比嘉一貴の賞金王で幕を閉じた2022年の国内男子ツアー。史上初となるアマチュアで2勝を挙げた蝉川泰果やルーキーイヤー2勝の320ヤード砲の河本力、桂川有人ら20代前半の世代の台頭が目立つ中、49歳のベテラン、片山晋呉は賞金ランキング41位で25シーズン連続賞金シードを決めた。シード獲得連続記録はジャンボこと尾崎将司の32年に続く歴代2位。シード権獲得回数で見てもジャンボ(32回)、中嶋常幸(26回)に次ぐ、歴代3位である。四半世紀にわたって第一線で活躍する片山晋呉に話しを聞いた。
これも世界ならでは! 片山晋呉が全英のバンカーで大開脚【写真】
■初シードから25季「やれているだけでも幸せ」
今季は腰痛などもありトップ10入りは2回だが、平均ストロークは「71.272」とアンダーパーをマークし、20試合に出場して予選通過15回と安定感は健在。「〜全英への道〜ミズノオープン」では、最終日最終組で優勝争いを演じるなど存在感を示した。
「可もなく不可もなく。悪くもなく、よくもなく」という1年と振り返る。通算25勝以上の選手に与えられる永久シードを保持しているため、ツアーの出場資格はあるが賞金シードを保持することはツアープロとして第一線で戦っている証であり、ステータスでもある。「(獲得賞金)ゼロ(円)、ゼロ(円)で始まったからね。こうやってやれているだけでも幸せです」としみじみと話す。
水城高校、日本大学とエリート街道を歩んできた片山は、大学3年時に「日本オープン」で3位に入り、当時グローイングツアーと呼ばれた下部ツアーではアマ優勝を遂げている。そして1995年にプロテストに合格して鳴り物入りでプロデビューを果たしたが、95、96年は予選通過ゼロ。3年目の97年に初シードを獲得した。翌春には胸部椎間板ヘルニアの手術を受け、復帰も危ぶまれたが同年8月「サンコーグランドサマー」でツアー初優勝を遂げるなど、20代前半は苦難も少なくなかった。
■20年連続を超えると1年1年が大変
初シードを獲得してから25年、数々の成績を残してきた。2000年は終盤4戦で3勝を挙げて、最大で約6500万円の差を逆転して初の賞金王を戴冠。04年からの3年連続を含む、5度の“日本一”を経験。ジャンボの12回に次いで、青木功と並ぶ歴代2位の記録である。通算勝利数は歴代5位の31勝で、生涯獲得賞金はジャンボの約26億円に次ぐ、歴代2位の約22億7000万円。また、01年の「全米プロ」で4位タイ、09年の「マスターズ」では優勝者と2打差の単独4位に入るなど、海外の大舞台でも活躍した。
デビュー当初は片山自身も今の自分を想像できなかった。「22歳でプロゴルファーになって、『こういうプロゴルファー人生を歩めたら最高だな』って思っていたより4〜5倍幸せですよ」。プロとして二けた優勝することすら想像もしていなかったという。
来季の賞金シード選手は、大学同期の宮本勝昌と並ぶ年長者。唯一ジャンボだけがクリアした25年連続シードもクリアできたのは誇らしい。連続年では歴代3位の藤田寛之が23季、歴代4位タイの手嶋多一、谷口徹は22季で途切れた。「20年を超えると1年1年がきつい。今年また1年乗り切れたのはよくやっていると思います。大変なことはいっぱいあるし、きついこともいっぱいあるけど、それを乗り越えて、こうやってやれているのは仙人ですよ(笑)」。ジャンボの32年まであと7年あるが、「それはちょっと厳しいでしょ。自分もそこまでやる気はないだろうし」と学生時代からの憧れの存在の大記録のすごさを改めて感じる。
■50代Vとシニアの日本タイトル獲得、米シニアが目標
来年1月には50歳を迎え、いよいよシニア入りとなる。ただ、スイングはいまだに若々しい。「スイングは効率的になってきて、球も飛ぶようになっているし、曲がらない。ゴルフの技術に関しては、いいところまで来てますね。あとは老いとの戦い。これだけは人類みなそうですから(笑)」。
最近の悩みは終盤の数ホールという。「歩くのがきつい。残り1、2ホールで切実に感じます」。夏場には終盤の連戦を見越してトレーニングを積んだが、「それでもダメだから、今年の冬はどういう手を考えて、何をしようかなって思います。頭を使ってやろうかなって思います」。シーズンが終わったばかりだが、来季に向けてすでに計画を立てている。
何気なく出た「頭を使う」という言葉。これが “長生き”の秘訣である。海外の舞台を経験して早くからショートウッドを採用したり、6番アイアンは、より高さの出るユーティリティタイプにすることもある。道具に頼りながら、スイングの研究も熱心に行うなど屈強なパワーに勝る技術力をつけてきた。
来季は30名の限られた枠しかない最終戦「ゴルフ日本シリーズJTカップ」の出場と50代でのツアー優勝を目標に掲げながら、「いきますよ、メインですよ」とシニアの世界にも目を向ける。「日本プロシニアと日本シニアオープンは勝ちたいですね。中嶋(常幸)さんしかやっていないですから」。中嶋はレギュラーツアーで「日本オープン」、「日本プロ」、「日本マッチプレー選手権」(1975年〜2003年まで)、「ゴルフ日本シリーズ」の4冠を達成し、シニアでも2冠挙げる日本タイトル最多保持者。片山は、「日本オープン」、「日本プロ」、「日本ゴルフツアー選手権」、「ゴルフ日本シリーズ」の4冠を達成しており、シニアの2冠を一つの目標とする。
また、国内シニアのみならず、海外のシニアメジャー、そして米シニアのPGAツアーチャンピオンズに参戦して、再び世界のトップ選手と同じ舞台に立つことを目指す。そのために効率のいいスイングの完成に力を注いできた。今年は米シニアの予選会がカシオワールドオープンの週と重なり断念したが、来季はスポット参戦で足掛かりをつかむ構えだ。2023年はレギュラーとシニア、二足のわらじを履く元年となる。
■台頭する若手に「すげーな」とは思わない
今季の国内男子ツアーは、優勝者の平均年齢が28.23歳と1985年以降では最年少と若手が躍動した。「(顔ぶれが)かなり変わったね、いいことですよ」と世代交代を喜ぶ。その一方で、「今の道具に慣れているうまさはあるけど、“すげーな”とは思わない。この技術は世界に通用するのってなったらまた違うと思う。もっと磨かなければならないことがたくさんある。世界には同じようなレベルの選手はたくさんいるからね」と更なる成長を期待する。
もちろん世界で戦う選手が増えることを望んでいる。さらに一皮むけるためには「頭を使うこと。世界で勝ちたいとか、世界で勝つにはどうしたらいいんだろうかとか、そこの知恵が出てくるかですね」。20代の選手とラウンドをすると、「もったいないなー」と思うことが多いという。
「世界に行きたいんだったらもっとこうすればいいのにっていうのが見えちゃう。みんな行ったことがないからわからない。俺は行っているし、見ているから、超一流を。普段から考えてやっていない人は、(超一流を)見てもなんも思わない。すごいなで終わっちゃうから」。ゴルフ場の中だけでなく、普段の生活からゴルフのことを考えたり、「人生はいろんな経験をしておかないと出てこない」と私生活の過ごし方も大切。実際、片山はゴルフだけでなく釣りやサーフィンなどの趣味からヒントを得ることもあったという。
片山が若い頃は、「先輩に聞くのが普通だったよね。どう考えてやっているのかとか」。積極的に先輩プロに話を聞いて自分の悩みを解決したり、成長するためにヒントを得ていたが、今の若い選手はそういう姿勢の選手が少ないという。片山のもとによく話を聞きに来るのが、賞金王を戴冠した比嘉だ。今年はヤーデージブックを持たずに感じたままプレーすることを勧めたりもした。「一貴とは普段からかなりいろいろしゃべっている。彼は根性がいいね。ゴルフに取り組む姿が一番。俺の若い時に似ている。彼が(賞金王を)獲るだろうなって思っていました」。帝王学を授ける比嘉の成長を喜んだ。
片山の言葉を吸収した比嘉は見事な1年を過ごした。ジャンボ尾崎以来の“領域”に入っている片山は、日本男子の“知恵袋”ともいえる。レギュラーツアーでしのぎを削る一方、同じ舞台に立ちながらも若手の頼れる存在でもある。2023年、50歳の片山晋呉から目が離せない。
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