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渋野日向子がたどる東京五輪出場から米ツアー参戦というルート “メジャーチャンプ”の期待に応える準備の一年【米ツアーに挑む女たち】

昨年、3人もの日本勢が優勝した米国女子ツアーは、日本よりも一足早く1月から熱戦が始まっている。参戦の仕方はそれぞれだが、過去に類を見ないほど多くの選手が海を渡り、世界の舞台で戦う。そんな米ツアーに挑む選手たちについて、WOWOWなどで解説を務める小田美岐に語ってもらった。今回は、昨年の「全英AIG女子オープン」を制し、2021年からの米ツアー参戦の意思を表明している渋野日向子。

昨年、日本女子ゴルフ界に“42年ぶりの衝撃”を与えた渋野日向子。海外メジャー初出場初優勝という結果は、日本のみならず世界をも驚かせた。そして本人も「人生が変わった」と話すこの1勝により、日本は空前の“しぶこフィーバー”に包まれた。

この直後から大きな話題になったのが、『渋野は米ツアーに参戦するのか?』というトピックだった。全英制覇で翌年の米ツアー出場権も確保した渋野が、それを行使するか否かに、世間の注目が集まった。

全英直後は参戦の意思がないことをほのめかしてもいたが、時が進むにつれ当時20歳だった渋野の心は揺らいだ。そして周囲とも相談したうえ渋野が出した答えは、即座のメンバー登録については“NO”というものだった。「まだ覚悟や、準備ができていない」と、まず今年は国内を主戦場にし、年内に行われる米国ツアーの予選会を受け21年から参戦というルートをたどることに決めた。

「アメリカの協会や、関係者たちに『なぜ?』、『どうして?』とすごく聞かれましたよ」。小田は、渋野が決断をくだした当時の米国でのリアクションについて、こう明かす。そして小田自身も「残念」という思いは抱きつつも、この判断には深い理解も示している。

「東京五輪というものが、やはり大きいと思います。畑岡奈紗さんでさえ、参戦一年目はすごく苦労した。今年アメリカにわたって、いい成績はおろか予選落ちが続くようなことになると、せっかく五輪出場の最有力候補という位置まで上がることができたのに、それが水の泡になってしまうという恐怖はあったと思います。なので、今年に限っては仕方がない。タイミングが合わなかったですよね」

“準備不足”で、今年の米参戦を断念した渋野。では、どこをレベルアップすることによって、納得いく形で海を渡ることができるのだろうか。それについて、小田はアプローチ面を挙げる。

「アメリカ参戦となると、いろいろなコース、芝にも対応しなければならない。それも踏まえ日本女子オープンで畑岡さんやユ・ソヨンさんと一緒に回った時に、アプローチの種類がまだまだ足りないことを痛感したのではないかと思います。渋野さんのアプローチを見ていると、たまに『別の攻め方ならば、もっと成功率が上がるはずなんだけどな』と思う時もある。アプローチで“お先に”というよりは、微妙な距離を残しながらパットがうまいからセーブしているという場面も多かったはず。今アメリカに行ったら、“メジャーチャンプ”という期待も受けますし、それに応えられるような準備をしたいと思うのは理解できる部分ですね」

これについては渋野自身も、「アプローチの引き出しを増やしたい」とことあるごとに語ってきた部分だ。“猶予”となるこの1年をフルに生かし、明確な課題とともに小技の強化にも取り組んでいくことになるだろう。ただ、性格面でいうと、渋野はすぐに米ツアーになじむという見方を小田はしている。

「ストイックな部分がありながらも、切り替えがすごく早い選手。全英を見ても、初めての舞台で、あれだけラウンド中に手を振ったり、楽しそうに回っていたのは、私が知るところでは(チョン・)インジさんくらいですね。素直に『すごいなー』と思う部分でした。そして何よりも、渋野さんはそれで得た応援を力に変えることができる。“ファンあってのスポーツ”を体現できる素質がある人。そこはアメリカ向きだと思いますね」

渋野の2020年は国内ツアーを主軸にしながら、スポット参戦で米ツアーや海外メジャーに出場。東京五輪への出場から、さらにその先にある「金メダル」という大目標達成に向け試合を戦っていく。そして秋に行われる米ツアーの予選会(Qスクール)を受験し、来季の出場権を獲得するというのが基本路線となる。

そのスケジュール面も考慮したうえで、小田は「できれば出場できる試合でシードを獲得して」米ツアーに参戦することが理想だと話す。ただ予選会を受験することになっても、予選会突破については太鼓判を押す。

「体力、実力的、そして精神的にも問題はないと思う。しかし、イヤというほど練習するタイプのようなので、疲労が蓄積して、あちこちが痛くなるリスクなど体調面は心配ですね。日米を行ったり来たりという生活も負担が大きい。体に違和感を感じた時に、どう対処するかというのは重要になってくるでしょうね」

コロナウイルス感染拡大の影響で、今季の自身初戦になるはずだった米ツアーの東南アジアシリーズ「ホンダLPGAタイランド」(タイ)と、続く「HSBC女子世界選手権」(シンガポール)が中止となった。これによって、描いていた五輪ロードの青写真に多少の狂いが生じていてもおかしくはない。国内開幕戦となる3月の「ダイキンオーキッドレディス」までの調整方法も変わってくるため、その影響もやはり気にはなる部分だ。

そのなかで小田は、コーチや関係者だけでなく、今年から所属契約を結んだサントリーも重要な役割を果たすことになると考える。「(同じくサントリー所属の)宮里藍さんの動き方も分かっていて、それを参考にできるのは大きい。強い後ろ盾になってくれる企業なのかなとは思いますね」。

やはり今年も、大きすぎるまでの注目が渋野に集まることは間違いがない。東京五輪出場から米ツアー参戦へ。渋野伝説の第二章幕開けまで、あとわずかだ。

小田美岐(おだ・みき)/1959年4月5日生まれ、京都府出身。通算6勝。ティーチングプロフェッショナル資格A級も保持している。現在は解説者として国内女子ツアーだけでなく、米国女子ツアーの解説を務めることも多い。

<ゴルフ情報ALBA.Net>