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生粋のドローヒッター・上田桃子 左足下がりからのフェードボールに表れたオフの成果【辻にぃ見聞】

今季初めて関東圏で行われた国内女子ツアー2022年6戦目の「富士フイルム・スタジオアリス女子オープン」は、上田桃子の逆転優勝で幕を閉じた。3日間「69」を並べる安定性をみせ、ツアー通算16勝目。2014年から上田のコーチである辻村明志コーチが、その勝利を手に掴んだオフからのトレーニングの様子を明かした。

■攻めと守りの判断 3日間でボギーの数はわずかに5つ

米女子ツアー「HSBC女子世界選手権」で今季をスタートさせた上田は、最終日に「64」の猛チャージで13位タイフィニッシュ。勢いそのままに、帰国後の国内戦では6位タイ、16位タイ、21位タイという成績を残したが、今大会前には「準備ができていて調子は良いのに、試合になるとうまく表れていない」と、ショットの好調さをアピールしながらも、それがスコアにつながらないもどかしさ話していた。

しかし、国内4戦目にして早くも結果が表れた。今大会は例年から開催コースが変更となり、石坂ゴルフ倶楽部で行われた。フェアウェイが狭く、池も絡み、大きくて傾斜が強いグリーンに「難しい」と口をそろえる選手が多いなか、上田は3日間60台のスコアで回る安定性が光った。「桃子は技をたくさん持っていて、行くところ(攻め)と行けないところ(守り)の判断ができる五感が鋭いです」。難しいセッティングになればなるほど、上田の真価が発揮されると辻村氏は語る。

今回コースセッティングを担当したのは、上田の同い年で親友であり、若い頃から切磋琢磨してきた諸見里しのぶだった。上田自身も会見で「しのぶの意図が見えたセッティングでした。ショットを打つ前にその意図を考えて、難しいところは誘いに乗らないようにプレーしました」と、マネジメントに取りくんだことを話している。辻村氏は「ロースコアのときはバーディ数の多さよりもボギー数が少ないことの方が重要になってきます。ボギー数を抑えて、狙えるところでバーディを獲っていく。流れを掴むうまさも持っています」と分析する。今大会では3日間を通してボギーの数を5つに抑える“ガマン強さ”をみせ、2位に3打差の圧勝だった。

■長年のクセを理解 受け入れることができるようになった

最終日の1番パー5で、左足下がりのライからフェードボールでグリーン右奥に切られたピンを狙い、奥4メートルに2オン成功してイーグル奪取。続く2番パー3ではこちらもグリーン右奥に切られたピンを果敢に狙い、あわやホールインワンともいえる精度の高いショットを見せて、バーディ。ここで単独首位に立つと、そのまま逃げ切った。

ここにオフに取り組んだ成果が表れたと辻村氏は明かす。生粋のドローヒッターである上田には悪いクセがあった。

「左からの風が吹いているときに、練習場で調子を崩すクセがありました。風によってドローボールがドローに曲がらなくなる。体がそれに強く反応して、球をドローにしたくなってしまう。すると上体がリキんだり、タイミングが早くなったり、下半身が止まり出してしまいます。桃子はそのような自分のクセを知って、受け入れられるようになりましたね」。

しっかりとつかまるドローボールが上田の武器であることには変わりはないが、自身の悪いクセを理解し、そのときの風の状況や、ライのコンディション、ピン位置によって、ドローボール以外の球筋をイメージして攻めることができるようになった。左足下がりやつま先下がりなどドローボールを打つことができないライからの練習も増やし、苦手意識のある状況に免疫をつけていったという。そして、それが1番の左足下がりのライからのフェードボール、2番の右から5ヤードに切られたピン位置の狭いところを狙うイメージにつながった。

「長年のクセというのは直すのは難しいです。だからこそ理解して受け入れることが大事ですね。桃子は冷静に分析できるようになって、落ち着いて判断ができるようになりました」。今週は上田の地元・熊本県の熊本空港カントリークラブで開催され、上田にとっては“準メジャー”ともいえる。こちらも2桁アンダーが出にくい難しいコースで、かつて優勝している舞台。2週連続優勝も見えてきそうだ。

解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子、松森彩夏、吉田優利などを指導。様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。

<ゴルフ情報ALBA.Net>