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痩せるだけじゃない! 『16時間プチ断食』で体の調子もやる気もアップ【ゴルフと健康】

最近の高機能ゴルフウェアは体にフィットするタイプがトレンドなだけに、ダボつき気味の体をどうにかしたいと思っている人は多いはずだ。しかし、いざダイエットをやろうかというときに、二の足を踏ませるのが、『ご飯を食べないと、やる気が出ない』とか『肉を食わないと、パワーが出ない』といったジレンマと、『ダイエット中は気力・体力が削られる』という通説だ。

そんなダイエットに関する考え方をガラリと変えたのが、昨シーズンの賞金王のチャン・キム(米国)がシーズン中に行ったダイエットとその成果だった。

■なぜ腹が減ると、体の調子が良くなるのか

チャン・キムがやったのは、何を食べても良いが、決められた時間以外は固形物を食べない『インターミッテント・ファスティング』(断続的断食)というダイエット法だ。半年間、このファスティングを続けた結果、チャン・キムの体重は15キロ減り、そして削られるはずの気力・体力は以前にも増して旺盛になったのだ。彼はダイエットの効果をこう言っている。

「やっていると目覚めも良くなるし、体が調子良いのを感じている。自分の活力を一日中保つことができている」

『活力』とは、それこそ気力と体力そのものである。ダイエットによってシーズン後半まで活力に満ちた絶好調の状態になったチャン・キムは、自身初となる賞金王を獲得した。つまり、ダイエットをして腹が減れば気力も萎え体力は減退するものという我々の思い込みは驚くことに、逆だったのだ。

実は今、ダイエットの目的と効用は減量だけではなく、美容、健康、アンチエイジングと多岐に渡っている。中でも注目をされているのが、『オートファジー』という細胞内で起こる再生の仕組みだ。チャン・キムの「活力を一日中保つ」といった体の変化も、このオートファジーという細胞レベルでの活動が影響していることは間違いない。

■『エネルギー制限』よりも『摂取時間制限』のほうが続けやすい

このダイエットによって得られる“最高の果実”と言ってもいい、『オートファジー』とはどういったものなのか。今、ファスティング・ダイエットの分野で注目を集めている青木厚医師に話を聞いてみよう。

青木医師の著書『空腹こそ最強のクスリ』(アスコム)は、2019年2月の発売以来、累計37万部突破のベストセーラーだが、その中で提唱されているのが『16時間ファスティング』。チャン・キムが行った食べる時間を制限するインターミッテント・ファスティングだ。

まず、なぜものを食べない空腹時間を『16時間』に設定したのか、その理由を訊いてみよう。

「多くの人がダイエットをする時に、まず試みるのがエネルギー制限ダイエットです。しかし、1日3食の制限食ダイエットでは、どうもうまくいかない人がたくさんいるんですよね。それで摂取時間制限の『16時間ファスティング』をやってみたところ、目標達成率が高かったんです」(青木医師 以下同)

どうして制限食ダイエットは失敗するのに、摂取時間制限ダイエットは成功するのか。そのカラクリはこうだ。

「『16時間ファスティグ』では基本的に、設定された空腹時間以外なら、何をどれだけ食べてもいいことにしています。最初の頃は、制限時間外に好きなものを好きなだけ食べていた人も、ファスティングの日数を重ねていくと食べる量は減ってくるのです」

要するに、食べない時間に慣れてくると『胃袋が小さくなる』という現象が起こってくるわけだ。

もう一つ、この『16時間ファスティング』の成功率が高いのは、睡眠時間を利用するからである。16時間なにも食べないというとハードルが高い気がするが、ここに睡眠時間の8時間を入れてみるとどうだろう。寝ている時間はものを食べたくならないから、我慢するのは残りの8時間になる。均等に分けると朝起きから4時間、寝る前の4時間を何も食べない空腹時間とすれば睡眠時間と合わせて16時間ファスティングの達成だ。そう考えると絶食もハードルはグッと下がってくる。

絶食時間の振り分けは、その人の生活パターンによって自由に設定可能だが、青木医師が奨める夜間に空腹時間を作るパターンを紹介しよう。

「22時に入眠して起床が6時だとしたら、午前中は10時までは何も食べない空腹時間とします。そして10時から午後の18時までは何を食べても良い時間にします。そして18時以降、寝るまでの4時間は何も食べない空腹時間です。このパターンを奨めるのは、人間の『サーカディアンリズム』(体内時計)に合った生活様式になっているからです。太古の時代から私たち人類は、夜になって暗闇が訪れると活動をやめて休息の時間としていました。このように、活動してエネルギー消費の多い昼間に食事をとり、休息時間の夜間は食べるものを控えるというパターンは、人間が本来持っている生体リズムに則った形になるので慣れてくると過ごしやすいはずです」

■16時間食べないことで細胞が生まれ変わる

実は、ものを食べない空腹時間を『16時間』に設定した理由はもう一つあって、それが『オートファジー』と関係してくる。16時間食べないことで私たちの体の中ではどういったことが起こっているのか、『オートファジー』とは何なのか、そしてその効果について青木医師に教えてもらった。

「私たちの体は約60兆個の細胞で出来ていますが、その細胞は主にタンパク質で作られています。このタンパク質のうち古くなったものは体外に排出されていくわけですが、中には排出されずに細胞内に残ってしまうものもでてきます。そういった古くなったタンパク質が溜まると細胞は衰えていき、さまざまな体の不調や病気を引き起こす原因となります。

そうならないために、細胞内では、古くなったタンパク質を集めて、それを分解して新しいタンパク質を作る作業が行われています、これがオートファジーです。つまり、古くなった細胞を内側から新しく生まれ変わらせる仕組みですね。こうやって細胞が生まれ変わることで、体の様々な器官の機能が活性化し、病気になりにくく若々しい体になるのです」

要するに、廃品を回収してそれを再生利用するリサイクルが体の中で行われている、それが『オートファジー』なのだ。全身の60兆個の細胞のすべてでこの『オートファジー』が行われていることを想像してみよう。チャン・キムの言う『活力』が一日中保持され気力が漲るというのが、本当に体の中で起こっているのだと思えるではないか。

では、この『オートファジー』と『16時間ファスティング』の関連性について、青木医師に説明をしてもらおう。

「オートファジーは私たちの体の個々の細胞内で新陳代謝として常に行われているのですが、空腹状態になると特にそれが活発化します。なぜ空腹時に活発化するかというと、オートファジーが体や細胞が強いストレスを受けた際にも生き残れるように体内に組み込まれたシステムだからです。それで、細胞が飢餓状態に陥ったと察知したときにその働きが活発になるわけです。では、どのくらいの空腹状態が続けばオートファジーが活発になるかというと、最後にものを食べてから16時間ほど経過してからになります」

『16時間ファスティング』は、ファスティングという意図的に作った飢餓状態を16時間続け、それによってオートファジーを引き出し、細胞を若返らせ、体の中から健康になろうという健康法だったのだ。

■ゴルフと16時間断食は相性がいい

こんなにいいことずくめなら、ぜひとも『16時間ファスティング』をやってみたいと思うゴルファーも多いだろう。しかし、人によってはファスティングの設定時間がプレーと被ったりする場合があると思うが、この辺りの身体的な影響などはどうだろう。

「ファスティングの最中は食べることから開放されて、思考力や集中力、そして感覚が研ぎ澄まされる傾向にあります。ゴルフは運動量としては激しいスポーツではなく、集中力や思考力を高めて取り組むスポーツですから、ファスティングの期間中であってもプレーをすることは全く問題ないと思います。それどころか、むしろ良い結果に繋がることもあるのではないでしょうか」

ラウンド中の水分補給などについてはどうだろう。

「ファスティングの最中でも水などのゼロカロリーの飲み物は飲んで構いません。また、もしどうしても空腹感に耐えられなくなった場合は、ナッツ類(素焼きのもの)で空腹感を和らげることもいいと思います。結果的にはファスティングではなく、この日は低エネルギー療法になるわけですが、どうしようもない空腹感により集中力が損なわれてしまっては、せっかくのゴルフが台無しになってしまいますから」

本格的な夏に向けてダイエットと健康と、そして集中力アップとなれば、ゴルファーなら『16時間ファスティング』をやらない手はなさそうだ。(取材・文/古屋雅章)

<ゴルフ情報ALBA.Net>