観や技術に触れながらその横顔に迫る。(取材/文・山西英希)
■学生時代から鈴木を知り尽くしているからこその助言
プロ生活34年、長年ツアーの一線で活躍してきた鈴木亨が最も感謝するのが京子夫人だ。鈴木自身の努力もあったが、充実したプロゴルフ人生を送れているのは、京子夫人の内助の功が合ったことは間違いない。
愛妻家である鈴木にとって、京子夫人(旧姓丸谷)の存在は大きい。日本大学ゴルフ部の2学年後輩だった京子夫人は、大きなタイトルこそないがナショナルチームに選ばれたほどの腕前。1992年のプロテストに合格した女子プロゴルファーである。学生時代から鈴木のゴルフを見ている上に、その性格も知り尽くしているだけに、夫へ送るもアドバイスも的確だ。
レギュラーツアー時代は、グリーン上でパットが入らないことに悩む鈴木に対し、「パッティングが悪いんじゃない。ショットが寄ってないからバーディを取れないだけ」とアドバイス。発想を変えた鈴木はパットの調子を取り戻したという。
また、鈴木の成績が落ちてきたときは、「私はあなたのお尻の大きさが気に入って結婚したのに、最近ちょっとお尻が垂れてきているよ」とひと言。それに奮起して下半身を鍛えた結果、スイングの土台となる下半身の安定感を取り戻し、成績も再度上昇曲線を描いた。
■将来的には二人の時間を大切にしたい
シニア入り後も、タイミングのいいアドバイスは健在だった。2018年にシニア入り3年目、「福岡プロシニア」でようやく初優勝を飾った。このときもひと息つこうとする鈴木に、「まだシーズンは終わっていないんだから最後まで頑張るように」と尻を叩く。すると、2戦後の「エリートグリップシニア」、最終戦の「いわさき白露シニア」で優勝と、4戦2勝で賞金ランキング2位に押し上げてシーズンを締めくくった。
「カミさんは学生時代に頑張っているボクの姿を見て、一生懸命に努力している割には結果が報われないと感じ、なんとかしてあげたいと思っていたみたいですね」という鈴木。その思いは今なお続いている。
まさに心の底から頼りにしているかけがえのない存在なのだが、その京子夫人が昨年1月に敗血症で緊急入院することになった。「12日間入院したんですが、もう少しで死ぬところだったんです。カミさんがいないとオレは無理だし、どうやって生きていけばいいんだと悩みました」と振り返る。幸いにも元気に回復したが、シーズン中は鈴木が頚椎ヘルニアからくる右腕のダルさに悩まされただけに、鈴木夫妻にとっては苦しい1年だったといえる。
「実は結婚して以来、カミさんと2人で生活したことってないんですよ。結婚当初はボクの実家で暮らしていましたし、千葉に引っ越してからは彼女の両親と生活していましたから。今は息子が自宅にいますが、将来的には2人の時間を大切にしたいですね」と語る鈴木。そのためにも、残りのゴルフ人生で一つでも多くのいい戦いを重ねていくつもりだ。
取材協力・季美の森ゴルフ倶楽部
■鈴木亨
すずき・とおる/1966年5月28日生まれ、岐阜県出身。身長178センチ、体重80キロ。日本大学ゴルフ部時代は「日本アマ」などのタイトルを獲得。同期には川岸良兼がいる。89年にプロ転向後は、93年にツアー初優勝をはじめ、通算8勝。2011年までシード選手として長年活躍。シニア入り後は、3年目の18年に3勝を挙げて賞金ランキング2位。今季は賞金王を目指す。シニア通算5勝。ミズノ所属。
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