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今こそ、初心にかえろう【舩越園子コラム】

2021年の年明け早々から米ゴルフ界は混沌とした状況を迎えている。

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今週は世界ランキング3位のジャスティン・トーマスがラルフローレンからスポンサー契約を打ち切られたニュースで話題は持ち切りとなった。契約解消の原因は、トーマスが先週の「セントリー・トーナメント・オブ・チャンピオンズ」の3日目のラウンド中、短いパットを外した怒りに任せ、思わず口にした同性愛(者)に対する侮蔑的な一言だった。

その出来事が今週の「ソニー・オープン・イン・ハワイ」を戦っていた選手たちの脳裏をかすめた場面は、少なからずあっただろうと思う。

自分のミスや不甲斐ないプレーに腹が立った際、思わず怒りの声を上げることは、一流の米ツアー選手たちにも、しばしば見られる。とはいえ、差別的な発言をするわけではもちろんなく、口汚い言葉を発すれば、米ツアーから罰金処分や出場停止処分に科せられることもあるわけで、彼らは日ごろから、そのあたりのマナーには気を配っている。

トーマスもそうだったはずだが、それでも思わず口にしてしまった一言で、トップ中のトッププレーヤーである彼のスポンサー契約が即座に打ち切られた。そんな厳しい現実を間近に見た選手たちは、たとえ何があっても「口は災いの元」という認識をあらためて強めたことだろう。

年明け早々の今、選手たちの気を引き締めているであろうコトが、もう1つある。それは、スロープレーを取り締まる新規定が新年初戦から施行されていることだ。本来なら昨年4月から施行されるはずだった。しかしコロナ禍で延期され、21年の初戦からとなった。

新規定の最大の特徴は、これまでの「組」対象が「個人」対象に変更されたこと。それゆえ、誰のプレーが遅いかが一目瞭然となる。

ペナルティも厳罰化され、従来は1ラウンドに警告2回で1罰打だったが、新規定では1試合に警告2回で1罰打となり、その分、スロープレー常習者には厳しいものとなっている。

罰金も2度目の警告を受けて1罰打を科されると5万ドル(約515万円)、3度目の警告でさらに2万ドル(約206万円)となり、別の試合で再度、同じように2度以上の警告を受けて1罰打を科されたら、さらに2万ドルの罰金となる。

高額賞金を競い合っている分だけ、いろいろな意味で、いろいろな面で、厳しい制約がつくのは当然ではあるが、その分、戦いそのものも一層、厳しいものとなる。

ソニー・オープンの最終日。首位を独走していたブレンダン・スティールは10番のチップショットをミスヒットして25ホールぶりにボギーを喫したあたりから徐々に失速。昨年大会ではプレーオフで敗れ、今年は最終日に首位から陥落して4位タイに終わった。

チリ出身のホアキン・ニーマンは、先週のセントリーではプレーオフで敗れ、今週は終盤に猛追したものの、2位タイに終わった。

頑張っても頑張っても、やっぱり勝てない悔しさを、2年連続、2週連続で味わった彼らの胸中は苦しいだろうと思う。それでもスティールは同組で回っていたケビン・ナやニーマンに「グッドショット」「グッドパット」と、しきりに声をかける姿が素晴らしかった。

だが一番素晴らしかったのは、かつてスロープレーヤーのレッテルを貼られ、激しい野次を浴びせられたナが、この状況、このタイミングで2年ぶりに勝利を挙げたことだ。

一時期のナは、奇妙なワッグルを何度も繰り返さないとスイングが始動できず、「時間がかかりすぎ」「スロープレーヤー」と周囲から激しく批判されたが、彼はわずか数日間で長いプレショットルーティーンを大幅に変え、次なる試合では「別人」のように、さっさとプレーしてみせた。その陰には大変な努力があったはずだ。

そんなナの技術的な部分での支えになっているのは、キャディやコーチ、トレーナーを含めた彼のチームだ。「去年はケガをしたけど、フィジカル・セラピーとコーチの指導のおかげで、すっかり回復できた」。

そして、ナのメンタル面を支えているのは彼の家族だ。

「妻は本当に良くサポートしてくれている。家にいるとき、僕はとてもハッピーだ」

混沌とした時代、厳しい環境だからこそ、足元をしっかり固め、心身ともに健やかにありたい。それは、いわば当たり前のことではあるが、今こそ初心にかえり、エチケットやマナーを重んじるゴルフの精神をあらためて咀嚼(そしゃく)し、着実に歩を進めるときではないだろうか。

文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

<ゴルフ情報ALBA.Net>