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プレーヤーズ選手権制覇のキャメロン・スミス マスターズ優勝候補筆頭へ!?【舩越園子コラム】

PGAツアーが誇るフラッグシップ大会、プレーヤーズ選手権は、悪天候による不規則進行が続き、2005年以来、史上8度目のマンデー・フィニッシュになった。

月曜日にも関わらず、TPCソーグラス(米フロリダ州)には仕事や時間をやりくりして大観衆が詰め寄せ、TV中継に見入っていた人も大勢いたことだろうそんな誰もが、最後には「来て良かった」「観て良かった」と大満足したに違いない。

オーストラリア出身の28歳、キャメロン・スミスが披露した勝ちっぷりは、それほど見事で、そしてドラマチックだった。

最終ラウンドを首位から2打差の6位タイでスタートしたスミスは、出だしの6ホールで5バーディを奪って単独首位へ浮上すると、7番からは一転して3連続ボギー。しかし、後半10番からは4連続バーディを奪取。どんな状況からも、どんな距離でも、次々に1パットで沈めていくスミスのプレーぶりは、ほとんど神がかっていた。

14番からはピンチに陥ってもパーを拾い続け、2位に2打差の単独首位を死守。

そして圧巻は、浮島グリーンを擁する名物ホールの17番(パー3)。グリーン右奥のピンを果敢に狙った9番アイアンのティショットは、打ち出された瞬間、池に落ちるかに見えたが、ピンのさらに右奥のショートサイド1.5メートルに付いたとき、彼のアグレッシブな攻めっぷりに大観衆はどよめき、狂喜した。

ソーグラスを設計した名匠ピート・ダイは「130ヤードそこそこで選手たちをドキドキさせられるとは思っていなかった」そうだ。だが、カーレースが大好きで「いい走りを見るのは楽しみだったが、激しいクラッシュにもワクワクさせられた」と明かしたダイは、そのワクワク感がソーグラスのフィニッシングホールである17番や18番でも感じられるよう、「密かなるワナを埋め込んだ」そうだ。

17番で1.5メートルを沈め、バーディを奪ったスミスの若さ溢れる攻めのゴルフは、そんなダイに「どうだ!」と言っているかのようだった。

しかし、2位との差を3打に広げたスミスが、18番では右の林からフェアウエイへ出そうとした2打目をフェアウエイ左サイドの池に落とす、まさかの波乱。ダイが「ふふふ。どうだ?」とニンマリ笑う顔が想像されたが、ドロップ後の4打目をピン30センチにつけ、ダメージを最小限に抑えてボギーで締め括ったスミスは、どんなときもベストを尽くすゴルフで人々を頷かせ、魅了した。

若さと賢さと誠実さ、正確なショットとそれを上回る見事なパット。すべてが揃ったこの日のスミスのゴルフには、大ベテランのポール・ケーシーも、最終ラウンドを首位で出たアニルバン・ラヒリも追いつくことはできず、スミスが1打差で「第5のメジャー」を制覇。史上最高額となる優勝賞金360万ドル(約4億1760万円)を手に入れた。

振り返れば、私がスミスの名前と存在を初めて知ったのは2014年の冬だった。オーストラリアのブリスベンにあるジェイソン・デイの実家を訪ね、母デニングに取材をしていたときだった。

デイの現地マネージャーが地元開催の試合結果を見つめながら、「これからは、このブリスベン出身のキャメロン・スミスがきっと活躍する」と言い、デニングも私も「キャメロン・スミス?覚えておきます」と答えた。

そのデニングは、がんとの5年間の闘病の末、今月2日に他界。その2週間後の今大会で、デイから弟のように可愛がられ、デイと同じマネージャーにサポートされているスミスが、かつてデイも優勝した今大会で5人目のオーストラリア人チャンピオンに輝いたことは、不思議な巡り合わせだった。

コロナ禍でずっと会えないでいたスミスの母と姉も、彼の恋人と一緒にオーストラリアからサプライズで駆けつけ、温かいハグでスミスの勝利を祝福した。

「いろんなことがあって楽しかった」と笑顔で饒舌に語っていたスミスが、母に会えた感想を尋ねられた瞬間、「母とは、この2年以上、ずっと会えなかったから、、、」と初めて声を震わせた。

世界のトッププレーヤーが集結した最強のフィールドで、不規則進行とマンデー・フィニッシュ、目まぐるしく変化した気候という最難条件の下、スミスが史上最高額の優勝賞金を獲得し、最愛の人々との最高の再会で幕を閉じた今年のプレーヤーズ選手権。

「現実ではないみたい」と語ったスミスは、通算5勝目、セントリー・トーナメント・オブ・チャンピオンズに続く今季2勝目を挙げ、フェデックスカップ・ランキングでは松山英樹を抜いて2位へ、世界ランキングでは6位へ浮上。

そして、これまで4度出場して3度トップ10入りした相性のいいマスターズに、今、最高の状態で臨もうとしている。それは、彼が掴み取った夢のような現実だ。

キャメロン・スミス――これからのゴルフ界を盛り上げ、沸かせる筆頭になりつつある。

文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

<ゴルフ情報ALBA.Net>