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「片山晋呉の再来」とも… 山下美夢有が持つ強さの三拍子“技術・リズム・ コミュ力”【辻にぃ見聞】

「KKT杯バンテリンレディス」は山下美夢有の初優勝で幕を閉じた。一筋縄ではいかない難コース・熊本空港CCで、なぜ初出場の19歳はトーナメントレコード(14アンダー)を叩き出すことができたのか。今大会では指導する小祝さくらのキャディを務めた辻村明志コーチが分析する。

■ピタリとはまったコース 数字と感性の融合が300万円をより効果的に

舞台となった熊本空港CCはフェアウェイ真ん中に木があったり、ドッグレッグが多かったりとティショットから選手を惑わせるコース。さらにグリーン、フェアウェイともに硬く、ランがいつも以上に出るため縦距離が合わせづらい。パー5もトリッキーで素直に2オンは狙えず戦略性が求められる。一方で総距離は6501ヤードとそこまで長くない。

そんなコースが山下にピタリとはまった。「100ヤードの距離がすごく得意」と話す山下は、言葉通り最終日のパー5で残り100ヤード前後につけて3バーディ。最終ホールはパーだったが、2メートルほどのチャンスにはつけていた。一方で50ヤード前後のショットは「苦手だった」と話していたが、昨年8月に約300万円で購入した弾道測定器・トラックマンを駆使して練習したことで、「5ヤード刻みまでは打ち分けられるようになった」と成長した。その結果、中途半端な距離が残ってもボギーをたたかず。縦距離の精度の高さが初優勝に結びついた。

「山下さんはうまくトラックマンを活用できたのだと思います。今は様々なデータを知ることができる時代ですが、数字を見てネガティブになるのか、分析に持っていけるのかが大きな分かれ目。数字だけ追いかけすぎてもいけないし、感覚だけになってもダメ。ただ、数字というのは絶対的な事実だから、どう感覚に落とし込んでいくかが大事です。例えばグリップのこの位置で、このふり幅で振ったら75ヤード、など。そこには自分の気持ちも入ってくる。それらを踏まえて山下さんは自分の距離感を見つけた。すごくいい利用の仕方をしていると思います」(辻村氏)

■担いだキャディが言った「片山晋呉の再来」

縦距離を合わせられるだけでなく、他にも確かなものを持っている。今週は古江彩佳のキャディをしており、山下と2日目に初めて一緒に回った小畑貴宏氏も驚いたという。

「ショットがしっかりしていますよね。ミスヒットが少なく、球を止められる技術を持っている。普段はドローですが、右のピンのときはドローしない打ち方で攻めていました。(2位になった)ヤマハを担いでいた石井恵可キャディが“片山晋呉さんの再来”と言っていて、大げさだなと思っていましたが、実際に見るとそれくらいゴルフがしっかりしている選手だなと思いました」(小畑氏)

これを隣で聞いていた辻村氏が後を引き継ぐ。「山下さんは小柄(150センチ)ですし、そこまで飛距離が出るというタイプでもありませんから、ドライバーはフックに近いドローで飛距離を出していくことも大事。ですが、それ一辺倒ではグリーンで止めることができません。短いクラブでは左に曲げないように打てる技術があるからこそ、このスコアを出せました。最終日は右ピンが多く、風も吹いて、グリーンも硬かった。決して簡単ではありません。そこで『66』ですから、確かな技術があるということです。

また、優勝会見で“自分のプレーに集中した”と言ったそうですが、本当に自分のスタイルを持っている選手。打つまでのルーティン、テンポがすごくいい。何がいいかというと判断力と決断力。セットアップするまでに迷いがないからスッとアドレスに入れる。変な動作がまったくない。だからこそ、スイングリズムも良くなるんです。それが優勝争い中でもできることが、また強さだと思いました」

■高いコミュ力に礼儀正しさ 渋野日向子に共通する部分

もちろん、技術だけで攻略できるほど甘いコースではない。辻村氏はマナー・礼儀の部分にも注目した。「渋野日向子さんもそうでしたが、人間的にとても立派な選手だと思います。私のような話したことのない人にも、しっかり目を見て挨拶ができる。笑顔で明るい雰囲気を出している選手です」。そんな人間性が生きたのが、コース攻略だった。

「今回、山下さんのキャディはコース所属のプロの方だったと聞きました。普段からコミュニケーションがとれている帯同キャディではありません。少ない時間でやり取りして自分を知ってもらい、連携をとる。普段からそういったことができているからこそ、いざという時でも困らない。所属プロであればコースは熟知している。その情報をトラックマンのときにも言いましたが、うまく取捨選択できる。だからこそ初めての熊本空港CCで勝つことができたのです」

幼少時から父に「ゴルフのことは言われたことはなかったが、マナーは厳しく言われた」という山下。優勝後に何度も感謝を述べた親からの愛情が、初めて手にしたトロフィーへの最後の一押しとなった。

解説・辻村明志(つじむら・はるゆき)/1975年9月27日生まれ、福岡県出身。ツアープレーヤーとしてチャレンジツアー最高位2位などの成績を残し、2001年のアジアツアーQTでは3位に入り、翌年のアジアツアーにフル参戦した。転身後はツアー帯同コーチとして上田桃子、山村彩恵、松森彩夏、永井花奈、小祝さくら、吉田優利などを指導。様々な女子プロのスイングの特徴を分析し、コーチングに活かしている。プロゴルファーの辻村明須香は実妹。ツアー会場の愛称は“おにぃ”。

<ゴルフ情報ALBA.Net>