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姉・日向子も認める強心臓 渋野暉璃子がホロ苦デビューで見せた光【記者の目】

今年はアメリカで6試合、日本で1試合、渋野日向子の取材の機会があった。いいときも、悪いときも話を聞かせてもらい、自分にとっては最後となった「TOTOジャパンクラシック」で1年間のお礼の挨拶をさせていただいた。もう今年は会うことはないと思っていたのに…。そのくらい瓜二つだった。そう、レギュラーツアーに初出場した妹の暉璃子(きりこ・明治大学2年)である。

姉より飛ぶ?渋野暉璃子のドライバースイング【連続写真】

良いか悪いかは分からないが私は、プレーを見る機会が多い選手はテーマを持たず、ある意味でボーっとプレーを見ていることが多い。そのほうが前週まで、もっと言えば前日までとの違う部分、変えた部分に気づきやすいからだ。かっこよく言えば「Don't think! Feel」。変に集中してしまうと、意外と見落とすものである。

初めてプレーを見る暉璃子を私はボーっというほどではないにしても、テーマを決めずに見ていた。すると、どうだろう。姉そっくりではないか。もちろんプレーの精度は劣るが、ショットを打つ時のしぐさ、歩き方、はたまたパットを外したときの動きまで、異国で何度も見た“それ”だった。

結果はご存じの通り、トータル19オーバーの96位。つまり最下位となった。姉ほど雄弁に語ることのない妹だが、「レギュラーの試合で惨敗したことは、悔しさとして持っておかないといけない。それが今週のいい経験なのかなと思う」と姉譲りの言葉選びで悔しさを噛みしめた。

自分の実力を痛感した2日間だったと思う。初日は出だしで5連続ボギーと悪い流れを断ち切れなかった。2日目は出だしの2ホール連続でティショットをOBとして連続ダボ。ようやく自分らしいプレーができたのは2日目の後半9ホールだけ。プロたちのレベルの高さを文字通り肌で感じただろう。

それでも、姉と同じ、いや、姉以上とも思える強さを随所に感じられるところがあった。負けん気と振り抜きである。

初日、1番、2番と連続ボギーで迎えた3番はパー4だが320ヤードと短い。しかもティショットは打ち下ろし。多くの選手が短い番手でティショットを刻みバーディを狙っていくホールだ。だが、暉璃子は迷わずドライバーをチョイス。姉譲りの“マン振り”素振りを2度ほど行うと「ドライバーで軽め」なんてことは一切なくこの日一番とも言えるほど振り抜いて、エッジまで25ヤードのところまで運んだのだ。

さらに、2日目の10番ホールではティショットをOBとして、打ち直しでも思い切り振り抜いて、こちらも打ち下ろしが相まって290ヤード近いビッグドライブ。ミスの後でも縮こまらない強さがあった。

まだプロの怖さを知らないだけかもしれない。賞金も、もっと言えばシードもかかっていないだけかもしれない。しかし、ドライバーを振り抜く、ということが難しくなっている選手が少なくないのもたしかだ。一方で、姉は海外メジャー優勝という状況でワンオン可能なパー4でドライバーを振り抜いていた。DNAだけで片付けることはできないが、ほかの選手よりも上回っている部分と言っていいだろう

もう一つ、姉譲りな部分があった。レギュラーツアー初のバーディとなったのはクラブハウスに近い9番。「みなさんが見ている前でバーディが獲れてよかった」と注目されるところで強さを発揮するところも同じ遺伝子を感じさせた。

もちろん、課題は山ほどある。細かいことを言えばキリがない。ただし、大学生となって人生で初めてゴルフ部に入部、本格的に始めたのはここ数年と考えれば、技術面、試合の経験が足りないのは仕方がない。それよりもビビらずに思い切ってできるか。今の実力を100%発揮できるか。そこをクリアできたのはまず一歩目だ。「強心臓過ぎて、本当、欲しいレベル。うらやましい」と日向子が話す逸材はここからどうやって進化していくのか。(文・秋田義和)

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