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裾野拡大へ日本一のジュニア大会を目指す 松山英樹の元エースキャディが新たに選んだジュニア育成への挑戦

<進藤大典ジュニアトーナメントSupported byアイダ設計◇5日◇成田ヒルズカントリークラブ(男子6701ヤード・パー72、女子6205ヤード・パー72)>

宮里優作や谷原秀人、片山晋呉らの帯同キャディを経た後、2012年秋から18年まで6年間ものあいだ松山英樹のエースキャディを務めた進藤大典氏。その進藤氏が昨年からジュニアトーナメントをステーブルフォード方式で主催している。大会実現までの道のりは険しく、決して平坦ではなかったが、昨年に続き11月5日に行われた今年も、大会は盛況に終わった。なぜ、ジュニアトーナメントにこだわるのか、その横顔に迫る。

「マスターズ」を含む米PGAツアー8勝を誇る松山英樹。その松山がPGAツアーに参戦した当初からエースキャディとして支えてきたのが、進藤氏だ。ロープの内側から世界のトッププロが真剣にゴルフに取り組む姿を肌で感じた経験は貴重な財産だが、それを少しでも生かすべく、昨年から「進藤大典ジュニアトーナメントSupported byアイダ設計」を開催している。

「単に強い選手を育てるのではなく、ゴルフの楽しさや一つの大会を開催するのに、いろんな人が関わっていることなどを知ってもらいたいと思ったんです」と進藤氏。自身が高校時代に米ツアーを観戦した際、1時間以上もサインをし続けるフィル・ミケルソン(米国)の姿に感動したという。しかし、本当の衝撃はその20年後にあった。なんとキャディとしてPGAツアーに参戦したときに見たミケルソンは、20年前と同じようにファンに対してサインし続ける姿勢を変えていなかったのだ。

「ミケルソンだけでなく、タイガー・ウッズもそうですが、ボランティアの方々やファンに対するサービス精神がすごく素敵だなと。そういう感動や衝撃を次の世代に伝えたいと思いました」。ジュニアの世界ではゴルフが上手ければいいという風潮が少なからずあるが、両親はもちろん、周囲の協力がなければ競技に参加できない。その意味でも常に感謝の気持ちを忘れずにプレーしてほしいし、ゴルフの楽しさをもっと知ってほしい。それが長い目で見ればゴルフ界の裾野を広げることにもなる。

もちろん、ジュニアゴルファーのレベルを上げたい気持ちも強い。その一つが試合形式をステーブルフォード方式にした理由でもある。これは各ホールのスコアに応じてポイントを加算し、合計ポイントで勝負を決める方式だが、ストロークで争うよりもイーグルやバーディの比重が高くなる。自然とアグレッシブに攻めざるを得ないのが特徴だ。

「メジャーで優勝争いしたときに大切なのは、最後までピンを攻めきれるかどうかです。技術だけでなく、強い攻めの気持ちがなければ怯んでしまい、自分のゴルフができなくなります」と進藤氏。前向きな気持ちでプレーすることの重要性を伝えるために採用したが、その思いは選手に伝わったようだ。

5日に開催された第2回大会。高校男子の部で優勝した佐藤快斗さんは、短いパー4でティショットを刻むことなく、果敢にドライバーで攻めた結果、イーグルを奪って首位に立った。「ストロークだと負けていましたが、ポイント制なので積極的に攻めてよかったです」と笑顔を見せた。また、高校女子の部で優勝した飯島早織さんは「全ホールイーグル狙いで攻めました。1回も入りませんでしたが(笑)」というものの、攻めのゴルフに徹した結果、4バーディにボギーなしでホールアウトしている。

今回もイベントとしては間違いなく大成功だったと言えるが、そこにたどり着くまでに重ねてきた進藤氏の苦労は計り知れない。「正直、最初はジュニアのイベントなので甘く考えていました。でも、経費を計算したら『こんなに費用がかかるんだ!?』と驚きました」と振り返る。学校を休ませたくないという思いから土曜日の開催であり、コースを貸し切るとなれば、かなりの金額がかかる。しかも、ジュニアにはなるべく金額の負担をさせたくない。そのためには、多くの会社に協賛してもらう必要がある。「すべての会社に直接出向き、お願いしてきました」と進藤氏は語るが、そう簡単に賛同してもらえるはずもなく、断られた会社のほうが多い。今回は特別協賛のアイダ設計のほか21社が協賛したが、それ以外にも賞品提供の会社が数社あった。その甲斐あって、ジュニアは1人6000円の負担で済んだという。ただ、それだけの数を集めるにはそれこそ100社近くを回って自分の理念を伝えてきた。「営業が一番つらかったですね」というのも納得だ。

しかも、今年は高校男子の部の優勝者に来年の国内男子ツアー「ASO飯塚チャレンジドトーナメント」本戦への出場権が、高校女子の部の優勝者には同じく来年国内女子ツアーの「ゴルフ5レディスプロゴルフトーナメント」本戦への出場権が与えられる。どちらも進藤氏がキャディを務めるが、それもジュニアの可能性を広げたいと思うからだが、当然、1枠をもらうために主催者に何度も頭を下げにいった。

将来的には日本一のジュニアトーナメントにしたいという目標を持つ進藤氏。来年、コロナ禍が収まれば、各地区での予選大会を経ての決勝大会や、2日間、あるいは3日間大会にしたいという意向もある。さらには、親交のあるジョーダン・スピースやジャスティン・トーマス(ともに米国)らが持つジュニア・ファンデーションとのコラボも将来的には考えているという。今回はゴルフの経験を問わない小学生を対象にしたイベントも同時開催しており、ゴルフの裾野を広げようとする意図がうかがえた。大きな目標に向かう進藤氏の挑戦はまだ始まったばかりだが、少しでも目標に近づけることを願いたい。(文・山西英希)

<ゴルフ情報ALBA.Net>