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急激に“進化”しているアプローチ技術 原英莉花がメジャー連勝を達成できた理由を分析【辻にぃ見聞】

2020年の国内女子ツアー最終戦「JLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップ」は、原英莉花のメジャー2連勝という結果で幕を閉じた。4日間単独トップを守って、“正真正銘”の完全優勝を達成した21歳がその強さを発揮した。原が今年の精鋭が集まった大会を制することができた理由はどこにあったのか? 上田桃子、小祝さくらといった選手を指導する辻村明志コーチが分析する。

■目を見張るほどアプローチ技術が向上

「最後も、やはり今年活躍した選手が上位に入りましたね。古江彩佳さん(2位)をはじめ、上田桃子さん、西村優菜さん(ともに3位タイ)、笹生優花さん(6位タイ)、渡邉彩香さん(10位タイ)。そのなかで日本女子オープンでも勝った原英莉花さんの優勝は、最近あまり調子がよさそうではなかったこともあって驚きました」

辻村氏は原のメジャー連勝について、こう感想を口にした。前週の「大王製紙エリエールレディス」会場で見た際、スイング面に少しバラつきがあることを感じていたという。実際その試合は、右ひざ痛のため途中棄権。さらに今週も原自身が「ショットが頼りにならず、ずっと不安でした」というほど、決していい状態とは言えなかった。そのなかでの圧巻の優勝劇。辻村氏は、そのカギが初日にあったと話す。

「初日の原さんのパーオン数は18ホール中9ホール。にもかかわらず5アンダーで回った。この数字を見ても、やはりショットはよくないですね。ただそのなかでアプローチとパターで踏ん張った。パット数は『22』で、ボギーはわずかに2つ。いかにグリーンを外した時でもパーをセーブし続けたか。この日に沈んでいたことだって十分に考えられる。初日に耐えることができなければ、優勝はなかったかもしれませんね」

特に辻村氏が目を奪われたのが、「去年まで一番のネックだった」というアプローチの“進化”だった。では、違いは一体どこにあるのか? 辻村氏は続ける。

「日本女子オープンでもそうでしたが、以前よりもフェースにボールが乗っている時間が長い。このフェースへの食いつき方が、すごくよくなりましたね」。イメージした場所にボールを落とすうえで、このフェースにボールが乗っている時間が長いというのは必要不可欠であると辻村氏は説明する。

「例えば、手で何かを運ぶと考えた時に、目的方向へパチンと弾くよりも、手のひらに乗せて運んだ方が当然正確な場所に置けます。弾くだけでは、どうしても距離感は測りづらくなりますから。イメージはそれと同じです。そして私たちが何かを運ぶ時、足を使いますよね? アプローチも足の使い方が重要。そして足を使うためには、手首の動きを安定させる必要があります。最初に設定したロフトの角度を、少しでも長くキープして、そのまま体と足を使ってうまく運ぶ。これがフェースに乗せるという感覚です」

今年の原のアプローチを見ると、いわゆる“手打ち”の場面が大幅に減っていることを辻村氏は感じていた。原もグリーン周りに生い茂るティフトン芝対策のため開幕前にアプローチ練習を重点的に行い、さらに優勝後の会見でも「ショットが悪いなか、パター、アプローチでしのげた。『これ誰がプレーしているのかな?』と思うくらいでした」と、前の2勝とは全く違うプレースタイルで戦っていた感覚があったと話す。宮崎県で“新境地”に到達していた。

■この勝利が今後の原にもたらすもの

では、原の“不安”のもとになっていたショット面には、どんな変化があったのだろうか。辻村氏はこう説明する。

「原さんは、基本的にフットワークをうまく使ってスイングするタイプ。そのなかで手足のバランスがいい時と悪い時があります。悪い時はバランスが悪くて上下動が大きくなるように見えますね」

とはいえ調子の浮き沈みは、シーズンを戦っていればどんな選手にも訪れるもの。辻村氏はそれよりも、「テークバックの際、原さんはヘッドが動くよりも先に、まず足の裏がしっかりと地面をねじるように動き、そこからスッとヘッドが上がってスイングにリズム感を生み出しています。手が1番、体が2番ではない。ここは師匠のジャンボさんに似ている部分ですし、いつ見ても素晴らしいと思います」と、常に変わらない長所をほめたたえた。ここの基盤がしっかりしているため、大きくは崩れない。

だが何よりも辻村氏が賞賛したのは、決して調子が万全ではないなか最善を尽くし、メジャーを獲った“姿勢”についてだった。

「今回の勝ち方で大きいのが、絶好調で勝ったわけではないということです。もちろんコンディションを整えることは必要ではあるけど、ツアーを戦う選手は、調子がいい時だけ成績が出ればいい、というわけではありません。今の状態でできる最大のことをしないといけない。“現在の調子が今のベストである”ということは、特に今の若い選手には分かってもらいたいですね。原さんも今回の勝利が、今後のゴルフの幅を広げるはずです」

難しいコーライグリーンで、2〜3メートルのしびれるパットをねじ込み、必死にパーを拾う原の姿を見て、辻村氏は「気持ちで入れていたのが画面越しにも伝わってきた」と感心した。原も「(2人1組の)2サムで、目の前の選手と戦っているという感じがあった。普段は入らないようなパットも気持ちでねじ伏せたという場面もありました」とその時の心境を話していた。今回の優勝を語るうえで、グリーン周りの技術の向上はもちろんだが、精神面、これを外すわけにはいかない。

解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子、山村彩恵、松森彩夏、永井花奈、小祝さくら、吉田優利などを指導。様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。

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