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“怪物”蝉川泰果が魅せた9番パー4のワンオンイーグル「ギャラリーを沸かせたい」

<日本オープン 3日目◇22日◇三甲ゴルフ倶楽部 ジャパンコース(兵庫県)◇7178ヤード・パー70>

歴史的快挙は目前だ。先月の「パナソニックオープン」で史上6人目のアマチュア優勝を遂げた蝉川泰果(東北福祉大4年)が3日目に「63」をマーク。2位に6打差をつけるトータル13アンダーで史上初となるアマチュアでのツアー2勝目に王手をかけた。ナショナルオープンをアマチュアで優勝したのは、第1回大会(1927年)の赤星六郎のみ。このまま逃げ切れば95年ぶりの快挙で、初日から首位を譲らない完全優勝のおまけ付きとなる。

きょうの蝉川のゴルフは“圧巻”というほかない。トータル6アンダー・首位タイで最終組の1つ前の組からスタートすると、難易度5位の1番パー4のバーディで波に乗り、1イーグル・7バーディ(2ボギー)を奪った。プロたちが『どうやってパーを獲ろうか』とマネジメントに苦慮する距離の長い7番と12番のパー4では、唯一どちらもバーディ。イーブンパーでも上出来というナショナルオープンらしいタフなセッティングのなか、一人だけ別のゴルフ場でプレーしているかのようだった。

「(後ろを回る最終組の)比嘉(一貴)さんとか金谷(拓実)さんが、どういったスコアで上がってくるか見当がつかなかったので、『ムチャクチャ伸ばしたろう』という気持ちでずっと回っていました」と、一切アクセルを緩めずに18ホールを攻めきった。

そんな蝉川の姿勢が一番表れたのは9番パー4。予選ラウンドでは419ヤードの設定だったが、この日はティが前に出されて319ヤードとなり、ワンオン可能だった。グリーンの手前は池が広がっており、打ち下ろしを入れて、池を越すには259ヤードのキャリーが必要となる。ただ飛ばすだけではなく、高い球で止めなければ奥のラフにこぼれてしまう。

9番のティイングエリアに立った時点では、トータル8アンダーで単独首位に立っていた。池ポチャのリスクを避けて、ワンオンを狙わずに刻む選択肢もあったが、「刻むのは頭にはなかったですね」と3番ウッドを握った。「ミスったらミスったときよ」。

グリーンの後ろを取り囲むギャラリーを見て、「距離的にも合うし、せっかくだから観に来ている人を沸かせたい」と、3番ウッドを振り切ると、「GO!」という蝉川の叫びに押されるようにボールはエッジから2ヤードほど先に着弾し、ピンの右8メートルにピタリ。ティイングエリア、そしてグリーンサイドにいたギャラリーが「ウォー」と沸き、大きな拍手が起こった。

アマチュアながら蝉川は「ギャラリー目線を意識している」という。「やっぱりアマチュアではできないプレーを見たいと思って、ちっちゃい頃は(ツアーを)観に来ていたので。予想を超えるようなショットを打つ選手たちに、僕は憧れが強い。自分ができるプレーを前面に出していきたい。アグレッシブなところを見て沸いてくれたりとか、楽しんでくれると思うので、意識しています」と考えている。もう発言はプロそのものだ。

そして、9番のイーグルパットはど真ん中からカップに吸い込まれ、大きなガッツポーズ。再びギャラリーを沸かせた。ワンオンに成功したのは、ほかにアダム・スコット(オーストラリア)、清水大成、大岩龍一がいるが、そのうちイーグルを奪ったのは蝉川だけだった。「9番のショットは一番楽しかったです。アドレナリンが出た。やっぱりどのプロもそうなんじゃないですか。ギャラリーのかたがいるラウンドは楽しめる。自分たちも楽しい。僕自身は歓声が上がるほうがテンション上がるので、すごく楽しい職業だなと思います」。もはやアマチュアとして見るのは失礼なのかもしれない。

あしたは6打差逃げ切りを図るが「このスコアに満足せず、逆に8アンダー出すくらい、もっともっと伸ばしていくようなゴルフを意識して、しっかり勝ちきりたいなと思います」と臆することなく宣言した。

きょうのラウンド後にクールダウン中の片山晋呉が、トップの蝉川が12アンダーまで伸ばしたスコアボードを見ながら言った。「優勝スコアは5アンダーって言ってきたけど、プロの部だったかもしれない。アマチュアの部は考えてなかった。一気にスターになっちゃえばいい」。5度の賞金王にこうまで言わせるとは…。いままさに怪物が誕生しようとしている。(文・下村耕平)

<ゴルフ情報ALBA.Net>