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収入は「3分の1」まで減少、「動画作成」や「研究」で時間を有効活用… プロキャディ達の“リアルな声”【ゴルフ界の今】

新型コロナウイルスが依然猛威をふるうなか、他のプロスポーツ同様、ゴルフトーナメントも世界中で延期・中止が続いている。日本でもその影響は大きく、男子は6月いっぱい、女子は6月の第1週までのスケジュールが白紙になることが決まっている。そんななか“開幕”を待ちわびるのは選手、ファンのみならず、ゴルフ界に身を置く関係者も同じ。選手にとって、コース内での最も身近な味方といえるプロキャディは、今どう過ごしているのだろうか。

■収入は大幅減…アルバイトも困難な状況

選手の傍らでバッグを担ぐだけでなく、風、芝目、距離などの状況を読み、コース上で戦略をともに練る“参謀”ともいえるキャディ。選手にとって一蓮托生の不可欠な存在だ。しかし、多くのゴルフ関係者同様、現在はキャディたちも苦しい現実に立ち向かっている。この新型コロナウイルス禍の今後の風向きまでは、誰も読むことはできない。

例えば収入面。キャディの収入は、選手の活躍に依る部分が大きい。専属契約の有無によって違いもあるが、多くの場合、『基本給+選手の成績に応じた歩合給』で成り立っている。10万円ほどが相場とされる基本給は、その週の宿泊費など経費を含むケースが多いため、『優勝で賞金の10%』、『トップ3入りで8%』などと決められた歩合の部分が、収入を大きく左右する。

だが、もちろんそれも試合があっての話。そのため中止が発表され始めたシーズン当初は、空いた時間を埋め、収入を確保するためにアルバイトをするキャディも少なくなかった。穴井詩といった選手のバッグを担ぐ喜屋武(きゃん)愛氏もその一人。例年オフはハウスキャディで生計を立てているが、今年はその期間を“延長”。それでも「自粛ムードによりコースに来るお客様が減ったことで出勤回数は多くなかった」と実情を明かし、昨年トーナメント4試合でバッグを担いだ3月の収入については「だいたい3分の1くらいまで減りました」と苦しい春になってしまった。

また昨年3月の「Tポイント×ENEOSゴルフトーナメント」で上田桃子のキャディを務め、優勝をともにした新岡隆三郎氏のように、1年前に好成績を残した選手のバッグを担いでいた場合、“前年比”でみると大幅なダウンを余儀なくされる。新岡氏は、オフにはコースで一般ゴルファーにマネジメントを教えるというレッスン業にもあたっているが、「今は感染リスクを抑えるために行っていません」と、やはり安定的な収入の確保は困難な状況だ。

ゴルフ以外の仕事でも当然ながら新型コロナの影響は大きく、例年オフは空港での仕事に携わる吉本ひかるらのキャディ・小谷健太氏は、「試合が中止になり始めたころは、シフトに入れてもらうことができていましたが、徐々に便数が削られていく状況で、仕事も減っていきました。収入は(昨年の)半分以下ですね」と現実を話す。ペ・ソンウ(韓国)のキャディを務める李進伍氏からは、「1、2月は長野でスキーのインストラクターをしていましたが、今は自宅のある大阪に戻りました。アルバイトなどを探そうにも、いつどうなるか分からないので、それもできない状況ですね」という声も聞こえてきた。

■選手の活躍で税金アップ…「余計なことに使わないように」

いつ始まるか分からない試合に備えるためスケジュールが組みづらいうえに、緊急事態宣言発出後は、働く場所もかなり限られることに。上記の声はあくまでも3月の話で、4月以降さらなる自粛生活へと入っていったのはキャディも同じだ。ただ、もともとが“フリー”というような立場だけに、例えばケガなどがあれば、長期離脱することも十分に考えられる。それだけに、日ごろから有事に備えている職業でもある。

昨年、柏原明日架のキャディとして2勝をともにした佐々木裕史氏は、「今感染してしまったら、いざ試合が始まった時にすぐ対応ができなくなるので他の仕事はしていません。ただ、こういう事態を想定し、それに備えるのは当然だと思ってきた。収入がないのがつらいのはもちろんだけれど、それでダメになるくらいなら辞めるしかないと、いつも思っている」と、胸のうちを明かす。

先の李キャディも、「昨年ペ・ソンウプロの成績が良かったこともあり、その分、税金も高くはなりますが、これまで備えてきましたし、貯金もしていました。今は余計なことにお金を使わないようにしているくらいです」と話す。日ごろの“備えあれば憂いなし”という意識が、この局面を乗り切る時にも大きな支えになっている。

■“未来への投資”をする姿も

このような苦境のなかでも、来たる開幕に向け、トレーニングを行っているというのは、今回話を聞いていて共通する部分だった。申ジエ(韓国)の専属キャディを務める齋藤優希氏は、「実際にコースへ行かないと、どうしても勘が鈍ってしまう。自宅のすぐ近くにゴルフ場があるので、そこで2ホールを借してもらい、人と接触しないような形でプレーをしたりして過ごしています」と“調整”の様子を話してくれた。

また自宅でのトレーニングは、今できる最低限の準備となる。いざ試合が始まった時に、選手のバッグを肩にかけ1日18ホールを歩くための体力は維持しなければならないからだ。鈴木愛らのバッグを担ぐ宮崎晃一氏は、もともとスポーツジムで体力作りに励んできたが、現在の状況も考慮し2月で退会。「今は自宅に簡単なトレーニング器具をそろえ、もっぱら筋トレをしています。あとは読書、映画観賞、愛猫とのふれあいの日々です(笑)」という時間を過ごしている。

目の前の生活や試合の準備以外で、日々の生活を充実させるための過ごし方についての話を聞くこともできた。昨年、淺井咲希の初優勝を支えた栗永遼氏は、動画作成にも打ち込んでいる。「仲間とYouTube(GOLF BASE TV)をやっているので、その企画を考えたり動画の編集を勉強したりしている状況です。プロキャディを知ってもらう機会を作ることができればと精進しています」。こういった取り組みは、まとまった時間が必要不可欠となってくるだけに、現状を有効に生かす一つのモデルケースでもある。

青木瀬令奈のコーチ兼キャディを務める大西翔太氏は、「ピンチはチャンスと考えるようにして、家を学びの場としてゴルフの研究をする時間に費やしています。ただ本を読んで勉強するだけでなく、その裏付けをする時間も十分にある。これまでやりたくてもできなかったことに向き合えるので有意義ですね。1日1冊は本を読むことが目標です」と、こちらも前向きに毎日を過ごしている。こうした“未来への投資”は、モチベーション低下を防ぐための方法にもなりうる。

「キャディ同士でも『早く始まってほしいね』という話はしています。おじさんが多い世界で、普段は『休みたい』なんて言い合っているんですけど、仕事がないと、そんなことは言ってられない(笑)。当たり前のことに感謝しないといけないと、つくづく思いますね」という新岡キャディの言葉は、他のキャディも同じことを感じる部分だろう。とにもかくにも、1日も早くツアーが始まることを信じて、選手にとっての心強いパートナーたちも歯を食いしばっている。

<ゴルフ情報ALBA.Net>