このエントリーをはてなブックマークに追加

ウッズ父子が振るわずとも、見どころ満載だったPNC選手権【舩越園子コラム】

プロゴルファー親子が腕を競い合うPNC選手権(12月17〜18日)は、PGAツアーのシニア部門であるチャンピオンズツアーが主催する非公式戦だが、フロリダ州オーランドのリッツカールトンGCには、PGAツアーのビッグ大会を思わせるほど大勢のギャラリーが詰め寄せていた。

人々のお目当ては、言うまでもなく、タイガー・ウッズと長男チャーリー君の息の合ったプレーぶりと雄姿を眺めることだった。

ウッズ父子は初出場した2020年大会で7位になり、昨年は優勝争いを演じた末、ジョン・デーリー父子に破れて2位に甘んじた。そのときからウッズ父子は「来年こそは優勝を狙う」と心に決めていた。

しかし、1年後の今年、2人は初日のティオフを迎える以前から厳しい状況にあった。

2021年2月の交通事故で重傷を負ったウッズの右足は依然として回復途上にあり、さらには足底筋膜炎を発症し、2週前のヒーローワールドチャレンジ出場を泣く泣く断念。しかし、ウッズは「歩くのは無理でもショットはできる。僕の足のことより、チャーリーと一緒にプレーする機会のほうが大事。チャーリーに良き経験をさせてあげたい」という親心から大会出場を決めた。

だが、そんな父親を精一杯カバーしようと張り切っていたチャーリー君も金曜日のプロアマ戦の朝、ウォーミングアップ中に左足首を痛め、父子そろって痛む足を抱えながらの戦いになった。

ウッズは「大丈夫、チャーリーの足の回復は時間の問題。僕よりマシさ」と笑顔を見せながら息子を励ましていたが、ウッズ自身の足の状態は想像以上に思わしくない様子だ。「今も寝るときは右足に医療用ブーツを履いてベッドに入る。それがとにかく不快なんだ。眠っている間にブーツが左足にぶつかって、しばしば出血する。でも、右足をひきずることは、もはや僕の一部。それが僕なんだと思うようにしている。いろいろ苦悩はあるけど、ここに右足はちゃんとあるのだから、それだけで、ありがたい」。

父子ともに痛む足を抱えながらも初日は首位から2打差と善戦。2日目も5番でイーグルパットを沈めたチャーリーくんがガッツポーズを見せたところまでは勢いがあった。

しかし、その後は2人ともロングショットにミスが目立ち始め、それが小技のミスにつながり、お互いに補完しきれずにトータル20アンダーで8位タイに終わった。

笑顔があふれるラウンドではなかったが、ホールアウト後は父も子も穏やかに笑っていた。チャーリーくんは自分自身も故障した足を抱えながら戦ったことで、右足のリハビリに取り組みながら必死にプレーしてきた父親に対して「新たなリスペクトを抱いた」という。

そしてウッズは「僕らが望んでいた通りの結果ではないけど、チャーリーと一緒に戦ったことは、僕の中では常に優勝を意味する」と誇らしげに語った。

優勝はならずとも、そんなウッズ父子の姿を目にしたことで、ゴルフファンもみな笑顔になったのではないだろうか。

そして、大会を盛り上げたのはウッズ父子だけではなかった。トータル26アンダーで勝利したのはビジェイ・シン&息子カス。2日間とも50台(59、59)は大会史上初の快挙だが、父親シンは、そんな記録より、息子と歩んできた長い道程を感慨深げに振り返っていた。

シンがPGAツアーで活躍していた2000年代序盤、まだ幼かったカスは毎日のように18番グリーン奥で父親のホールアウトを待ち、プレーを終えたシンはカスの頭をやさしく撫でながら肩を抱いていた。

やがてカスは13歳で今大会に初出場。今回は16回目の出場だったが、その間、何度も惜敗を経験。今や保険代理業を営む32歳のビジネスマンになっているカスは「やっと親子の夢が叶った。ドリーム・カム・トゥルーの想いだ」。そんなシン父子の歩みと成長に長年のゴルフファンは目を細めていた。

かつての女王アニカ・ソレンスタムは大会最年少出場となった11歳の長男ウィルくんと笑顔を輝かせながら2日間を戦った。ソレンスタムのバッグは父親トムが、ウィルくんのバッグはソレンスタムの夫マイクが担ぎ、文字通り、家族総出の挑戦だった。「朝一番乗りで会場入りして練習グリーンへ。ここはウィルにとっては天国だった」。そう言った母親ソレンスタムも夢見心地の様子だった。

今年で25周年を迎えたPNC選手権には、選手とその家族の四半世紀の歩みが反映されている。それは米ゴルフ界の貴重な歴史と財産であり、だからこそ、TV向けのエキシビジョンでありながら、そこには、さまざまなストーリーがある。

文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

<ゴルフ情報ALBA.Net>