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尾関彩美悠の“柔らかい背中”が生み出す強い球 度胸満点のパットはツアー4位相当の実力【辻にぃ見聞】

シーズン唯一の愛知決戦「住友生命Vitalityレディス 東海クラシック」は、昨年11月のプロテストにトップ合格し、渋野日向子らも輩出した岡山県作陽高等学校を今年3月に卒業したばかりの19歳・尾関彩美悠(あみゆ)が制した。先週に引き続き、19歳選手による勝利。優勝争いを繰り広げた吉田優利、上田桃子らを指導するプロコーチの辻村明志氏が振り返る。

■風のなかでも伸ばし合う女子ツアーはハイレベル

例年バーディ合戦になる今大会。だが今年は台風14号が接近し、2日目から最終日にかけて風が強くなっていた。さらに最終日には雨が降ったり止んだりを繰り返し、最終組がスタートしてすぐには土砂降りでおよそ2時間の中断も余儀なくされた。

それでも優勝スコアはトータル13アンダー。「アグレッシブに攻めていかないと上位に入れないコースですが、風が強いなかでも、いまの選手はよく伸ばしてくるなと思いました」。2日目には最大瞬間風速12.7m/sの強風が吹き荒れるなか、尾関は自己ベストスコアタイの「66」をマーク。そして最終日には「70」のアンダースコアで逃げ切った。

■尾関の最大の魅力は…

前週の国内メジャー「日本女子プロゴルフ選手権コニカミノルタ杯」で初めて“生”で尾関のスイングをみた辻村氏。そのときの第一印象は「大きなキャリーボール」。これが尾関の最大の魅力だという。

身長は158センチと小さくも大きくもなくいわば平均的。だが今大会のドライビングディスタンスは249.167ヤードを記録しているように、その身長以上の飛ばしをみせている。そんな飛距離を生み出しているのは「大きなスイングアークと背中の柔らかさ」。特に背中から腰、腕へと繋がっている大きな筋肉「広背筋」を辻村氏はポイントに挙げた。

「尾関さんはドロー一辺倒ですが、ダウンスイングでしっかりと体の近くにシャフトを通せています。そして広背筋の柔らかさと強さを感じました。ダウンスイングの力強さが腹筋の力だとしたら、振り抜きに必要なのが広背筋です。インパクトをした後に広背筋を使ってボールを押し込むことができています」

柔らかい背中でゆったり大きく上げたテークバックから振り下ろし、またも背中の筋肉を使って球を押し込む力強いインパクト。ボールの高さや打ち分けには「まだまだ未熟」ではあるが、19歳のさらなる成長にも期待を寄せた。

■ここぞで決めるショットに、ツアー随一のパッティング

吉田優利と並んで迎えた終盤16番。先に吉田が12メートルのスライスラインを決めてバーディを奪うと、尾関は6メートルを決め返した。そして最終18番。先に吉田がフェアウェイから右横3メートルのチャンスにつけたが、尾関はラフからにもかかわらず、その内側、1メートルにつけてそれを決めた。

「いままでの若手だったらミスしてしまうようなシチュエーション。そんななかであのショットを打てたのはすごいですね。度胸があるなと思いました」

チャンスにつけ返したショットはもちろんだが、パッティングもピカイチ。出場試合数が少なく現時点では“参考記録”だが、パーオンホールの平均パット数は「1.7583」。ツアー全体では4位に相当するスタッツだ。「ショートパットもしっかりボールをヒットして、きちっと打ち抜けています。16番での入れ返し、そして18番でも緩むことなく打てていました」とその巧さに舌を巻いた。

■その世代の一番になりたいという思い

この優勝には「川崎さんの刺激があることは間違いないです」。前週の日本女子プロ選手権では同期の川崎春花が記録ずくめの快挙Vを達成していた。“世代の一番になりたい”という気持ちは選手たちを鼓舞させると辻村氏は最後に付け加える。

過去には宮里藍と横峯さくら、上田桃子と諸見里しのぶといった関係があるように、近年は世代に“黄金世代”、“プラチナ世代”と名前が付けられるようにもなった。「自分も負けない、という強い気持ちを出すことができました。最後18番のショットには、そんな気持ちも込められているように思います」。ルーキーの勢いはこれからも加速されていくのだろうか。そう思わせるルーキー連勝だった。

解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子、松森彩夏、吉田優利などを指導。様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。

<ゴルフ情報ALBA.Net>