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メダルの見える位置で残り2日へ 連日の好ジャッジとクラブ変更が上位進出に導く【奥嶋コーチの五輪現地レポ】

<東京五輪ゴルフ競技(女子) 2日目◇5日◇霞ヶ関カンツリー倶楽部(埼玉県)◇6648ヤード・パー71>

トップと4打差の1アンダー・16位タイとまずまずの滑り出しを見せた稲見萌寧は、2日目も日本のファンを喜ばせるプレーを見せた。1イーグル・5バーディ・1ボギーの「65」をマークしてトータル7アンダーの6位タイに浮上してみせた。その稲見のコーチとして今年の躍進を支え、東京五輪ではキャディとしてバッグを担ぐ奥嶋誠昭氏が、コースの中から東京五輪をレポート。2日連続のバーディ締めをはじめ、ここまでの順調な戦いを振り返ってもらった。

■順調な戦いの理由はティショット

この日、スコアを6つ伸ばすプレーを見せた稲見。奥嶋氏は「きょうは風もなく、距離の計算もしやすかった。かなりのホールでティが前に出ていて初日とは距離が全然違いました。飛んでパターがうまい選手は伸びるよな、というコンディションでした」と初日よりもスコアが出やすい状況だったと語る。とはいえ、その状況でも伸ばせなかった選手も少なくない。では、稲見は何が良かったのか。

「ティショットがいいところに飛んでいました。狙ったところにある程度飛んでいて、トラブルになることがなくて。ミスがなかった。それがスコアを伸ばせた要因だと思います」

また、初日から稲見自身が「足りない」と言い続けている飛距離も、「球も少し飛んでいましたね。理由は何とも言えないですが、振れていたと思います」とアドレナリンの影響か少し補えていたという。加えて「萌寧ちゃんの集中力も悪くない」と暑さでも気持ちが切れいていないこともスコアの要因とした。

■2日連続のバーディ締めの裏に連日の番手選び成功

そんな1日を締めくくったのが18番。残り140ヤードからのセカンドショットはピン手前に落ちると奥まで転がり、そこから傾斜で戻ってきて2.5メートルの位置にピタリ。これを沈めて2日連続で最終ホールでバーディを奪う気持ちの良い上がりとなった。

奥嶋氏がまず「良かった」と挙げたのはセミラフにあったこと。「セカンドショットでまず考えたのが奥の上の段に行ってはダメということです。私たちはセミラフからでしたが、フェアウェイから打った人は止まると思って打った球がグリーンで跳ねて上の段まで行ってしまっていました。そういった意味ではセミラフで良かったのかもしれません」と幸運だったという。

もちろん、マネジメントが功を奏したのも言うまでもない。「上の段に行ったらダメなので、(グリーン手前の)バンカー越えたくらいのところに落とそうと話しました。7番か8番で迷いました。2人とも意見は一致したけどギリギリのクラブ。ちょっと嫌でしたけどフォローもあって、バンカーを超えれば何とかなるかなと思いました」。狙いすました打球はしっかりとバンカーを超えた。「ちょうどいいところに落ちて転がって奥から戻ってきて狙い通りでしたね」と会心の一打となった。

とはいえ、仕上げを入れなければ意味がない。「2.5メートルの軽いフックでした。ちょっと強く打つと抜けて、弱く打つと切れるグリーン。軽いフックなので右カップのふちをちょっと外すくらいでジャストタッチでいきました」。迷いなく打った球はしっかりとカップイン。右こぶしを握る最高のフィナーレとなった。

■クラブ変更は残り2日に向けての収穫

また、稲見は初日からクラブ変更を施していたという。「フェアウェイウッドとユーティリティの球が吹け上がっていて前に飛んでいませんでした」という初日の反省から改良を加えた。

フェアウェイウッドはシャフトの先端をインチカットして調整。ユーティリティに関しては同じ日本代表の畑岡奈紗も使うスリクソンのものに切り替えた。練習ラウンドでテストしており、会場にメーカー担当がいて調整が容易だったからこそのスイッチとなった。

結果、「球が強くなって距離が読めるようになりましたね」とピタリとはまった。大一番、しかも試合中のスイッチを言い出したのは稲見だったという。「萌寧ちゃんから“前に行かない、上ばっかり”だから替えたいと。じゃあ替えようかとなりました。残り2日の前に調整できたことは大きいですね」と勇気ある変更がさらなる光をさした。

■好位置での戦いも「いつも通り」

メダルの見える位置で最初の36ホールを終えた稲見。ゴルフでは3日目はスコアが動きやすく順位が大きく入れ替わることが多いことから、ムービングデーと呼ばれる。そんな戦いに向けても奥嶋氏は「いつも通り」を強調する。

「とりあえず4日間やることは一緒。上を追ったらスコアが出るわけじゃない。その日の運もある。気合いを入れても上に行けるとは限らない。どれだけその日のジャッジがうまくいくかですね」

メダルに期待が一段と高まっても変わらずに。目の前のやるべきことに集中していく構えだ。

奥嶋誠昭

おくしま・ともあき 1980年3月26日生まれ。神奈川県出身。ヒルトップ横浜クラブ内の「ノビテックゴルフスタジオ」で、体とクラブの動きを3次元で計測・解析する『GEARS』(ギアーズ)をはじめとする、世界最先端機器を駆使したレッスンを行っている。ツアープロコーチとして、稲見萌寧、高橋彩華、木下稜介らを指導。いずれの選手もツアー屈指のショットーメーカーとして活躍している。奥嶋氏のSNSにはゴルフの話題だけではなく、小学5年生の愛娘もときどき登場する。

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