
今回の話題は過去に別の媒体で紹介したアダム・スコットの話ではあるが、今年の全米オープンでスコットがメジャー大会100試合連続出場という記録を達成したことを受け、スコットのプロとしての道具選びの繊細さ、奥深さがわかる話なので、もう一度本欄で取り上げたい。
アダム・スコットがこれまでに出場した通算102回のメジャー大会(*26年の全米オープンまで)の最大のハイライトは、やはり2013年のマスターズ優勝だろう。2002年に初出場したマスターズで9位タイの好成績を残し、これまで合計25回に出場して予選落ちはたったの3回のみ。米ツアーで長期に渡って安定したゴルフを続けることができる選手は少ない中、今年7月16日に46歳となるスコットは2000年のプロ転向からずっと米ツアーの看板選手として活躍し続けている。メジャー優勝こそマスターズの1勝のみだが、全メジャー大会での予選通過率は73%とこちらも驚異的。PGAツアーでは14勝を挙げ、押しも押されもせぬトップ選手だ。その上、性格良し、ルックス良しときたものだから、“天は二物をスコットに与えた”と囁かれることもある。いずれにしても、まずはスコットのメジャー連続100試合出場達成を改めてお祝いしたい。


そんなスコットは、プロ転向時からずっとタイトリストのボール&クラブを愛用し続けていた。近年でこそクラブ契約がフリーとなり、タイトリスト社以外のものを使用するようになっているが、ボールだけはずっとタイトリスト・ProV1シリーズを使用している。しかし、常に理想を追い求めて微調整をしていたことも事実。より良いクラブ、そしてより良いボールを求めてきた。

長年、タイトリストでボールの開発・ツアーレップを担当してきたフォーディ・ピッツ氏が話す。
「マスターズを制した翌年の秋、スコットから『もう少し弾道に高さがほしい』との相談を受けました。そこで私は『使用ボールをProv1xに変えてみては?』と提案して調整を始めました。練習場でProV1xを打ってみると、スコットが欲しかった高めの弾道が打てた。コースに出てアイアンショット、アプローチ、パッティングでテストしても違和感はなし。そこで実践投入を決めました。ところが、理想のボールでプレーしているにもかかわらず、スコットの調子は上がらない。結局、2014〜15年シーズンは未勝利に終わってしまいました。そこで、2016年初頭にもう一度ProV1に戻す決断をすると、3月にはいきなり2連勝する快挙を成し遂げました」


この一連の経緯をスコットとフォーディ氏は以下のように分析した。
スコットがProV1xで打つと、理想とする高めの弾道となった。ところが、打ち出し直後にスコットの目に入るProV1xの弾道は、本来は理想とする高さだったはずなのだが、長年使用し優勝を重ねてきたProV1の弾道と比較すると、“高い=高すぎる”とスコットの体が反応してしまっていた。そのため、やはり体が低めの弾道のスイングにしようとしてしまい、スイングが崩れる要因になっていたという。つまり、スコットの理論ではProV1xの高さが理想のはずだったが、その高さに感覚が馴染めなかった、ということだったのだ。そこで、馴染んでいるProV1に戻すと、スコットは水を得た魚のごとくプレーし、すぐ優勝できた、ということのようだ。


このエピソードは本人たちの体験談であるために、非常に示唆に富んでいる。
選手もツアーレップも、そしてボールやクラブの開発者も、より良いギアを求めている。ところが、理想を手に入れても、予想外の現象が起こり、結果が思い通りにならないこともあるという好例なのだ。このエピソードを改めて今年6月にアダム・スコット本人に確認したところ、スコット本人もよく覚えていた。
ちなみに、2023年にスコットは再びProV1xを使用していた時期があった。現在も日本のいくつかのサイトでは「スコットの使用ボール=ProV1x」となっているが、今年6月時点でのスコットの使用ボールはProV1である。このことをスコットに尋ねてみた。
「確かに2023年にはProv1xを使用しました。現在はクラブ契約がフリーなので、さまざまなクラブを使用しています。ドライバーならPING、テーラーメイドなども使用しました。その時のクラブとのマッチングにより、ProV1xを使用しましたが、今はまたProV1に戻しています。良い悪いではなく、マッチングが理由です」
とスコットは語ってくれた。

同じタイトリストのProV1シリーズであっても、モデルの違い、特性の違いがツアー選手には大きな影響を与える。それほど道具選びは繊細な作業なのだ。もちろん、特性の差を感じることができ、弾道やスピンにも差が出せるような技術がなければ意味はない。ちなみに、筆者にはそこまでの腕前はないので、選手の意見を聞いて伝えることしかできないので、ここで皆さんにお伝えしているのである。
ここから先は、皆さんゴルフの腕前や楽しみ方で理解していただければ幸いである。
1990年代からアメリカでゴルフの取材を始め、現在も年間で約30試合の現場に足を運ぶ。 本業はフォトグラファーであり、共同通信の依頼で米ツアーを撮影する傍ら、日本の専門媒体へ記事と写真を提供。 通称“JJタナベ”として親しまれ、選手インタビューから用具、コース運営まで取材対象はゴルフ業界全般に渡る。