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稲見萌寧の2つの基礎練習 地味なことを続けられる強さが賞金女王へと導いた【辻にぃ見聞】

新型コロナウイルスの影響により、2年にわたって行われた国内女子ツアーの2020-21年シーズンの賞金女王に輝いたのは9勝を挙げた稲見萌寧だった。最後の最後まで分からない争いを制したショットメーカーは、なぜわずかな差で逃げ切ることができたのか。上田桃子らを指導するプロコーチの辻村明志氏が強さを語る

■稲見萌寧がコースでスイングばかり考えていても強いわけ

稲見の最大の武器と言えば正確無比なショット。ティショットからピンポイントで落としていける強さが、メジャーを含むシーズン9勝という勝利数につながったのは言うまでもない。

「稲見さんの良さはボールに対して真っすぐに入るフェースアングルとシャローな入射角、これがブレないことです。稲見さんとしても正しいトップポジションができれば、この2つが作られると分かっていて、ラウンド中もそこだけを意識している」

普通コースでスイングのことばかり考えれば、コースと戦えなくなるもの。だが、稲見がほかの選手と違うのはそれがシンプルだということだ。

「ポイントが1、2点だから迷走することもないし、スイングに変な詰まりも生まれません。本人に聞いたところによれば、もはやそのチェックは習慣なのだそうです。自然なことになっているからこそ、チェックしていてもスコアを作ることがおろそかになりません」

ラウンド中にスイングをいろいろ考えた末に崩れていく選手が多いなか、稲見がコースマネジメントもしっかりできている理由がここにある。

■9番アイアンで20ヤード打つ地味練で『悪いとき』が短い

それでも2年間52試合と長くなった今シーズン。調子の良し悪しは避けては通れない。最後まで争った古江彩佳は今年の序盤は優勝することができず、小祝さくら、西村優菜、原英莉花といった強豪たちもみなそれぞれに苦しい時期を過ごした。1年間だけでなくなったことで、その波は誰にでも訪れ、より顕著となった。

そのなかで辻村氏は「稲見さんもいいときと悪いときは絶対あるが、悪いときの時間が短かった」という。また、「シーズンを通しながら成長できていた」とも。それができた理由は稲見の練習の取り組み方にあるという。

「稲見さんは徹底して地味な練習をやっていた。1つの技術をつかみたい、この感覚を忘れたくないという思いを強く持っていたから、どんな練習でも耐えられたのだと思います。その象徴が9番アイアンで20ヤードを打つ練習。インパクト際のフェース面と入射角を一定にする練習ですが。正直に言えば“面白くない”練習です。でも、それを飽きずにできる。基本を徹底できる強さがあるから悪いことが長引かない」

■中途半端な距離も正確に打てるウェッジショット

また、稲見と古江の特筆すべき強さとしてウェッジショットがある。「稲見さんはフェースに乗せて運ぶのがうまい。距離感も素晴らしい。だから、距離のあるパー5の2打目で多くの選手は好きな距離を残そうとしますが、稲見さんはスプーンで結構突っ込んでいきます。ウェッジでの勝負に持ち込める」。その正確性を生み出した練習が、いわゆる3時→9時の振り幅で打つまさに“基礎的な練習”。

最終日の9番パー5でも、残り60ヤードのラフからの3打目をウェッジでやわらかく打って、左手前に切られたピンの手前2メートルに乗せ、バーディにつなげている。フルショットできない中途半端な距離をまったく苦にしていない。

「リストを使わずにオンプレーンで打つこの練習を徹底してやっていました。アプローチでスイングプレーンを意識できている人は多くありません。それがすごくショットに生きている。またアプローチも多彩な技があるわけではありませんが、正確なチップショットでグリーンを外しても大体寄せられる打ち方をしています」

とにかく基礎、基礎、基礎。地味な練習を続けられるからこそ、好不調の波を最大限に短くしてピーク以外でもカップを手にすることができたのだ。その積み重ねが賞金女王というかたちになったのは言うまでもない。

解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子、山村彩恵、松森彩夏、小祝さくら、吉田優利、阿部未悠などを指導。様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。

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