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畑岡奈紗が今季見せた大きな成長 「大人になった」22歳の苦悩と喜び

畑岡奈紗が米ツアー通算5勝目を挙げた、先週の「ウォルマートNWアーカンソー選手権」。最終18番での1メートル弱のパーパットは、緊張のあまり「ボールを置くのも手が震えた」。カップの真ん中から沈めたが「ウィニングパットを決めた後も現実なのか何なのか…。よく分からなかった」と、すぐには緊張から解き放されなかった。うつむき加減にキャディのグレッグ・ジョンストン氏に歩み寄ると、肩を叩かれた。ここでようやく出たホッとした表情が印象的だった。

米ツアー5年目。22歳の畑岡は大きな成長を見せている。今季はここまでで2勝。賞金ランキングも2位に浮上したが、今年はアップ&ダウンのシーズンだ。とくに春先には武器であるアイアンショット不振に陥り、3月には2大会連続の予選落ちも味わった。その時のことについては「ほとんど“どん底”に近かった」と振り返るほど。スイングコーチにアドバイスを求めて、西海岸からフロリダまでトンボ帰りしたこともあった。

浮上のきっかけとなったのは5月末に、ラスベガスで開催された「バンク・オブ・ホープLPGAマッチプレー」だった。ベスト16で対戦したパティ・タバタナキト(タイ)のスイングをみて「グリップの修正」に気づいたことが大きい。

ショット不振は、思った位置にトップが上がらないことに起因していたのだが、何かが狂って「最初の30センチもまっすぐ上げることができなかた」と迷路に入っていた。それがパティを見て、「右手のグリップを下から持ちすぎていた。少しかぶせ気味にすると上がり易くなった」と気づくと劇的に復調していった。

パティには負けたが「ボコボコにやられたけど、ただでは負けられない。何か盗まないと」と貪欲にスイングを追求。そして、その結果はすぐに現れた。翌週の「全米女子オープン」(6月3〜6日、カリフォルニア州)で最終日に追い上げ、笹生優花とのプレーオフまで進んだ。

しかし結果は敗れて2位。年下の笹生にメジャー勝利をさらわれた。気丈に「負けたのは残念だが、レベルアップしている」と話し、悔しさは胸にしまい込んだ。そして7月の「マラソンLPGAクラシック」(8〜11日、オハイオ州)での今季初勝利へとつなげた。

「厳しい世界ということは分かっているが、毎年優勝することを目標に戦っている。去年勝てなかったのが悔しかった。少し自信を失っていた部分もあったから、五輪前に勝てたことは自信につながる」と、これを憧れ続けた大舞台への弾みにした。

東京五輪は畑岡にとって、プロになる前からの目標だった。その2週前に開催されたメジャー大会「エビアン選手権」欠場という難しい決断をしてまでも万全の体勢で臨んだ。しかし、メダルには手が届かなかった。日本勢では年下の稲見萌寧が銀メダルを獲得。またしても悔しさにまみれることになった。

「ひたすら練習するしかない。だけどうまくいかなかったときは気分転換も必要。五輪のあとは4、5日くらいは練習せず、そのまま全英に行っちゃった」と、後に明かした。米ツアーに同行する母・博美さんは「何も言わなかったけれど、隠れて泣いていたと思う」と言う。家族にも気丈に振る舞った。

「立ち直るに1カ月かかった」と明かすが、全英からちょうど1カ月後に、再び優勝カップを掲げた。初日と2日目に連続で決めたホールインワンは決して幸運だけではない。アイアンショットの精度の高さの証しだろう。

ジェットコースターのようはシーズンを送るが、「オンオフの切り替えも少しできるようになってきたかな」と微笑む。コロナ禍でまだまだ外で食事はできないため、祝勝会は「やっぱりお肉が一番」と、母、そしてマネジャーとバーベキューで楽しんだ。そして今は少しお酒もたしなむように。「ステーキには赤ワインですね(笑)。大人になっちゃいました」と笑う。

どんなに落ち込んでいても、悔しくても、腐らずにやっている姿は見ていて本当に気持ちがいい。今季も最終戦まであとわずか。まだまだ成長する姿を見られるに違いない。(文・武川玲子=米国在住)

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