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石川遼が“3度”の18番で貫いた徹底戦略「いかに2m以内のバーディパットを打てるか」

<三井住友VISA太平洋マスターズ 最終日◇13日◇太平洋クラブ 御殿場コース(静岡県)◇7262ヤード・パー70>

ゴルフファンであれば最終18番ホールが2オン可能なパー5なら、劇的なイーグル決着を期待してしまうもの。しかし石川は最終日の18番、正規の1回とプレーオフ2回の合計3回プレーして、一度もドライバーは握らなかった。

誇らしげに優勝トロフィーを掲げる石川遼【写真】

正規の18番のティショットで握ったのはユーティリティだった。前日の3日目も3番ユーティリティ→3番ユーティリティと続けて2オンに成功し、2パットのバーディを奪っている。しかし、最終日はこれを右プッシュ。2打目はレイアップするもチョロして、3打目はまだ185ヤード残っていた。「下の段に乗せて、何とか17、18メートルを2パットでいけた。死に物狂いで2パットでいってやろうと思って、緊張はなかった」と振り返る。最終組で一緒に回っていた星野陸也も同じくパー。トータル8アンダーで首位に並び、2人のプレーオフに突入した。

延長戦1ホール目。星野はドライバーで右のラフへ。石川は3番ウッドを選択したが、こちらも同じ右へのミスでラフに行った。セカンドショットはどちらもグリーン左のバンカーに入れて、石川はこれを2メートル弱に寄せ、星野も2メートルくらいのバーディチャンスにつけた。先に打った星野のバーディパットはカップに蹴られて、自分のほうに戻ってきた。

決めれば優勝が決まる石川のバーディパット。「今週で一番緊張した瞬間。カップ1個なのか1個半なのか迷って、最終的に1個半で読んだ。イメージは出ていたし、冷静に打ったつもりだったんですけど、フェースが左を向いていた。けっこうチャンスだったので、かなり“ずしん”とメンタルに来ました」と、フックラインは左に外して、プレーオフは2ホール目に突入する。

石川の3番ウッドでのティショットは、前の2度よりもさらに右に曲がった。林の中からスライスをかけたボールは、左のラフまで到達。ピンチに陥ったが、石川は冷静だった。「3打目が打てるところにあって、本当にラッキーだった」。

ピンは上の段に上がって3ヤードほど奥。石川が左足下がりのラフから48度のウェッジで打った残り130ヤードの3打目は、この段の壁に当てて、狙い通り上の段に止まった。対する星野はフェアウェイからのセカンドショットを左のバンカーに入れており、ピンチは一転してチャンスに変わった。「普通に18番をプレーしていたら、3打目をあそこから打つのは到底いい内容ではない。あれで下の段に落ちたら万事休す。(上の段に)残ってくれて良かった」。

星野は左のバンカーから寄せきれず、バーディパットを外した。続く石川のバーディパットは2メートル強。入れば優勝だ。「ほとんど真っすぐのライン。佐藤キャディとそう読んで、自信を持って打ちました」。ボールはカップに吸い込まれ、「入った瞬間に頭が真っ白になった」。

一昨年から始めた3年近くにも及ぶスイング改造、セッティングの見直し、そしてマネジメントが結実した瞬間だった。19年の「日本プロ」で挙げた3年ぶりの勝利と、この3年ぶりの優勝には違いがあると石川は言う。

「日本プロに勝ったときはドライバーが絶好調で、パターもアイアンも良かった。すべてがハマってプレーオフで優勝。今回はそんなにめちゃくちゃ良かったわけではないけど、丁寧にプレーするのを意識して、欲だったりあわよくばガムシャラに打ったら上手くいくんじゃないかという瞬間はなかった。日本プロは目の前のことでいっぱいいっぱい。最終ホールも祈りながらマン振りしていた」と、同じ3年ぶりの優勝でも、今回は確率を重視したマネジメントを貫いていた。

それが集約されたのが、最終日だけで3回プレーした18番だった。「最後は泥臭くバーディ獲って終わったんですけど、18番はいかに安定して2メートルのバーディパットを打てるかを意識していた。イーグルを獲って優勝は現実的でない。2メートル以内のバーディパットを打てるようにマネジメントしてきた」。正規の18番こそ長いバーディパットとなったが、プレーオフ1ホール目では2メートル弱、最後の2ホール目では2メートル強と、ティショットをどんなに曲げても“最終的に”ほぼ2メートル以内のバーディパットを打ち続けた。

「プレーオフの1ホール目も良かった。2ホール目にもしイーグルを狙っていたら、(セカンドではグリーンを狙えないので)きっとガックリきていた。まだチャンスをもらえたなと。ゴルフに対する考え方は変わってきて、勝てたことにホッとしていることが正直ありますが、その気持ちは前回より少ない。これから頑張りたいという思いが強い」と優勝の先をすでに見ている。

ウイニングパットが入った瞬間、雨が降る空を見上げた。若いときのような派手なガッツポーズはしなかった。カムバックではない。30代となり、別のプレースタイルを身に着けた新しい石川遼がそこにはいた。(文・下村耕平)

<ゴルフ情報ALBA.Net>

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