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ノーマン不在の「ノーマンの大会」から見えたもの【舩越園子コラム】

今週のPGAツアーは、2人1組のチーム戦、QBEシュートアウトがフロリダ州のティビュロンGCで開催された。

初日から首位に立ったチャーリー・ホフマン&ライアン・パーマー組の完全優勝が予想されていたが、最終日は初出場のトム・ホージ&サヒス・ティーガラ組が10アンダー、62と猛チャージをかけ、1打差で逆転勝利を飾った。

今大会はフェデックスカップや世界ランキングのポイントが加算されるオフィシャル大会ではないが、クリスマスを目前に控えた米ゴルフ界のホリデー・シーズンを彩るPGAツアーの伝統的な大会の1つだ。

1989年創設と歴史は長い。大会を創設したのは当時のビッグスター、グレッグ・ノーマンで、今大会は長年「シャーク・シュートアウト」の名で親しまれてきた。

ノーマン自身、1989年から昨年まで一度も欠かすことなく出場してきた。だが、LIVゴルフ創設によってPGAツアーとの対立が深まっている今年は、「ノーマンの大会」が初めてノーマン不在で開催された。

とはいえ、姿はなくても、今大会のあちらこちらに「ノーマンらしさ」が見て取れた。QBEシュートアウトは2人1組、全12組が3日間54ホールを戦う形式で、4人1組、全12組が3日間54ホールを競い合うLIVゴルフは、まさに「ノーマンの大会」の発展形と言っても過言ではない。

PGAツアーのレギュラー大会では見られないようなエンターテイメント性の高い催しを試合会場に採り入れる斬新なギャラリー・サービスを、いち早く考案し、実施したのも、この「ノーマンの大会」だった。

今年のQBEシュートアウトでは、2日目の朝、18番フェアウェイ上で大規模な「フェアウエイ・ヨガ」が行なわれ、夕暮れからは練習場でライブ・コンサートが開催され、にぎやかなミュージックが鳴り響いた。

その様子は、まさにLIVゴルフの今年のにぎわいとそっくりだった。「ゴルフの試合会場」という概念を打ち破るようなエンターテイメントを採用することを、PGAツアーで思い立ち、実現した「草分け」は、実を言えば、ノーマンだった。

全英オープンでは2勝を挙げたものの、マスターズや全米オープンでは勝利を目前にしながら惜敗を繰り返し、現役時代は「詰めが甘い」と揶揄されたノーマンだが、奇想天外な発想ができる彼はビジネスやクリエーションにおいては稀有な才能の持ち主なのだろう。

その才能を駆使して生み出されるものが、「ノーマンの大会」のようにPGAツアーの財産の一部であったなら、それはきっとノーマンにとってもPGAツアーにとってもファンにとってもハッピーなものになっていたはずである。

しかし、ノーマンの才能が生かされ、創設されたLIVゴルフは、出だしから、いや創設以前の段階からPGAツアーに敵対する位置づけになり、創設後は敵対が強まる一方だ。

その延長線上で、大会創設者のノーマンが大会側から「来ないでくれ」、「出ないでくれ」と言い渡され、姿を消す事態になった。それは、誰にとっても不幸な顛末である。

これまで「ノーマンの大会」にしばしば出場してきた常連選手のうちの18名が、今年、LIVゴルフへ移籍。そのうちの13名は昨年大会にも出ていたことから、「ノーマンが、この大会でリクルート活動をしていたことは明らかだ」と米メディアは見ており、それが大会側を激怒させたと言われている。

自分自身が築き上げてきた財産を自身の言動で損なう形になったノーマンのやり方には、強引というより不器用さを感じるが、ずば抜けた発想の持ち主であるノーマンと完全なる敵対関係を築いてしまったPGAツアーのやり方も、決して器用とは言えないだろう。

両者の歩み寄りが叶うのなら、それが理想だが、人一倍高く強いプライドと意地を持つPGAツアーとノーマンゆえ、その道が開ける可能性は少なくとも今はゼロに近い。

しかし、それならそれで、今、歩める最善の道を見い出そうとPGAツアーは動き始め、さまざまな新施策を打ち出し始めている。先日5日に発表された米欧日の3ツアーのパートナーシップ締結は、まさにその一環である。

今年のQBEシュートアウトには女子選手のネリー・コルダらが参戦。来年大会からは男女選手の混合形式に変更されることが発表された。そうやって少しずつノーマンの足跡が消され、生まれ変わっていくことだろう。

それと同じように、今年、有名選手をLIVゴルフに一気に奪われたPGAツアー自身も、「新生」への道を着々と歩み始めている。来年は、その歩みを楽しみに眺めていきたい。

文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

<ゴルフ情報ALBA.Net>