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すがる思いで見た早朝のYouTube  中島啓太、アジアアマ優勝までの1週間【記者の目】

<アジアパシフィックアマチュア選手権 最終日◇6日◇ドバイクリークゴルフ&ヨットクラブ◇6986ヤード・パー71>

「自分と向き合ってプレーができれば、結果はついてくると思う」。取材に応える中島啓太は、ポジティブなこともネガティブなことも、あまり言葉に詳細を出さない印象だった。だからこそ、優勝したら聞きたいと思っていたことがある。『勝てなかったらどうしようと、不安に思ったことは?』。

中島にとって、今年が最後の「アジアパシフィックアマチュア選手権」。ここで勝って「マスターズ」に出ることを、ずっと目標に掲げてきた。世界アマチュアランキング1位で大会を迎え、大会の最注目選手として迎えた大会当週。現地入りした翌日から、取材に撮影にと引っ張りだこだった。

ドバイで迎えた最初の朝、選手・関係者の専用ダイニングで朝食をとっていると、中島がひとりでやってきた。この日は9時30分から大会のプロモーション撮影の予定。それまで、まだ2時間以上もある。ほかの日本人選手はもちろん、海外選手の姿もまだなかった。隣で山盛りのトーストを平らげる姿に、普段とそこまで違う様子は感じられない。時差の影響もあるだろうが、「寝られなくて、早く起きちゃいました」という言葉が、精神面での高ぶりを物語っていた。しばらくすると、他の選手も合流してにぎやかになる。みんなが先に練習場に向かう姿を、「今から撮影があるから…」と、少しうらやましそうに見送った。

バタバタと練習日が過ぎ、迎えた初日は期待通りの首位タイスタート。それでも、ラウンド中の心境は落ち着かない。「16番で3パットしたので、ちょっとイライラしていました」。単独トップで終えた3日目も、「ボギーを打つと、イライラする」。感情を表わす率直な言葉が、少し新鮮だった。

最終日を目前に、緊張はピークに達した。この日も目覚ましが鳴る2時間前に目が覚めた。わらにもすがる思いで検索したのは、アスリートのメンタルコントロール術。プロ野球・読売巨人軍の坂本勇人選手が2000本安打を達成するまでのドキュメンタリーを見て、「緊張するならするで、自分に正直に。(緊張を)前向きにしていて、いいなと思いました」と、心を落ち着けようとしていた。

単独首位で迎えた最終ラウンドは、その努力を試す場面の連続だった。9番でダブルボギーを叩いてリードを失い、残り8ホールのところで一度追い抜かれる。何度も諦めかけたが、その度に意識したのはオーガスタへの執念と、周りからの期待。ナショナルチームの先輩の金谷拓実や、家族や恩師からの言葉も頭をよぎる。ドバイの会場にも、中島の応援に日本人のファンがやってきていた。

「落ち込んでいる場合じゃない。こんなところで、終わっちゃいけない」。

気持ちを奮い立たせた終盤は、「ゾーンに近いところでゴルフができていた」とただ夢中だった。プレーオフの2打目、それまでバンカーに入れていた18番のティショットをフェアウェイに置き、6メートルのバーディパットをカップイン。力強くこぶしを振り下ろした姿に、「ZOZOチャンピオンシップ」で優勝した松山英樹の姿を思い出した。

「コースに出たらたくさんの人が応援してくれて、いい意味でギャラリーからプレッシャーと、ここに打っていけという雰囲気を感じる。そのなかでいいショットが打てて、パットが入ってくれたと思います」と、ZOZOの優勝会見で語った松山。重圧にもなり得る周囲の期待、それを力に変えるのにも、きっと強さが必要だ。

自信を持ってプレーすれば、アジアアマで勝てる確信はあった。それでも、プレッシャーが消えることはない。

「勝てないかもと思うことは、めちゃくちゃありました。本当につらかったし、負けたらどうしようかなって。たくさん応援をいただいていて、期待もしてもらっていて、それに応えられなかったらどうしようって。それが、一番大きかった」。

勝つと決めた大会で、勝ちきる難しさはよく知っている。2018年の本大会は金谷に惜敗、「日本アマ」は4回も2位で終わり、“2位の男”と地元の練習場の知人から、からかわれたこともある。ことし手にした4つのタイトル、「日本アマ」、「マーク・マコーマックメダル」、「パナソニックオープン」そして本大会優勝は、確かな成長の証だった。

涙をにじませた優勝セレモニーを終えて、メダルを首に提げて帰ってきた。「勝てて本当によかった。本当は、朝も緊張で泣きそうになってました」。そう笑う21歳は、ここからまだまだ強くなる。(文・谷口愛純)

<ゴルフ情報ALBA.Net>

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