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石川遼が“観戦無料”大会で「観に行きたいと思ってもらえるプレーを…」の前につけたかった言葉

<三井住友VISA太平洋マスターズ 最終日◇13日◇太平洋クラブ 御殿場コース(静岡県)◇7262ヤード・パー70>

久しぶりに男子ツアーで大勢のギャラリーをみた。最終日最終組で回った石川遼、星野陸也、蝉川泰果のスタートホールでは、ティイングエリアからグリーンまでをギャラリーが囲んでいた。

大会50周年を記念して『観戦無料』となった「三井住友VISA太平洋マスターズ」では、初日4170人、2日目5131人、3日目10067人、最終日7334人の合計26702人を記録。そもそも近年は人気が低迷している男子ツアーでは、平日は4ケタに乗ればいいほうで、土日も5000人を超えることはあまりない。日本開催の米国男子ツアー「ZOZOチャンピオンシップ」を除けば、国内男子ツアーで1日のギャラリー数が1万人を超えたのは、18年の「日本プロゴルフ選手権」以来、4年ぶりだった。

20年大会はコロナ禍で無観客での開催、最大5000人を上限として有観客で行われた21年大会は、初日1635人、2日目2004人、3日目2487人、最終日は2872人の合計8998人だったことを考えると、今回はおよそ3倍のギャラリーが訪れたことになる。ちなみに昨年は、予選ラウンド2日間はそれぞれ4000円、決勝ラウンド2日間はそれぞれ6000円でチケットを販売していた。

選手たちはSNSやコメントで観戦無料をアピールし、「観に来てください」と呼びかけた。10、12年に続く大会3度目の優勝を飾った石川遼も、期間中は「観にいきたいと思ってもらえるプレーができるように頑張りたい」と何度もコメント。でも実は「避けていた言葉」があったと優勝会見で明かした。

「その言葉の前には『お金を払ってでも』というのは自分の中にはあったんです。それは大会としての魅力もありますけど、生で観たいなと思われる選手が何人いるか、選手も大きく関わっている」と私見を述べた。そして、大ギャラリーに囲まれて大きな歓声や拍手のなかでのプレーに関しては、「本当にモチベーションが上がりました」と力をもらった。そのなかでも「特にパッティングが楽しかった」という。

「グリーンでたくさんの方が取り囲んで見やすいグリーンのコースの形状で、ボールとカップが見える。グリーンの周りにいるギャラリーの人は、どう曲がるのか話しながら観ていたりしていると思うんです。それを1パットで決めたときはすごく楽しいし、入らなくてもため息というか、楽しんでもらえているのが伝わってくる。やっぱり、ギャラリーの人がいると、パッティングの集中力が上がるというか、本当にいいパットを打ち続けられた」

石川が例に挙げたのは最終日の15番ホール。下りの4メートルのスライスラインを見事に沈めてバーディを奪ったシーン。「僕が打った瞬間に『弱いかな』っていう声も聞こえたんですけど、すごく速いラインだったので、ジャストタッチで深めに読んで打った。あの瞬間にすごく楽しいなと感じました」。同じラインで内側につけていたトップの星野は、このスライスラインを左に外して1メートルオーバー。返しも外して、まさかの3パットのボギーで石川に並ばれている。

これを聞いて、石川が以前「砲台グリーンが嫌い」と言っていたのを思い出した。記憶が定かではないので「嫌い」という表現で合っているかは自信がない。でも理由ははっきり覚えている。「周りにいるギャラリーからボールとカップが見えない」からだ。

砲台グリーンはギャラリーの目線よりも高い位置にグリーンがあるので、どのくらいの距離をどう読んでどう入ったかは見えない。カップインは“音”だけが頼りとなる。今大会ではもちろん砲台グリーンもあったが、グリーンの周りがせり上がり自然のギャラリースタンドのようになっていて、ボールがよく見えた。だからギャラリーも選手と一緒に一喜一憂することができた。ちなみにマスターズでは、ほぼすべてのグリーンにギャラリースタンドがあり、カップとボールがよく見える。だからあれだけの大歓声が起こるのだ。

最終日は地上波でのテレビ中継が生ではなくディレイだったことから、石川遼と星野陸也のプレーオフに入る前に日本ゴルフツアー機構(JGTO)のリーダーボードは一時的につながりにくい状況に。その後10分で復旧したが、遅い状態がしばらく続いた。これは「Sansan KBCオーガスタ」で河本力が初優勝したときも同じだった。

もう石川だけではなく、規格外の飛距離が魅力の河本や蝉川といった“生で観たい”選手たちが増えてきている。あとは、どうやって会場に足を運んでもらえるきっかけを作れるか。今回の“観戦無料”は『お金を払ってでも』につながる施策になったのではないだろうか。(文・下村耕平)

<ゴルフ情報ALBA.Net>