このエントリーをはてなブックマークに追加

羽生結弦さんの“プロ転向”に見るフィギュアスケート界とゴルフ界の違い

7月19日にフィギュアスケート男子で五輪2連覇を果たした羽生結弦さんが、プロ転向を表明。それに伴い、オリンピックや世界選手権などの競技会には出場しないことも明らかにした。個人競技であり、男子、女子と分かれていることなど、ゴルフと似通っている点も多いと思いきや、実際は結構な違いがあった。

まず、アマチュア規定についてだが、フィギュアスケートの場合、国際スケート連盟に加盟している各国のスケート連盟に加入し、選手登録をしている選手をアマチュアと呼ぶ。日本なら日本スケート連盟に選手登録をしている選手がアマチュアだ。逆に言うと、日本スケート連盟に登録していない選手はアマチュアではないため、競技会には出場することができない。

フィギュアスケートを始めた選手は五輪や世界選手権などを目指すが、そのためには国内の競技会で好成績を残さなければならない。したがって、自動的に連盟に登録することになるわけだ。しかし、年齢や体力などの問題でこれ以上の成長は望めないと判断した選手や、羽生さんのように結果を残した選手は連盟に引退届を提出し、登録から外れる選択をする。この時点でアマチュアではなくなってしまう。ゴルフは、日本ゴルフ協会に選手登録をする必要はないが、競技に出た場合、賞金にしろ、賞品にしろ、受け取った金額が10万円以下なら問題はないが、10万円を超えてしまうとアマチュア資格を失うことになる。

次に、アマチュアとしての契約についてだが、フィギュアスケート界では、企業との契約が認められており、契約金をもらうことでその企業を所属先にしたり、企業のコマーシャルに出演したりしている。人によっては年間数千万円の契約もあるが、ある意味ゴルフ以上に経費がかかるという。アマチュアとして活動していた選手に聞くと、「リンクを借りたり、衣装やスケート靴にかかる経費だけでなく、コーチや振付師に支払う経費も必要です。人によっては、トレーナーや栄養士なども付け、海外で合宿する場合は彼らの分もすべて支払うことになります」という。

最低でも年間1000万円から2000万円はかかるため、スポンサーがいなければかなり苦しい出費となるのは間違いない。ゴルフも経費がかさむが、今年からアマチュアが企業とスポンサー契約を結ぶことが認められるようになった。しかし、実際に契約している選手はほんのひと握りにすぎない。

最後にプロとの境界線についてだが、ゴルフと違い、フィギュアスケートにはプロテストはない。ある意味、連盟の登録を外れた時点でプロスケーターとなる。知名度のある選手ならアイスショーを開催したり、出演することで収入を得られるが、そのような選手ばかりとは限らないのが現実だ。その場合は審判の資格を取ったり、振付師やコーチ、スケート教室を開くなどの道に進むが、最初はコーチや振付師のアシスタントなどを行ったりする下働きから始めることの方が多いという。また、アイスショーにはオーディションがあり、そこで合格して出演する道もある。

以前は、練習環境が整っていた大学を卒業するときにプロへ転向することが多かったが、最近は競技を続けたいと思う選手が増えているらしく、その場合は自分で支援してくれる企業を探し、午前中は仕事をして午後からは練習するというスタイルで生活しているという。

ゴルフの場合は、ご存じのように男女ともにプロテストがあり、それを通過して初めてプロゴルファーとなる。ただし、トーナメントに出場するには、ファイナルQTで上位に入らなければならない。

ゴルフではアマチュアの競技はあまり注目されず、観戦する場合はプロの試合がメインとなる。フィギュアスケートでは、日本の場合はまだまだアマチュアの競技がメインだが、競技自体の歴史が長い国では、プロのアイスショーもかなり人気が高い。日本も羽生さんのプロ転向により、今まで以上にアイスショーが注目される可能性は十分ある。1人の選手がどこまで影響力があるのかわからないが、仮に成功した場合は、男子ゴルフ界にもいいヒントになるだろう。その意味でも、新たな可能性に挑戦する羽生さんにはぜひとも成功してもらいたいところだ。(文・山西英希)

<ゴルフ情報ALBA.Net>